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「界」  作者: 緑陰
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第二十章 「旧道」

街の表側。


天膳一行は依頼主の男と向かい合っていた。


「明日の日没と共に出発します」男が言う。「街外れで合流をお願いしたい」


天膳が頷く。「分かった」


男が去る。



宿へ戻る道。


天膳が仲間に言う。「明日は俺たちだけで動く」


斧男が聞く。「リーナは?」


「宿で待ってろ」


リーナが眉をひそめる。「……なんでですか」


「危ないかもしれない」


リーナは何か言おうとして、やめた。「……分かりました」


猫女は黙って天膳を見ていた。



宿の部屋。


最終確認が終わる。


猫女がリーナの隣に座る。「あたしも残る」


斧男が振り向く。「なんで」


「なんとなく」


天膳が軽く笑う。「好きにしろ」



同じ頃。


街の路地裏。


影は外套を深く被ったまま歩いていた。


闇市周辺。スラムよりのエリア。


視線だけが動く。武器屋。怪しい人の流れ。荷物を運ぶ男たち。


「……動いてる」


小さく呟く。


だが近づけない。憲兵が増えている。正規ルートは使えない。


慎重に。少しずつ。情報を拾う。



スラムよりの路地裏。薄暗い酒場。


影は隅の席に座っていた。


隣で酔っ払いの男が一人、ぐだぐだ喋っていた。


「……最近物騒だな」


影は黙って聞いている。


「闇市もきな臭くてよ」男が続ける。「なんか嗅ぎまわってるやつが居るらしいぞ」


影の手が止まる。


「外套の男だってよ」男が笑う。「馬鹿だよな。もう顔割れてんのに」


「……そうか」影は静かに答える。


(……勘づかれたか)


男がさらに続ける。「仲間の商人がよ、この辺の旧道通った時に妙な連中を見かけたって言ってたんだ」


「旧道?」


「ああ。昔の道だ。今は誰も使わない。荒れてて分かりにくいしな」少し間。「数人うろついてたらしい」


男が首を傾げる。「何かあったんかな、あんな道で」


影の目が細くなる。(……そこか)


「……どこだ、その道」


男が方角を指差す。


影は立ち上がる。「……助かった」


酒代を置いて店を出た。



翌日。


準備以外やることがない一日だった。


斧男が剣の手入れをしていた。弓使いが矢の確認をしている。側近は静かに座っている。


天膳は窓の外を見ていた。



日没。


天膳一行が動き出す。街外れ。合流地点。


馬車が2台。周囲に武装した男たち。一行が合流する。


その時。馬車の幌がわずかに開く。隙間から顔が覗く。


低い声。「……ただもんじゃなさそうだな」


天膳を見ている。少し間。「名は?」


天膳は軽く笑う。「グレース」


幌が閉じる。それだけだった。



馬車が動き出す。旧道へ。人目を避けて。闇の中へ。


斧男が小声で言う。「目的地どこだ」


弓使いが首を振る。「聞いてない」


「なんで言わないんだ」「さあ」


二人は顔を見合わせる。天膳は前を見たまま何も言わない。



天膳たちが出発して、しばらくが過ぎた。


宿の一室。窓が開いていた。夜風が入ってくる。


リーナと猫女が並んで座っていた。


「ねえリーナ」猫女がニヤッと笑う。「天膳のこと好きでしょ」


リーナの顔が赤くなる。「ち、違います!」


猫女がケラケラ笑う。「顔真っ赤じゃん」


「違います!ただ心配で……」


「心配ね〜」猫女が笑う。「それを好きって言うんだよ」


リーナが口をつぐむ。


猫女が続ける。「まあ気になる子なら居るよ〜あたしも」


リーナが食いつく。「え!?誰ですか!?」


猫女はにやっと笑う。「さあ〜」


「教えてください!」


「んー」猫女が天井を見る。「そのうちね」


リーナが唇を尖らせる。「ずるい」



その時。夜風が一瞬、強く吹いた。


猫女の耳がピクっと動く。「……」笑顔が消える。


リーナが気づく。「どうしたんですか?」


猫女はしばらく黙っている。「……確証はないんだけど」少し間。「まずいかも」


リーナの顔が変わる。「え?」


猫女は立ち上がる。「天膳の依頼主ね」少し間を置く。「あいつら、まともじゃない」


「そして」「今頃あっちに向かってる人、心当たりある」


リーナが立ち上がる。「……行かないと」


猫女が頷く。「うん」


二人は部屋を飛び出した。



その頃。影は旧道に入っていた。


暗い。荒れている。確かに誰も使っていない道だ。


進む。木々が生い茂っている。視界が悪い。


足を止める。しゃがむ。地面を見る。足跡。車輪の跡。だが古い。


さらに進む。これという手がかりがない。


(……外れか)


その時。遠くに光。松明の明かり。そして馬車の音。


影は即座に木の上へ移動する。息を潜める。静かに様子を見る。



旧道を進む一団。松明の灯りが揺れる。


「……来るぞ」天膳が静かに言う。


次の瞬間。木々の間から人影が飛び出す。一人。二人。三人――


「多いな」斧男が舌打ちする。「散れ」天膳が言う。



斧男が前へ出る。斧を振るう。ドンッ。一人が吹き飛ぶ。


弓使いが後退しながら矢を放つ。二人が倒れる。


側近は無言で動く。刀が走る。三人目、四人目。


天膳は動かない。刺客が二人、同時に踏み込む。天膳は軽く笑う。一歩。それだけ。二人が倒れていた。何が起きたか誰も見えなかった。


残り三人が立ち止まる。顔を見合わせる。そして踵を返して逃げ出した。



馬車の幌がわずかに開く。黒幕が外を覗く。天膳を見る。幌が閉じる。小さく笑う声がした。



廃村が近づいてきた頃。


弓使いの目が動く。木の上。「……」気配。人の気配。


弓使いは振り返らない。ただ自然な動作で弓を持ち上げる。矢を番える。放つ。


木の上。影は即座に動く。だが――矢が耳をかすめる。「……っ」息を呑む。不意を突かれた。


弓使いが前を向く。「……躱された?」小さく呟く。少し間。「出てきなさい」静かな声。だが逃がさない響き。「隠れてても分かってます」



木の上から音もなく人影が降り立つ。道の真ん中へ。外套。顔は隠れている。


一団がその影を見た。


第二十章終~

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