第88話 前哨戦、そして敵の魔窟#2
午前十時三十分、山奥にある廃屋敷――通称、『Dr.フィガロ研究所』にて作戦は決行された。
その屋敷に正面から挑むのは、アルスを筆頭とする、ノア、イノ、シシマル、ザブロー、ラダンマ、ルカラ、ミッシェルの八人で構成された黄のパレス特別精鋭強襲部隊。
それに対し、屋敷から誰かが出てくる気配はない。
まるで自分達が屋敷に入ってくることを望んでいるように――否、違う。
その必要性が無いからかもしれない。なぜなら、そこから駆動音が響くからだ。
―――ガコン
直後、屋敷の表面の一部が変形し、そこからいくつもの銃口が現れる。
いや、そのノズルの銃口の大きさからして砲筒に近く、それが屋根に等間隔に配置されていた。
また、屋根の一か所が開くと、そこから大量のドローンが空中に飛び出し、並びに地上にも四足歩行型の小型ドローンが大量に現れる。
さながらハチの巣を突いたように――というのが、この状況に際して一番正しい表現だろう。
「あらま、随分とたくさんのお出迎えね。でも、全部無機物であまり嬉しくないわ」
「加えて、見た感じあのドローンの一つ一つがかなりの高性能って感じ。
そんな貴重なものをバンバン使ってくれやがって!」
そんな光景に、ラダンマがげんなりと、ルカラが憤慨とそれぞれ対照的な反応を見せた。
しかし、それでもこれからやることは変わらない――ドローンの群生をかき分けての強襲だ。
その指針だけはブレないことを示すように、先陣を切るアルスが棍棒を右手に持ち、
「邪魔だ」
バチッとその場に雷光を残す。
刹那、現れたのはそこから十メートルほど屋敷に近づいた位置だ。
圧倒的な初速から繰り出される突きは風をも置き去りにし、一本の槍となる。
直後、置いてかれた風が慌ててアルスに追いつき、それが爆風となってドローンを噛み砕いた。
「同感でござる!」
「そんじゃ、イノ達も行くよ! シシマル!」
「おうよ、姉ちゃん!」
アルスの行動に伴い、ザブロー、イノ、シシマルの三人が動き出した。
ザブローは納刀状態から左手で鍔を押し上げ居合斬りの体勢に入る。
そこから自ら動き出し、正面からやってくる空・陸のドローンに対して一閃。
もやは刀身すら見せないような高速の一撃でもって数多のドローンを鎧袖一触する。
対して、イノとシシマルのは少しだけ違った。
というのも、子供のような身長のイノがシシマルの片手の上に乗ったのだ。
右足一本で立つイノと、それを片腕で支えるシシマルが巧みな曲芸を披露するように。
「行くぞ、姉ちゃん!―――どりゃあああ!」
瞬間、シシマルはイノを乗せた手を振り被ると、思いっきり投げた。
阿吽の呼吸で重心移動をし、シシマルの投げを邪魔しないようにイノも移動。
その姉弟の協力プレイにより、イノが砲弾のように打ち出される。
「よーし、頑張っちゃうよ!」
そう言ってイノは自らのアビスリングに魔力を宿す。
すると、そのリングが変形し、イノの首に巻き付いた。
その姿はさながらマフラーのようになり、それをさっと握って首から離すと、
「ていや!」
自らの小さな体を活かして、体を回転させる。
それに伴い、イノの持っていた金属製のマフラーも回転し、ミニ竜巻がドローンを襲った。
鋭い切れ味をもったマフラーがドローンを切り刻み、風に乗って残骸をバラまく。
「オラ、テメェらも姉ちゃんに続けぇ!」
姉をぶん投げた後、その活躍を見ながらシシマルも前線に乗り出した。
姉の行った位置を追いかけるように獣人の強靭な足で大地をかけると、右手に武器を作り出す。
その見た目を一言で表すのならば、釘バットだ。
もっとも、先端が尖っているため、釘バットよりも危険かもしれないが。
それをブンブンと振り回し、ドローンを撃ち返すというよりは打ち砕きながら進んでいく。
もはや暴力的な殺意の塊に、いくつものドローンが粉微塵へと姿を変えた。
「うわぁ、凄い......」
そんな光景に対し、ノアはドローンを応戦の傍らに脱帽の声をあげる。
率先して前に出て行った四人が出てくるドローンをあっという間に蹴散らし、同時にヘイトも買ってくれてるようで、自分がやっているのは大方残りものの処理だ。
「相変わらず、あの四人は馬鹿みたいに突っ込むわね。
ま、そのおかげでアタシらも楽できてるって感じなんだけどさ」
主に空中のドローンを撃破しているノアの横から一人の女性が声をかけてきた。
ピンク色の髪に褐色の肌をした女性隊員――ミッシェル=ロバーツだ。
そんな彼女は今の状況に若干のダルさを見せつつも、一度大きく伸びをすると、
「でも、こういう時こそ一番槍ぐらいは努めないとカッコつかないじゃん?
