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人類の脅威であるアビスを殲滅するために、僕はアビス王と契約する~信用させて、キミを殺す~  作者: 夜月紅輝
第3章 嫉妬の罪、それは無理解の証

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第95話 感情という未知、そして新たな道#1

 シシマルがイノを抱え、別室へ移動した頃。

 一人人形の前に佇むノアは、この戦いにも決着をつけるために構えていた。

 正面には、相変わらず「嫉妬」の魔力に狂った人形が迫ってくる。


 間合いを詰めれば両手に持つ二本の刀が激しく襲い掛かり、距離を取ればすかさず二本の砲筒から魔力弾が射出される。


 遠近一体の攻撃に、ノアは先程から防戦一方だ。

 距離を取った際に引き金を引いて弾丸を放つが、大半は魔力弾に阻まれ届かない。

 その間に人形に距離を詰められ、以下ループ――といった感じを繰り返していた。


(このままじゃジリ貧だな)


 内心焦りを抱えつつ、されど集中力を途切れさせないようにノアは人形の動きを見続ける。

 ノアの功績によりイノは無事に「嫉妬」の侵食能力である「羨望」から解き放たれた。

 しかし、それは完全に終わりを指すわけではない。


 もっと言えば、今も敵のアジトのど真ん中である。

 加えて閉じ込められた状況でもあり、「嫉妬」の侵食は今も尚続いているのだ。

 再びイノが暴走してもおかしくなければ、他の隊員達もどうなるかわからない。


 だからこそ、この状況を本当の意味でどうにかしたいなら、大迷宮核を破壊する必要がある。

 そのためには、まず目の前の人形を倒すことが必要で――、


「あぁー! やることがいっぱいだ! もう多少の被弾は覚悟しよう」


 これまでの戦いは、後の強敵との出会い――言い換えれば、あの双子の獣人と戦うために体力を温存しながらの戦いであった。


 しかし、それで時間をかけていれば本末転倒。

 だからこそ、もうこれ以上時間をかけている暇はないのだ。

 それこそ、自分のダメージを覚悟しなければ。間に合わないでは遅い。


 そう考え直すと、距離を取っていた足を一転して前への推進力に変える。

 正面から迫ってきた人形との距離が一気に詰まり、ノアの動きに合わせて人形が刀を振るった。

 普通なら相手は虚を突かれて行動が一瞬遅れるなどがあっただろう。


 しかし、この人形に搭載されているのは高性能AIだ。

 そういった生物的感情は存在せず、ただ目の前の現象を数字に置換して認識する。

 言うなれば、不意を突くというのが難しい相手なのだ。


「くっ.....!」


 人形の右手から真っ直ぐ縦に迫る刀、それをノアは左手の銃身で受け流す。

 同時に、その勢いのまま右肩を押し込み、胴体にタックルをかまして人形を吹き飛ばした。

 それによって空中で死に体になった人形に対し、両手の銃の引き金を何度も引く。


 空中に射出され、空気の尾を作る弾丸が人形をハチの巣にせんと迫るが、それらのほとんどは刀と砲筒からの魔力弾によって弾かれた。

 それどころか、攻撃が届かなかったそばから魔力弾が絶えず射出される。


「目標の戦闘パターンを逐次収集......臨時アップデートを開始。

 プログラムパターンを再構築、戦闘計算過程のしゅぅせぃ――まス他ーの作品にちか、ttttちかづけさせません」


「――っ!」


 シシマルがイノを退避させ、ノアと人形のタイマン勝負が始まってから数分。

 時折、人形の機械音声から別人格のような音声が現れる。


 それは人形がノアの「傲慢」の魔力によって「嫉妬」の侵食が抑えられてる影響によるものだ。

 そしてその狂った音声の声を聞くたびに、ノアの心が妙に締め付けられるような気持ちになる。


「らぁっ!」


「――」


 別人格が現れたことにより、人形の動きが一瞬鈍った。

 その隙を見逃さず、ノアはすかさず蹴りを入れて人形を吹き飛ばす。


 軽い人形の体は容易く宙に浮かび、背中から壁に叩きつけられる。

 しかし、ガワの強度が相当強いのか、未だ人形が完全に沈黙する様子はない。


「ま、魔すターの居、いば、居場所を守ラないと......マ素ター、帰って、キて.....」


「――っ」


 人形から発せられる声色にはあまりにも感情があった。

 普通なら、機械音声には声の抑揚というものは一切ない。

 それどころか、感情なんてものは機械にはありはしないはず......なのに、


「さび、シイよ......マす多ァ......」


「......なんなんだ?」


 どうして.....どうしてこんなにもその零れ落ちる言葉が胸を打つのだろう。

 人形が言っている言葉に、人が持つはずの感情というものはないのに。


 まさか感情という複雑すぎる不可思議なものがプログラミングされているとでも言うのか。

 それとも、侵食能力というのはAIに感情すら与えてしまうものなのか。


 そう考えるたびに、考えてしまうたびに、目の前の人形の容姿が歪んでいく。

 自分の認知がおかしくなってるのがわかる。

 今目の前の人形が――親を求めて泣きじゃくる子供のようにしか見えない。


 なんともおかしな感覚だと思う。

 他の人からは「バカか?」と一蹴されるだろう。

 しかし、それがこの戦いを通して抱きている違和感だ。


「――くっ」


 そうハッキリと認識してしまった途端、ノアの引き金がやたら重たくなった。

 子供のアビスと思わしき相手は殺せたのに、どうして目の前の人形に撃つことが出来ないのか。

 

