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人類の脅威であるアビスを殲滅するために、僕はアビス王と契約する~信用させて、キミを殺す~  作者: 夜月紅輝
第3章 嫉妬の罪、それは無理解の証

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第92話  嫉妬という感情、そして暴走のイノ#2

 イノの様子が急変し、突然の敵対行動を取り始めた。

 その事実をノアは重く受け止め、現状の結果に奥歯を噛む。


 見つめる視線の先には、三角形を作るように並ぶイノと人形。

 両者とも完全な戦闘形態であり、もはや言葉での説得は無意味に等しい。

 なぜなら、どちらとも耳を傾ける余裕はないからだ。


 イノの症状は、完全に侵食の影響を受けた人間のそれだ。

 心を支配するのは、醜い「嫉妬」の感情のみ。

 それが唯一の動力源で、動くための理由で、生きるために必要不可欠なものだ。


 また、今のイノを救うためにはシェナルークの魔力を活用した中和しかないのだが、それもイノ自身がノアを敵認定した以上、簡単に行えることは無くなった。


 加えて、仮にイノを無事に捕えられたとしても、その治療を人形が阻む。

 侵食による「発狂」までのタイムリミットがある以上、悠長に時間をかけてられない。


(あと一人.......あと一人いれば!)


 ないものねだりの感情が、ノアの心を僅かにささくれ立たさせる。

 そんなことを今考えても希望だけで現状が変わるわけではない。

 世の中、漫画のようなご都合主義な展開は簡単には訪れないのだ。


 故に、今の自分が取るべき行動は、掴めるかもわからない希望に縋るより、泥臭くても確実に進める道をどんなに足が着かれていようとも前に出すことだけ。

 つまり、イノを治療しつつ、人形の攻撃を躱し続けるという荒業を実行することだ。


 成功するかわからない――いや、そうじゃない。成功するまで続ける。

 少なからず、今の自分にはそれを行える魔力(ちから)が存在するのだ。

 もう指を咥えてテレビ越しに事件を眺めてる時とは違うのだから。


「よし!」


 ノアは銃を一瞬手放し、両手で頬をバチンと叩いた。

 思考の乱れはその衝撃により無駄が排除され、実行するためのタスクだけが残る。

 そして、そのタスクを完遂するためにゆっくり深呼吸して意識を高めた。


 同時に、ノアのその行動が合図となったのか、イノと人形も戦闘形態に入る。

 イノは小さい体をさらに身を低くかがめ、右手にマフラーの端を持った。

 人形は左右に持つ刀と砲筒をそれぞれノアとイノに構え、直立不動の姿勢だ。


 それから、その二人と一機は半時計回りに、互いのタイミングを計るようにゆっくり回り始める。

 互いの等間隔を保ったまま、視線すらも出来る限り瞬きをせず、相手の動きを注視し続けた。

 そして――合図は突然訪れた。


 その合図は、先ほど人形が斬撃を放った際に斬り刻まれた壁。

 そこに張り付いていた破片の一部が傾き、地面に向けて落下したのだ。

 ガンッと鈍い音が、破片を細かく散り散りにしながら、部屋の中に拡散する。


「「「―――っ」」」


 その音を合図に、三人は一斉にピタッと止まり、自身の武器から容赦なく攻撃を開始する。


 人形は自身の左右にある砲筒から魔力弾をイノとノアに向けて一気に放つ。

 弾数ももはや自身の魔力が尽きることも考慮しない数であり、まるでマシンガンのようだ。


 そんな弾に対し、イノは銀色のマフラーを左右に広げて持つとその一端に結び目を作り、それをヌンチャクのように振り回し始めた。


 その結び目を上手く魔力弾に当てて弾き、弾けないものは躱し、さらにはその結び目に雷の魔力を溜めて振りると同時に飛ばしていく。


 そんな右手で丸を書きながら、左手で三角形を書き、その状態で足でステップを踏むような荒業を披露しながら、イノは飛び交う弾幕を上手く処理&攻撃を続けた。


 もはや目の前の敵を倒すことしか考えていない殺意の嵐の中、唯一ノアだけがスタンスが違う。

 人形はともかく、イノに対しては絶対に傷つけてはいけない。

 捕まえる過程で少し手荒になる可能性はあるが、殺すなんて以ての外だ。


 故に、ノアがこの殺意が飛び交う中で出来るのは、人形に向けての銃口には殺意を、イノに向けての銃口は彼女からの攻撃を捌くために、目まぐるしく視線と思考を切り替えながら身に降りかかる攻撃を全てカットした。