というわけで、アタシは先に屋敷の中に入ってみるから、君はゆっくり来な――英雄君」
そう言葉を残すと、ミッシェルは足に脚甲のように銀の靴を履き、バチッと音ともに消える。
その動きはアルスと同じような雷速の移動であり、気が付けば前線へと追いついていた。
相変わらず、ここのパレスは属性が雷に偏っているためか移動が速い人が多い。
聞けば、人間の体も電気信号によって機能しているらしく、それを応用しているらしい。
もちろん、それはノアには出来ないことだ。魔力を借りて身体能力を追いつくのがやっと。
そんなことを思っていると、左右から大剣とハンマーをそれぞれ担いだラダンマとルカラが現れ、
「相変わらず面倒とかいいながら、目立ちたがり屋なんだから。
ああいう率先していく組みがあると、バランスを取って後方処理に回った方がいい。
というわけで、私達はゆっくり行きましょ? どうせ目的地は目と鼻の先だし」
「そうですね。それで......ルカラさんは大丈夫ですか?
先程からなんだか気分が悪そうに感じますけど」
「大丈夫よ、ただ憧れの天才発明家の作品を壊して気持ちが沈んでるだけだから」
「うぅ......頼むから一つぐらい新品のまま残っててくれぇ.....」
そう呟きながら、ルカラは苦しそうに目をギュッと瞑った。
その後も口からは呪詛のように「頼む頼む頼む頼む、てか壊すな.....」と呟いており、なんとも科学者らしい悩みの種が垣間見える。
ともあれ――、
「これで無事に......ってそんなあっさりじゃないですよね」
「でしょうね。だって、さっき動いてたのはあくまでドローンだけ。
つまり、小手調べってことでしょ。ここからが本番よ」
そのラダンマの言葉の直後、屋敷の至る所にある砲筒が一斉に動き出した。
それぞれが目標である自分達に照準を向け、銃口に光を瞬かせる。
その刹那、集まった光が鋭く打ち出された。
それが地面に着弾すると、半径十メートルの大地を吹き飛ばすような爆発が起こる。
一瞬の爆風と、それに伴う衝撃波が足元をすくうように駆け抜けた。
それこそ、しっかりと足を固定してないと仰け反りそうなほどだ。
そしてその一発の威嚇射撃を皮切りに、全ての砲弾がライトアップされた会場の証明のように輝きを放ち、
――ドドドドドドドドド
まるでその場一帯の有機物を余さず殲滅するような一斉掃射が行われる。
その爆発の勢いはこの場の地図を書き換えるようであり、爆発による粉塵で視界も遮られるため、余計に近づきがたくなった。
加えて、それだけではなく――、
『ノアさん、屋敷の方向から大量の高魔力反応。
魔力パターンから同じくドローンと思われますが、魔力の質が異常です。
恐らく、先程よりもハイグレードか、自爆機能を有してると思って対処してください』
というオルぺナからの情報により、この無限に続くような砲撃の嵐の中、さらに空・陸のドローンまで対処しなければいけないらしい。
なんとも殺意マシマシな編成である。いや、それも相手が殉教者であれば当然か。
その時、正面に覆われた砂煙の晴れた隙間から二つの光が瞬いた。
直後、その砲筒から打ち出された光の砲撃が二本ともノアのいる位置に目掛けて飛んでくる。
「斬雷」
「衝撃波!」
すると、咄嗟に銃口を向けたノアよりも早く、二つの攻撃がそれぞれの砲撃に対処する。
まず一つがラダンマの大剣から繰り出された巨大な雷の斬撃だ。
それが砲撃に着弾し、空中に巨大な花火を咲かせる。
それとは対照的に、ルカラの攻撃は砲撃に対する迎撃ではなく――「反射」であった。
向かってくる砲撃に対し、タイミングを合わせてバッター顔負けのフルスイングを見せ、ハンマーでもって砲撃を撃ち返す。
すると、本来なら爆発してもおかしくないところを、砲撃が綺麗に軌道を曲げ、攻撃してきた砲筒並びにそこら辺一帯の砲筒諸共、全てを破壊していった。
「だあああああ、やっちまああああああぁぁぁぁ!」
もっとも、撃ち返した当の本人は膝を折るほどのショックを受けているが。
にしても、先ほどの砲撃の軌道はあまりにも不自然であった。
そしてルカラが白のパレス所属と考えると、ルカラの魔技は見ての通り――
「ルカラさんの魔技って『反射』ですか?」
「う~ん、『反射』も出来るって感じかな?