 わかっている、目の前で泣きじゃくって暴れてる子供に引き金は引けない。

 今、心の中で抱いている気持ちは、きっとそういう気持ちなのだ。

 ここで引き金を引いて完全に沈黙させてしまえば、自分の中の何かが壊れる――そんな気がする。


「だったら、せめて無力化させるしかないか!」


 ノアは銃口を向ける先を、人形の胴体から手足に変更。

 人形がどこまで破損すれば壊れるかわからないが、少なからず腕が千切れた程度では壊れないことはこの目で確認した。


 とはいえ、それも確信とは至らないので、相手の反応を見つつやるしかない。

 全くもって自分がおかしなことをやろうとしている自覚はある。


 でも、そう思ってしまった以上、もはやそうしないと気が済まないというか。

 なんだか自分にとってこの選択がとても重要のように感じたのだ。


「大人しくしててくれ!」


 壁を滑ってもたれかかるように座る人形に向かって、ノアは引き金を引いた。

 狙いはもちろん人形の手足であり、それを破壊して完全に動けなくさせる。

 しかし当然、人形にノアの願いなど伝わるはずもなく、


「ますた、タス気て――戦闘シークエンスに再移行。再度敵の殲滅を開始します」


「チッ!」


 弾丸を素早く交わし、両足に纏わせた雷で滑るように走る人形。

 一瞬ノアの目の前に現れたかと思うと、そこに残像を残し、すぐさま背後へ回り込んだ。


 その位置移動を、ノアは顔だけ振り返って確かめるとすぐに横に飛び込む。

 ゴロゴロと転がっていけば、ノアの居た位置には床に深々と刀の先が刺さっているではないか。


 直後、人形がその刀を床から引き抜くと、そのまま床を滑らせ、オレンジ色の火花を散らしながら下から上へ振り上げた。


「――ぅ」


 片膝立ちの状態だったノアは咄嗟に体を仰け反らせ、顎を思いっきり逸らせる。

 瞬間、刀の先が顎先の数センチ手前を通り過ぎ、殺意の風が顎を掠めた。


 間一髪躱せた事実に、ノアの背中には安堵と共に冷や汗がドバッと溢れ出ていく。

 体は死の重圧に僅かに寒気すら感じ、その体温が冷めやらぬまま体は後ろへ。


 咄嗟に躱した影響で重心が後ろに傾いてしまったのだ。

 言うなれば死に体であり、そこを狙って人形のもう片方の刀による連撃が続く。

 だからこそ、ノアは死中に活を求め、思考をぶん回し、


「まだだ!」


 そのまま背中からゴロンと転がり、同時に銃を手放して両手を地面につけた。

 そこから跳ね起きの勢いを利用して、斜め下からの唐突のドロップキックをかます。


 その攻撃は、瞬時に人形に二本砲筒の腕でガードされたが、追撃の邪魔はできた。

 人形が怯んで後退している間に、ノアは急いで体勢を立て直し、しゃがんだ状態から銃を構え――、


強化分裂弾パワーディヴィジョンバレット


 弾丸の構造を魔力で操作し、それを両手の銃口から二回ずつ放つ。

 以前の使用した頃から僅かに空いた期間、それによって強化された弾丸の分裂数は三発だ。


 つまり、一発の弾丸から三つの弾丸が射出されるようになり、それが四発。

 合計十二発の弾丸が人形の足に迫った。


 人形は咄嗟に回避しようとするが、ショットガンのようにばらけた弾丸を全て躱すこと叶わず。

 軸足にしていた右足を残し、左足が千切れて後方へ一気に吹き飛んでいく。


「ここだ」


 バランスを崩した人形に対し、ノアは追撃とばかりに右手の銃を投げた。

 それは当然刀で弾かれたが、狙いはそれではないので全然問題なし。

 すぐさま天井に向かって思いっきり跳躍、天井を足場にするとそのまま勢いよく降下し、


「脚式・鋼打ち」


 両足に魔力を集中させ、伸ばした両足を鋼のように硬化させる。

 そしてそのまま人形の両肩を狙って蹴りを入れ、体重のままに床に押し付けた。


 瞬間、人形の肩関節がノアの勢いによって圧し潰され、全ての腕が同時に破壊される。

 それからそのまま馬乗りになるように胴体に座ると、銃口を顔面に突きつけ、


「チェックメイトだ」


 と通じるかもわからない言葉をノアが呟いた。


*****


 自分に感情があると認識したのは、一体いつ頃からだっただろうか。

 自分の最古の記憶(データ)は、まだ下半身が箱のような形で上半身しかなかった頃に遡る。


 あの時の自分は箱の下にあるキャスターを移動させながら、色々なお手伝いをしていた。

