表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/28

024▼場所:『落し物の黒い廃屋』……語り手:『やさ男』

 ◆◆◆場所:『落し物の黒い廃屋』……語り手:『やさ男』

「ねぇ、ここに落としたの? つうか、一人で大丈夫?」

 《まぁ、いつものことかもしれないけど》と、『ショートヘア』が、自慢の黒塗り『MOVE』の中から、いつもの調子で溜め息一つ。

「あぁ、落したケータイ拾ってくるぐらい一人で十分。お前は、ここで待ってりゃいい。それに、『お前とのあの夜(例の夜)』よりは、ヒドくないと思うぜ?」

 《だから、大丈夫だろ、きっと》と、僕は、『片目を(つむ)ったまま』で続けとく。

 《おいおい、皮肉げだな》と、『ショートヘア』が、『自嘲気味』に車の窓を閉める。

 僕は、窓越しでも聞こえる『BGM・天国と地獄(クラシック)』を聞きながらに、『廃屋』へ向かう。

 ――そこはよくある『古民家(こみんか)』。

 最近の流行じゃそう言われるような代物でも、人が住んでなければ、ただの『廃屋』。何が出ててもおかしくないような『ボロ小屋』だ。街の中っていっても、大学が出来るまでは田舎だったみたいなもんで、こういったところが少なくない。

 『ショートヘア』から借りた『ケータイ』の『全地球測位システム(GPS)』を頼りに落とした場所を探したところ、ここに行き着いたってわけで。

「――」

 中は暗い。

 いや、黒い。

 古い建物なのか、『木製の扉』は朽ちていて、すぐに土間が広がる。

 僕は(つむ)ってた片目を開きながらに、『電話』をかける。

「ヴーヴーヴー」

 電子音がすぐ返る。

 それは、僕の『ケータイ』の『振動(バイブレーション)』が返す音。

「ヴーヴーヴー」

 黒の中、断続的な点滅。

 携帯の点滅で明るくなるたび、目の前にいる影を照らす。

「――」

 僕の『ケータイ』を偶然に拾ってくれた人物。

 きっと、とても親切だから、服の中に大事に入れていてくれたんだろう。

 それか、どっかの手癖の悪いヤツが無理やり入れたのかもしれない。

 ――まぁ、そんなことはどっちだっていい。

 もの言わぬ影から、返してもらわないといけない。

 『ケータイ』と、もう一つの『大切なモノ』を取り戻さないといけない。

「なぁ、もう終わりにしよう」

「――」

 影は答えない。

 ただ、『沈黙』を返すだけだ。そんなのは、この異様な雰囲気からすれば当たり前。

 あの『白の幽鬼』にあった夜と同じ、【殺人視考(僕)】が恐怖したあの『戦慄の旋律(雰囲気)』が重々しい。

 穴が開いた屋根から差し込む『月光が赤く』見えようと、それが何だってんだ? 

 おかしな光景なんて、おかしな考えなんて、『いつも視てるモノ』と一緒じゃないか。

 恐怖なんて『錯覚』だ。ただの、『幻想』だ。

 ――そんなモノはもうどうでもいい。

 腹をくくって向かい合えば、どうってことはない。……もう、【あの夜】とは違う。

「終わりにしよう」

 近づいて、近づく。

 『一足一刀の間合い(射程圏内)』をさらに割り込んで、近づく。

 『じり』、『じり』、『じり』と、近づく。もう何回、近づいて、こうやって近づいたか忘れた。

 だけど、近づかないと始まらない。――そうしないと、返ってこない。

 『ケータイ』も『大切なモノ』も返ってこない。

「――なぁ、もう戻ってこい」

 触れた。

 影に触れた。

 冷たく凍てつくように氷のようなガラス細工に触れた。

「――ッ」

 突然の『閃光』。

 気づいたときには、『銀光』。

 僕の『頚動脈』をギリギリの皮一枚切り裂いて、『月光』が走り抜ける。

 その軌跡はとっさに()けなければ、僕の首を切断していた斬撃だった。

 クソッ、首筋から血が出てんのか?

 焼きを入れられたようにアツイじゃねぇか……。

 ――やっぱり、洒落にならないことになっていやがった。どっかの馬鹿が刺激しすぎて、おかしくなってやがる……!

 もう、誰も信じられないって言ってるヤツが、人に騙されっぱなしのヤツが、とことん追い込まれたらどうなるかって、誰でもわかることじゃねぇかよ!

 『どうしようもないヤツ』のやる行動って何かわかるか?

 わかるよな……! 

