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「界」  作者: 緑陰
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第四章 「重剣のバルド」

昼の休憩。街は祭りのような騒ぎだった。屋台の煙、酒の匂い、武人たちの笑い声、賭けの話。あちこちで声が飛び交う。

その中で突然、怒鳴り声が上がった。

「ふざけんな!」

人々が振り向く。人混みが割れる。

そこにいたのは大きな男だった。背には巨大な剣。男の前には一人の武人が倒れている。鼻血を流して地面に転がっていた。

男はつまらなそうに言う。「弱ぇな。これで大会出てんのか」

「やめろ!」「ここは街だぞ!」周囲がざわめく。

男は笑う。「知らねぇよ。弱い奴が悪い」

その時、人混みをかき分けて一人の男が現れた。槍使い。憲兵隊長、鋼牙だった。

「そこまでだ」低い声。場の空気が止まる。

バルドはちらりと見る。「……憲兵か」

「喧嘩は試合場でやれ。街を壊すな」

少しの沈黙。バルドはつまらなそうに肩を回す。「ちっ」巨大な剣を担ぐ。「なら、試合場でやるか」

男は歩き去る。

影はその背中を見ていた。天斬がぽつりと言う。「次の相手だ」

影は何も言わない。

遠くから声が響く。「まもなく!午後の試合を再開する!」

人々が試合場へ戻り始めた。

審判の声が響く。「次の試合!」

司会者が声を張る。「前回優勝者!天膳!」

観客席が一気にどよめく。「出たぞ!」「優勝者だ!」

天膳がゆっくり立ち上がる。仲間が笑う。「久しぶりですね」

天膳は軽く肩を回す。「そうだな」

試合場へ降りる。向かいに立つのは細身の男。黒い装束、腰には細い刀。

「忍びの剣士だ」「速いぞあいつ」観客が囁く。

審判が手を上げる。「始め!」

男の姿が消える。次の瞬間、天膳の背後。刃が走る。

だが空を切る。天膳はもうそこにいない。

横、後ろ、上。忍びの剣が次々に走る。だが当たらない。

「何だあれ」「速すぎる」観客席がざわめく。

忍びの剣士はさらに速度を上げる。奇襲、連撃。すべて当たらない。

やがて忍びの動きが鈍る。呼吸が荒い。

天膳がぽつりと言う。「もういいか?」

次の瞬間、天膳が踏み込む。

一閃。

忍びの刀が宙を舞い、地面に落ちる。天膳の刃が喉元で止まっている。

静寂。

審判が叫ぶ。「勝者、天膳!」

観客席が沸く。「速ぇ!」「何だ今の!」

影はその試合を静かに見ていた。足運び、間合い、動き。

思わず小さく呟く。「……似ている」

隣で天斬がわずかに笑った。

試合場では別の試合が始まる。槍と斧。激しい音が響く。

影はしばらく見ていたが、ふと天斬に聞く。「……あんた、この大会、出たことあるのか」

少し間。

天斬は答える。「ない」

影は少し意外そうに見る。

「興味がなかった」

「……あんたなら優勝できるだろ」

天斬は小さく笑う。「優勝?」そして静かに言う。「必要がない。勝ち負けは人が決める。だが斬れるかどうかは、剣が決める」

影は黙る。

審判の声が響く。「次の試合!」

司会者が声を張る。「初参加にして怒涛の活躍を見せる謎の剣士!影!」

観客席がどよめく。「さっきの奴だ」「霧の剣士」

司会者が続ける。「霧の中で見せた一閃、あれは運か実力か!今まさにその答えが試される!対するは、重剣の使い手!」

試合場の反対側から男が歩いてくる。巨大な剣。地面を擦る重さ。

「出たぞ」「あいつだ」観客がざわめく。

バルドは影を見て、鼻で笑う。「お前か。霧頼みの剣士ってのは」

影は何も言わない。静かに刀に手を置く。

バルドは大剣を持ち上げる。「安心しろ。すぐ終わる」

観客席の空気が張り詰める。

審判が手を上げる。「始め!」

影の次の戦いが始まった。


第四章終~

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