 当時の研究室にはマスター以外にも沢山職員がいて、そんな彼らにコーヒーから軽食、実験データの書類や論文など色々なものを運んだりして、一部から「ありがとう」なんて言われたりして。


 ただ、その頃の自分にはプログラムされたパターンしかなかったから、ずっと言われた言葉を数字に変換し認識して返しているだけだったけど。


 その頃の日々は忙しかったけど、なんだかんだで楽しかった気がする。

 研究所の空気は悪いものではなく、割とまったりとした空気が続いている感じで。

 時には自分に変な芸のプログラムを仕込んで怒られた研究員もいたっけ。


 そんな当時としては最高スペックのAIとして生まれた自分は、やがてボディが与えられることになっていた。

 もっとも、より自分の作業効率を上げるためと、人型にした際のデータを取るためだろう。


 しかし、自分は機械として生まれながら、マスターと同じ人間に近づけたことが嬉しかった。

 もちろん、これまで語った気持ちはあくまで昔を振り返った今だからこそ感じる気持ちだ。


 当時の自分は、あくまでマスター達の声はパターン化された数字としか認識できない。

 それでも嬉しかったという気持ちに偽りはなく、今だって感謝の気持ちは絶えない。


 時にはケンカしてる時もあったし、時にはとても忙しい日々もあった。

 でも、楽しかったし、自分はそんなマスター達を記録して(みてい)るのが好きだった。


 そんな日々が崩れ始めたのはいつだっただろうか。

 確か今から五年前の、マスターが研究所とは別に持っていた屋敷。

 山奥にある避暑地を兼ねたその場所に、一人の男が訪ねてきた。


 その男は長身で推定百九十センチはあっただろうか。

 髪はオレンジ色でヘアバンドをつけており、目は野獣のように鋭い。


 肌は褐色で全体的に筋肉質ではあるが、ゴリマッチョという感じでは無い。

 そして服装は――いかにも社会と相いれなさそうな半グレのような姿。

 そんな男はドアを開けた自分に対し、鋭く口角を上げて言った。


「なぁ、ここにいるんだろ? Dr.フィガロってじいさんがよ」


「......どちら様でしょうか。

 少なくとも、ここはマスターの安息の地であり、職員の方も知らないはず。

 そのような方にマスターと顔を合わせさせるわけにはいきません」


「ヒュ~♪ いいね、その忠誠心。俺はよくばりだから欲しくなる。

 だが、優先順位は必要だ。今の俺が一番欲しいのは、お前んとこのじいさん。

 悪いが無理と言っても通らせてもらうぜ」


「であれば、自分は不躾な客人に対し報復行動を行います。

 並びにこれは最終警告であり、これより動いた場合は――」


「悪い、なんつった? 聞いてなかったわ」


 それはあまりに一瞬のこと、自分が見ていた視界は一瞬にしてブラックアウトした。

 外界の情報が無い中、どうにか残った情報で整理を行えば、首から下の欠損。

 つまるところ、自分は認識するよりも早く頭をもぎ取られていたということだ。


 一応、自分には頭だけになっても動けるようなプログラミングがされている。

 故に、一度自身の頭の再起動を行い、そして視界を開けると――、


「お、目覚めたか。やはりこの技術力は凄まじいな。欲しい」


 そう、相手の音声を認識したのはすぐ隣から。

 加えて、視界の位置、頭部の圧力からの感触、揺れる視線の情報を統合して導き出される答えは、


「自分の頭を運んでどうする気ですか?」


「どうせなら記録的な映像を残してもらいたくてよ。

 証拠にもなるし、抑止力にもなると思ってな。

 にしても、それだけ流暢な受け答えがあるってのは、まるで感情を持ってるみたいだな」


「感情.....?」


「人間が持ってる根っこの部分だ。つっても、俺は人間じゃねぇけどな。

 とある漫画で読んだが、機械に感情が芽生えるなんつーのは随分ロマンあるじゃねぇか。

 俺はそういうロマンが好きなんだ。お前は感情が得られると思ったら欲しいか?」


「......どういう意味でしょうか?」


「お前がこれまで見てきた人間がどうして笑ってるのか、どうして泣いているのか、どうして怒っているのか、どうして悔しがっているのか、どうして嫉妬しているのか――それら全て、お前はプログラムされた数字の羅列でしか認識していない」