 飛び交う魔力弾、弾ける雷球、衝突し跳弾する弾丸。

 今ノア達がいる部屋の中には、その三種の弾が様々な角度から降り注ぐ。


 それはもはや雨を避けるも同じことであり、加えてその雨は天井に当たれば凹ませ、床に当たれば焼き焦がし、壁に当たれば穴を開ける威力だ。


 そんな強制的にダンスさせられるような死のダンスホールがしばしの時間続く。

 しかし、その時間も唐突に終わりを迎える――三人の中から一人が動き出したからだ。


 最初に動き出したのは、一番小柄なイノである。

 弾幕横殴りの殺意を巧みな身のこなし、小回りの利く体格で躱していく。

 そして、彼女が無我夢中で向かっていく先にいるのは、四つ腕の人形だ。


「行かせない!」


 イノが動き始めた直後、ノアも彼女を視線で捉えながら移動を開始した。

 ノアの場合は、シェナルークとの夢想修練で身に着けた動体視力と、反射神経でもって人形からの砲撃を回避&迎撃し、横合いからイノへ距離を詰めていく。


「イノ!」


「邪魔しないで!」


「――ぃ!?」


 その瞬間、ノアの方にギリッと視線を向けたイノが、右手に持つマフラーを振り回した。

 結び目の部分が遠心力で加速を得て、ノアに向かって襲い掛かる。

 その攻撃に、ノアは一瞬瞠目しながら、体はすぐさま腕をクロスさせてガード。


 その直後には、打撃武器でぶつけられたような骨まで響く衝撃が体を胸から背中へ突き抜ける。

 加えて――、


(う、動かない......!?)


 刹那、されど確実にそれはノアの体をビリッと一瞬の硬直させる。

 その原因は、イノの結び目に帯電した雷の効果だ。


 そんな中、ノアの視界の端――人形側からは空気の揺らぎが迫る。人形の放った魔力弾だ。

 無色透明で認識しずらいが、肌に感じる死の重圧から来るのがわかった。


 だから、ノアは自身の魔力を放出し、イノの麻痺をレジスト。

 すぐさま自分に迫った魔力弾を銃のグリップで弾くと、


「優先目標の隙を確認。直ちに処理します――刀雷」


 丁度攻撃を防いだ後隙を狙うように、距離を詰めていた人形が刀を振り下ろす。

 その刀にはバチバチと紫電が走っており、ただの斬撃による一撃ではないようだ。


(不味い......)