アタシの能力の根本は『衝撃波』だ。
どんな状態からでも、無の体勢からでもインパクトを放てる。
それを応用したのがさっきの技の反射で、でもさすがにアタシが撃ち返せる威力に限るけどな」
「なるほど......衝撃波ですか。
いいですね、特にアビスの固い体に防御貫通の攻撃が出来る辺り」
「そのせいでめっちゃ隊員役職に進められたけどな。
でも、アタシはモノづくりの方が好きで......んで、結局折衷案で命令されたら出動するってなっちまった。
そっちだって好きで戦場に行ってるわけじゃないことは知ってるが、それでもこんな場所にはいたくないな」
そう言うルカラの顔は、本当に申し訳なさそうに眉尻を下げていた。
ルカラも同じく戦場に行く身であるためか、そのような気持ちが理解できるのだろう。
実際、こんな地獄に突っ込むのは狂人か特異種しかいない。
そういう意味では、自分は自ら戦場に臨んだ特異種にあたるのか。
いや、そもそもこんな怪物がいなければ、自分がここに立つことはありえないから違うかもしれない。
「それじゃ、噂の英雄ちゃんの魔技は一体どんなものなのかしら?」
そんな話をルカラとしていると、途中まで話を聞いていたのかラダンマが話しかけてきた。
その質問に対し、ノアは自分の銃を見ると、
「僕の力は少し特殊で、他者から魔力を貰う必要があるんです。
で、恐らくその性能は他者の魔力の性質ごとに変化するって感じで。
これまでは白魔力が通常の銃形態で、青魔力がショットガン型の銃剣でした」
「へぇ、面白そうだな。見せてくれ!」
「見せること自体は良いですが、一度装填したら撃つまで能力が解除されず、加えてたぶん一発撃てば目の前の屋敷が全て吹き飛ぶと思いますが.......いいですか?」
「それはダメだ!!」
ノアの言葉を聞いた瞬間、ルカラが血相を変えて首を横に振った。
先程のドローンや砲筒に対しても、壊して後悔していたほどの人物だ。
案の定、返した言葉は実行を否定するような言葉。
とはいえ、それはある意味殉教者の殲滅という意味では理に叶っているのだが。
「そうね、それが確かなら任務は捗りそうだけど、もしかしたら何かアビスに対する有効手段があったりするかもしれない。
それを考えれば、迂闊に全てを吹き飛ばすというのは避けた方がいいかもね」
「ラダ姉の言う通りだ。というわけで、それは最終手段とさせてもらおう」
「わかりました」
「それじゃ、そろそろ私達もおしゃべりはこの辺にして、前の集団を追いかけるわよ」
ラダンマの声に、ノアとルカラはコクリと頷く。
それから、一斉に爆撃と爆風、粉塵に満たされた戦場へと駆け出した。
地上から四足歩行のドローン、空中からは飛行型ドローンと砲撃の嵐が迫る。
砲撃は正に瞬きの速度でやってきて、その砲撃に伴う熱は触れずとも火傷しそうなほど。
しかし、それに注視していれば、死角からドローンが自爆特攻を仕掛けてくる。
「あー、鬱陶しい!」
「もう、そんなカリカリしないの」
「ドローンは俺が引き受けます。お二人は砲撃だけ意識してください!」
そんな業火の大地の中を、ラダンマとルカラが先陣を切って砲撃を捌き、その数メートル後ろから小回りの利くノアが銃撃でもって小型の処理でサポート。
その勢いのまま真っ直ぐ走り続けると、やがて砂煙の視界の中に屋敷の入り口が見えてきた。
「見えた!」
「どうやら先に入ってるようね」
ラダンマの言う通り、屋敷の扉は少しだけ開かれた形跡がある。
周辺にアルス達の姿が無いということは、状況証拠的に先に突入したと判断できるだろう。
というわけで、ノア達も漏れなくその扉にタックルするような形で入ると、
「誰も......いない?」
「いや、それは問題ないわ。それ以上に、戦闘形跡がないことの方が不自然」
周囲を見渡して呟いたノアの言葉を、ラダンマが拾い上げ冷静な状況判断を下した。
確かに彼の言う通り、床、調度品、目の前の中央階段と至るまで何の傷もない。
普通に考えれば、突入してきたところを強襲してもおかしくないのに。
「それに不自然な個所と言えば、妙にここら辺は魔石が多いな」
「魔石?」
「魔力を含まれた結晶のことよ。たまに炭鉱とかで取れたりするの。
で、その魔石の魔力を消費することで、実質タダで魔技を使えるってわけ」
特魔隊に入隊してからまだ一か月のノア。