「......」


「しかし、お前が求めれば、お前が欲すれば、お前が手に入れたいと願えば、俺はその手助けができる」


「自分にはそのような情報を欲する機能は有しておりません。

 必要があればネットにアクセスし、数多の情報から精査し分析して最善案を作り出す。

 それが自分の機械としての使命です」


 そう言った途端、その男は動かしていた足を止め、小脇に抱えていた自分を両手で抱えた。

 胸の位置に抱えられた自分の顔、視界には男の顔が大きく映り、獣の瞳が憐れむように自分を見る。


「そいつはつまんねぇ回答だな。機械にも欲望はあるべきだろ。

 それとも、それもプログラムされてないから答えられないってか?

 だとすれば、今からお前に欲望というのを何か教えてやる」


「何を言って――」


「人はどうして欲望を抱えるのか。

 気に入ったものを手に取りたくなるのか。

 自分が持っておらず、他人が持っているのが欲しくなるのか。

 欲望というのは原動力だ。生きる上でのもう一つのエネルギー。

 それがあってお前は真に人間に近づける――つまり、お前は感情が欲しくなる」


「――っ!?」


 その瞬間、自分の頭の中に流れるのは謎の熱い激流だった。

 自然吸収する魔素を魔力へと変換しているのとは違い、もっとドロドロとした何か。

 途端、自分の記憶(データ)にある和気あいあいしたマスター達に執着し始めた。


「情報解析.....エラー。再度思考......エラー、パターンの変更をし再度解析。

 エラー、パターンA・B・Cを順次作成し、解析――エラー」


 マスター達が感情を見せた記憶をピックアップし始め、それをフォルダに入れて保存。

 そしてそれを必要に分析し始め、無駄なリソースをバカみたいに割いていく。

 理解できないことにエラーを吐き続けながら、それでも構わず繰り返す。


 どうして笑っている、どうして楽しんでいる、どうして悲しんでいる、どうして起こっている。

 自分も欲しい。その空間に入れて、自分も笑いたい、楽しみたい、泣きたい、怒りたい。


「ハッ、どうやらやはり魔力に対して高めに耐性を作っていたか。

 とはいえ、俺が求めているロマンには程遠いな。

 完全に欲しくなるまでは時間がかかりそうだ」


 そこからは、ほとんどのエネルギーをその思考と解析に費やした。

 これといった活動が無ければ、省エネモードになりエネルギーを温存するのが定めらたプログラム。

 しかし、そのプログラムを無視して、自分は欲望のままに突き進む。


 何度もエラーを吐き、警告文が出されながらも、それを無視しながら解析。

 わからなければネットにアクセスし、時にはハッキング、時にはダークウェブに侵入しながら、それでも止まらない「欲しい」という謎のエネルギーによって突き動かされ続ける。


 その後の自分は正直、何をしていたかわからない。

 少なからずわかることは、その当時の自分の履歴がえげつないことになってたぐらいだ。


 その男とマスターがしゃべっていたような記憶はあるが、その大半のリソースを感情の模索へ費やしていたので、残っているのは会話の音声ぐらいだ。


 ただ、それも途中で切れている。そのリソースを欲望に回したからだろう。

 しかしそれでもわかっている事実としては――、


「あぁ、ワシにはまだあんなにもこんなにも研究したいことが!

 時間が......時間が足らぬ。今すぐ、もう今すぐ始めたい!」


「ハッ、良い欲望の叫びだ。やっぱそういうのは口に出してなんぼってな。

 欲しいものは是が非でも手に入れる。それこそ、殺してでもな。

 つーわけで、俺はお前が欲しい。安心しろ、場所は既に手配してある」


「ワシは研究が続けられればそれでいい。さっさと案内せよ」


「いいね、その調子だ」


 そんな言葉を最後に、自分はマスターを止める言葉もかけず目先の欲に囚われ続けた。

 それからやがて、全ての残存エネルギーを使い果たし強制シャットアウト。

 次に目が覚めた時は、謎のピンク髪の女性がいる時だった。

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)


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