 現状の位置、体勢、時間からして躱す時間はない。

 出来て銃身での受け流しだが、それも間に合うかは紙一重。

 咄嗟に右腕を犠牲にするつもりで防御姿勢に入ったが――その時は訪れなかった。

 なぜなら――、


「パパとママを返せぇ! 化け物!」


 ノアに攻撃が届く直前、イノが振り回したマフラーの結び目が人形の腕に直撃したからだ。

 それによって、人形の刀が弾かれ、同時に崩れた体勢から人形が傾いていく。


 その一瞬の隙を見逃さなかったノアが、イノよりも先に鋭い蹴り足で人形の胴体を突く。

 結果、人形は吹き飛び、この場に居るのはノアとイノの二人のみとなった。

 ノアにとってはイノを確保する絶好のチャンスだ。

 がしかし――、


「近寄るな!――特魔隊式格闘術・五寸釘」


「がっ」


 その一瞬生まれた好機もイノによって潰される。

 人形を蹴り飛ばした直後、片足立ちの状態の時に横からイノの蹴りが突き刺さった。


 名前通り釘を打ち付けたような鋭い衝撃が、ノアの鳩尾を深々と抉り、圧迫された肺が強制的に空気を排出させる。

 また、片足立ちという不安定な姿勢もあり、吹き飛ばされたノアは無様な着地で地面を転がった。


「いぁっ!?」


 地面を転がるノアの一方で、味方を蹴り飛ばしたイノに天罰が下る。

 それは人形が吹き飛ばされながら放った魔力弾であり、それが顔面に直撃したのだ。


 イノの顔は衝撃で弾け、体が仰け反る勢いで回転し鼻血が弧を描く。

 そして、その衝撃を小さな体で一身に受け、ゴロゴロと後転して吹き飛んだ。


「がはっ、ごほっ......」


 ノアは鳩尾を左手で抑えながら、痙攣しかける肺を意識的に呼吸することで沈静化させ、同時に視線を左右に巡らせた。


 ノアに蹴り飛ばされた人形は未だ原型を留め、立ち上がろうともがいている。

 しかし、全くダメージが無かったわけではないのか、関節部分がバチバチと火花を散らしていた。


 恐らく、先ほどの蹴りが内部の方にまでダメージを与えたのだろう。

 一方で、吹き飛ばされたイノは、鼻を摘まむことで止血していた。


 先程の一撃による出血で血の気が抜けたかと思えば、彼女の瞳は先程よりも鋭くギラついている。

 瞳に宿る闇は刻一刻と深さを増していき、このままでは取り返しのつかない領域に至るだろう。


 そのためには、やはりイノを優先して捕まえなければいけないが、人形が自分を優先して攻撃しに来ている以上、そしてイノ自身が抵抗する以上、タスク遂行までのハードルが恐ろしく高い。


「でも、それでもやらなきゃだよな......」


 自分が戦うべきはアビス王。

 それもシェナルーク曰く「怠惰」のアビス王より強い存在だ。

 そんな存在と戦うことが決まっている以上、こんな所で躓いてるわけにはいかない。


 心が折れない限り、そして死なない限り挑戦権は残り続ける。

 もはやごちゃごちゃ考える前にやれ――これでいい。


 仕切り直しの第二ラウンド、全員が伏せた床から立ち上がり、全員が相手の挙動に睨みを利かせる。

 イノが豹変してから始まった三つ巴の戦い、それが今だ拮抗してているのはある種奇跡だ。

 そしてその軌跡について、ノアはなんとなく推測が立っていた。


(たぶん、今の状況はジャンケンなんだろうな)


 その感想の通り、現状の結果は三人が目的によって絶妙に噛み合っているからだ。

 例えばノアの場合、現状で優先すべきことは、イノの確保及び治療である。


 そんなイノが執着しているのが「嫉妬」の瘴気を放つ人形で、そして人形は自身が機械であるため、致命的な攻撃になり得る雷使いのイノを避けノアを狙っている――というのが、三つ巴の仕組みだ。


 互いに互いの目的がハッキリしているため、二対一で攻めるという可能性に至らない。

 仮に成立するとしたらイノとノアの組み合わせだが、イノが拒絶してる以上望みは薄いだろう。

 よって、この状況を打破するとすれば、唯一目的を変更できるノアのみ。


「うぅ、ズルいズルいズルい、憎い憎い憎い。

 皆ばっかりパパとママがいて、幸せそうな顔しちゃって。

 ケンカしたからって何? ケンカできるだけいいじゃん! 生きてるんだから!