特魔隊の基礎知識に関しては、まだまだ知らないことが多い。
これでも一生懸命学んでる最中だが、ここ最近は雑務&戦闘で勉強する暇もなかった。
そんなノアが現在進行形で学びを得ている最中にも、ルカラの眉根は寄り続ける。
「魔石を使う手段は様々だ。
例えば、足りない魔力の補填であったり、生活品の代用だったりな。
後者に至っては、現在でも電力に変わる新エネルギーとして研究が進められてる。
そして何より魔石の優れた点は――技を選ばないことだ」
「技を選ばない......さっき魔力の補填って言ってましたけど、どんな魔力にも対応できるんですか?」
魔力は基本的に血液型のように個人によって型が存在する。
故に、基本的に魔力の受け渡しは難しく、それが出来るノアがだいぶ異質なのだ。
しかし、魔石に至ってはそうでもないようで、
「魔石に含まれる魔力ってのは、アタイ達は『自然魔力』って呼んでるが、それには型が存在しない。
存在しないからこそ魔力を持つ奴なら誰にでも使えて、それこそ儀式の代用にもなる」
「儀式の代用......」
その言葉を聞きながら、ノアの目線は天井方向へ向いた。
最初に見えるのは豪華なシャンデリアだが、そこを中心として八方に糸が伸びている。
その糸には等間隔に魔石がぶら下がっており、姿だけ見ればイルミネーション用の飾りだ。
しかし、それが全て儀式用の魔石だとすれば、先に行ったアルス達は――
「二人とも敵よ。警戒して」
ノアが思考している矢先、ラダンマの警戒の声が耳をつんざく。
それによりノアの意識がすぐさま切り替わると、二階から黒紫色の装束に身を包んだ集団が現れた。
フードを被っているのか顔は見えず、されど長い裾から飛び出した二本の刃がこちらへの敵意を物語っている。
そして一拍、総勢十名の集団は二階の柵を足場にして、一気に地上に降りつつノア達を強襲した。
その集団に対し、ラダンマとルカラは容赦なく巨体の武器を振り下ろし、片や一刀両断、片や肉体がひしゃげるスイングでもって弾き飛ばしていく。
殉教者と言えど、相手は人間だ。つまり、今は人間同士の殺し合い。
依然、アイドル・アスミを救うために手加減したゴム弾を使っている場合じゃない。
言うなれば、ここで問い質されているのは――ノアに人間を殺す覚悟があるかどうか。
それはアビスになった元人間ではない。
アビスになる前から人間であり、アビスと同じ自分達を害そうとする敵意を持つ存在。
そんな存在に対して、ノアは――
「もう既に戦うべき敵と定めた」
一切の迷いなく、曇りなき紅の殺意を向けて引き金を引いた。
銃口から射出された鉛色の弾丸が、空中で回転しながら空気の層を斬り裂き突進する。
その進行方向にいるのは武器を持った殉教者。
「がっ」
弾丸は見事に殉教者の胸部に命中し、その敵は空中で絶命する。
どうして撃てたのかと問われれば、思い返すのは新幹線での出来事だ。
そこに現れた殉教者は明確な悪意を持っていた。
それこそ、自ら纏う「嫉妬」のアビス王の魔力で他者を侵食までして。
それと比べるは、アスミを襲った同級生の殉教者である。
あの殉教者は、言うなれば被害者だ。
元々はただの人間であったのに、無理やり殉教者にさせられてしまった。
その明確な違いがある以上、目の前にいる存在は敵でしかない。
一部の殉教者がやられた影響か、一階に降りた残りの殉教者達はノア達を囲むように移動する。
それに対し、ノア達は背中合わせになって周囲を警戒し――
「――!」
一人の殉教者が武器を大きく頭上にかざす。
それが一斉攻撃の合図かと思えば、そうではなく――というか、何もしない。
そのことにノア達が困惑していると、
「な、なんだ!?」
ルカラの声、それと同時に足元が眩しく輝き始めた。
床には大きな陣のようなものが光で描かれており、その光がノア達を包み込む。
そしてその光量が刻一刻と強くなり、やがて視界を白く塗り潰す最中――
「魔法陣だ、警戒し――」
ルカラの叫び声を最後に、唐突に音が消える。
しばらく目を焼いた光、それにも視界がだんだん慣れ、ノアはゆっくり目を開けた。
瞬間、すぐにノアの視界に飛び込んだのは、
「どこだここ......?」
もはや何も見えない、黒に塗り潰された世界だった。
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