 許せない許せない許せない、パパもママもいる奴もそれを奪った奴も!」


「くっ、ダメだ......今目的をすり替えては」


 一瞬、人形の破壊を優先しようとしたノア。

 しかし、その思考もすぐに頭を振って拭い去り、目的をイノ一本に絞った。

 今の言葉を聞いて一体どうしてイノを後回しに出来ようか。いや、出来るわけがない。


 確実に症状は刻一刻と進行していて、今の状態はアイドル・アスミを襲った友人そっくりだ。

 その状態でも救う確率を上げるとすれば、今からでも早期の治療を始めるしかない。


 そのためには人形に邪魔されない状況を作らねばならない。

 しかし、いつ人形が止まるかわからない以上、やはりイノを確保するのが一番建設的と言える。


「だあああぁぁぁぁ! 消えろ、化け物ぉ!」


 イノが四足獣のような体勢から一気に走り出した。

 咄嗟にその動きに合わせてノアも動き出すが、初速は雷を纏ったイノの方が速い。

 その全力の捨て身タックルの一度目は、人形にひらりと躱される。


 しかし、イノの「猪突猛進」はそれだけでは終わらない。

 小柄な体形を活かした圧倒的な機動力を活かし、再び天井、壁、床を縦横無尽に動き回る。

 それこそ、残像が尾を引いていくつもの線が形成されるような速度で移動し、


「五寸釘!」


 先程のノアに浴びせた強烈な蹴り技。

 それを移動の推進力も合わせ、人形の背後から一気に襲い掛かる。

 それに対し、人形は気づいていないのか振り向かず――、


「レーダーに死角なし。第二目標の接近を確認、迎撃します」


 直後、関節の駆動域を無視した人形ならではの腕の動きで、砲筒の一つがイノへ向く。

 完全に決まったと思われた瞬間からの避けようのないカウンター。

 加えて、先程よりも魔力を圧縮したであろう光熱が砲筒から瞬いた。


「危ない!」


―――チュドン


 砲筒から放たれる直前、イノの蹴りが届くよりも早く横合いからノアが抱き着いた。

 さながら、それはトラックに轢かれそうになった子供を助けるように。


「――ぃ」


 ノアの間一髪の救出劇、それによりイノは無傷に終わる。

 されど、ノアは腕の一部を砲撃が掠め、高温によって腕の一部をジリッと炙られた。


 そして不発に終わった砲撃はというと、天井と壁の角にぶつかり、巨大な爆発音を響かせる。

 天井と壁の一部が盛大に破損し、雪崩のように地面に土砂が広がっていった。

 そう、土砂が広がったのだ。まさにこの場が光もない異空間の証である。


 そんな光景を、砂埃が舞う中でノアは横目で確認。

 ルカラの言っていた「大迷宮」がようやく理解できた瞬間でもあった。


 しかしそんな意識もすぐに自分の体の下にいるイノに向ける。

 それから、断続的に感じる火傷の痛みに堪えながら尋ねた。


「イノ、大丈――ぶっ!?」


「邪魔しないでって言ったよね!?」


 瞬間、鋭く伸びた両手によってイノの気道が急激に絞められた。

 下敷きになっているイノが、仰向けの状態からノアの首を絞めているのだ。


 咄嗟にイノの手首を掴んで放そうと抵抗するノアだが、酸欠と痛みによって力が上手く入らない。

 しかしそれでも、イノと接触が出来たことは確かだ。

 だから、この状態でイノの治療を開始する。


「い、イノ.......お、ぃついぇ」


「うるさいうるさいうるさい! さっきからイノの邪魔ばっかりして!

 イノは言ったはずだよ! 邪魔するなら敵だって!

 破ったのはそっちだから! イノは悪く無い!」


「ぅん、わぅくない。だい.....ぞうう”......だぁら、おぃういぇ」


 イノを止めるための全力疾走からの首絞め攻撃。

 ただでさえ空気を必要とする有酸素運動の直後の出来事だ。

 ノアの顔は急激に真っ赤に染まっていき、出す声も掠れていく。

 それでもイノの首絞めは止まらない。


「何が『大丈夫』だよ! どうせノアちゃんはこれまで幸せに生きてたんでしょ!

 パパもいてママもいて友達もいて!

 ここに来たのだって、どうせ自尊心を満たすためなんでしょ!

 イノは......イノは違う! イノは復讐のためにここにいるの!

 パパとママを殺すための復讐を! だから、邪魔しないで!」


「ぼぅも、お、おなぃ.......ぁ」


「......え?」


 ノアが魔力を放出し続けた影響か、イノの暗い瞳から少しだけ闇が晴れる。

 それによって届いたノアの主張、それと同時にイノの首絞めの力も一瞬緩んだ。

 その一瞬の隙を逃さぬよう、ノアは片方の手を首から引き剥がすと、


「俺にも家族はいない!」


「――っ!?」


「父さんは俺が生まれる前に死んで顔も見て無ければ、母さんも小さい頃に病気で死んだ!

 俺は一人っ子だから家族はいないし、引き取られた幼馴染の父親も目の前で殺された!」


「――ぅぁ」


「復讐!? それなら俺だって同じだ!

 いや、むしろ誰よりもアビスを殺したいと思っているのは俺自身!

 そんな俺の絶対的な尊厳は、例え仲間であろうと絶対に否定させない!

 それでもまだ言うか!? 言うってんなら相手になるぞ――イノ=ロックフェルト!!」


 ノアの口から吐き出される言葉の数々、それは本来ノアの性格的に言うはずのない言葉だ。

 それでも出てしまったのは、ひとえに酸欠であったから。


 思考に一番重要な酸素が足りず、それでいて一方的な感情をぶつけられる。

 そんな怒りに耐えきれるほど、ノアの理性は正常に働いていなかった。


 加えて、今がイノの治療のためにシェナルークの魔力を放出していたのも大きいだろう。

 シェナルークは「傲慢」を司るアビス王であり、先ほどの発言はノアのプライドを攻撃するものであった。


 故に、それによって触発された感情の爆発は、ある種ノアの魂の叫びとも言えるだろう。

 その結果、ノアを中心に「傲慢」の瘴気が爆発的に広がっていく。

 そして、それはイノだけではなく、ノア達の背後にいる人形にも影響を及ぼし、


「プログラムに異常発生。未知の魔力を確認。

 サンプルを取得し、動力コアへ魔力変換を検討――異常、異常!

 魔力の絶望的な背反反応を確認」


 そう自動音声を鳴らし、人形は刀を持つ両手を放し、頭を抱え始めた。

 それはさながら苦悶する人のような仕草でもって。

 さらに人形の変化は続く。


「動力コアに異常侵食、ぷ、プログラムに変化......戦闘シークエンス一時中断。

 わ、ワタしはマスターのオ役に立つ汰メの存在。

 ソれが私乃存在意義でアり、ワたシが私であル存在証明。

 寂しサで嘆い手イる暇はなく......デも、魔スたーは私ヲ捨テて.....」


 「傲慢」と「嫉妬」の魔力がせめぎ合っているのか、自動音声が再びガタガタしたものになり始めた。

 全く偶然ではあるが、この瞬間に治療のための時間が生まれる。

 当然、ノアはそれを逃すわけにはいかない。


「イノ、よく俺の言葉を聞け! もう君は一人じゃない!」


「一人、じゃない? ......本当? 」


 ノアの言葉がちゃんと届くようになったのか、イノのもう片方の手が首から離れる。

 同時に、まるで今にも泣きそうな子供ように瞳が潤んだ。

 だから、ノアは大きく頷き、


「あぁ、本当だ。君には守るべき大切な弟がいるはずだ。

 それに、アルス代表もいるし、これまで一緒に戦ってきた友達もいる。

 そして今は俺だって君を大切に思う一人だ。

 俺だって君を一人にしてやらない」


「――っ」


「確かに、もう失った過去は戻らない。

 イノにはお父さんもお母さんもいない事実が付きまとう。

 だからこそ、今の現実を大切にしてあげなくちゃ。

 イノならたくさんの守りたい人達がいるはず。

 その人達のために戦おう。もちろん、俺も一緒に戦う。

 もう目の前からいなくなって苦しい寂しさを味合わないように、この現実を共に変えよう」


「ノアちゃん......」


 ノアの言葉がどこまで届いたかわからない。

 しかし、聞かされた情熱的な言葉に対し、イノはそっと手を伸ばした。

 その手が向かう先は首ではなく、土埃で汚れた頬だ。

 そして、その頬を親指で優しく撫でれば、


「それじゃ......一人にしないで」


 そう言った直後、手はガクッと落ち、イノは静かな寝息を立てた。

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)


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