 そんなの、誰だって考えたことあることだ。

 ――殺すか。

 ――死ぬか。

 だから、こんな状況だけは避けたかったってのに……。

「――ッ」

 次の斬撃が襲う。

 それを右に身をよじって避けるが、腹部の服が斜めに切れる。

 だが、それに気を取られてたらダメだ。

 ――だって、コイツは既にもう一方の手の刃物で、僕の眼を狙って来てやがる。

 僕は後ろに飛んで、とっさに避けるが、影はもう次の行動に移ってる。

 ――着地と同時に、僕の右ひざ目掛(めが)けて、切断するように銀光が続く。

 ダメだ。

 無理だ。

 よけられない。

「――クソッ!」

 『ガギッ』という鈍い音で。

 それは、『ショートヘア』の『ケータイ』に突き刺さった音で。

 受け止めた『ケータイの画面』を軸に小手先で、刃先を流しながらに、次の手を!

「――ッ」

 またの銀光。

 的確に首を()ぐ軌道。

 まるで、どっかの『軍隊やテロ集団』に『暗殺訓練(特訓)』を受けたかのような確実(必中)。

 急所を狙って、ただ、『殺す目的』で『急所(重心)』を狙って、ただただ、『解体(バラバラ)』にする目的で、(やいば)を振るう。

「――ッ」

 『ドガッ』という音がした。

 それは、僕の背中に『何か』が当たる音で。

 廃屋の『壁』に激しくぶつかる音で。僕が追い詰められたってことで。

 影が『必殺のナイフ』を繰り出す流れで、僕の『首』を――。

「――クソッ!」

 だけど、それがなんだ。

 首を切り落とすからなんだ。俺は黙って殺されに来たわけじゃない。

 ――殴り飛ばすために来たわけでもない。

「おい、『◆□▲▲▲(赤黒く潰れて読めない)』!」

 俺は『コイツ』を連れて帰るために来たんであって。

「――ッ」

 無言で返されようと、そのまま『肉』が切り裂かれようと。

「いい加減に!」

 防いだ右手から『刃物(メスのようなもの)』が、皮を突き破って、出てこようと。

「――ッ」

 無言で無視られて、もう一方の手で『心臓』を狙われたとしても。

「いい加減に!」

 左手で掴んだナイフの刃先から、俺の『赤い血』が流れようと。

「――ッ」

 『コイツ』が握ったナイフを離して、腰の『シザーバック』に手を伸ばそうとも。

「戻って来い!」

 掴んだ両手から血が流れて、痛かろうと。

「お前を!」

 切られて刺されて血だらけの俺の両手で。

「絶対に離さない!」

 刃物を持った彼女の両手をそのまま(つか)んで(にぎ)りこむ。

「――ッ」

 暴れる。

 少女が、抵抗を試みる。

 ――だけども、絶対に離さない。離してたまるか。

 動く度に、揺すられる度に、力を込められ、(りき)まれる度に、『ぎりぎり』と骨が軋んで、『がりがり』と肉が(えぐ)れて、削げ落ちようと、それが何だってんだ!

「――離せよ」

 有無を言わさない声。

 嘆きのように(うめ)きのように。

「――(いや)なんだよ!」

 暴れる。

 身体を(えぐ)りこむように、(ひね)る。

「ダメだ。絶対にお前を離さない」

「うざぃよ……。血が出てるのに。いっぱい出てるのに、なんでこんなことできるんだよ!」

 理解できないって叫び。

 抵抗がより一層、『ぶんぶん』と両腕を振り動かすように。

 だけど、俺の手はがっちりと受け止めて、動かない。

「――なんでこんな私のために、そんなになれるんだよ! わかんないよ! なんで、なんでどうして……」

 感情の発露。

「――なんでだよ。私を騙して好きに使って利用して、やさしくしてるフリして笑ってて、馬鹿にして、馬鹿にして、バカな私を馬鹿にして、好き勝手に酷い目に合わせたヤツらのクセに」

 今まで黙ってたせいか、あるいは突然の事態が起こって『パニック』になってるのかわからない。

「――私にやさしくするフリして、自分のことしか考えないで、触ってくるような汚い、ゴミ以下の臭い『大人のクセ』に、なんで、なんで、私に触れて来るんだよ……」

 だけど、そんなことはどうだっていい。

「――騙されて壊されて殺されて捨てられて拾われて、また騙されて、また騙されて、ずっと捨てられ続けて利用され続けた、生きてる意味なんてない、『ただの死体』になんでそんなことできるのかわからないよ……」

 僕に出来ることは、ただ何もしないこと。

 『甲斐性なし』の僕は黙って聞くだけで――。

「――私なんて、生きてちゃいけないんだょ。捨てられて死んだ人は、死んだことになってなくちゃいけないんだょ……。なのに、どうして……」

 抵抗が弱まってくる。

 次第に、語気も弱まってくる。

 だから、僕は彼女に告げる。普段引っ込み思案だけど、全部吐き出した彼女に告げる。

「そんなの決まってんだろ! ただ、お前に笑って欲しいからだろ!」

「――ッ」

 息を呑む彼女。

 信じられないとばかりに瞳が揺れる。

「そうやって、また私を――」

 だけど、そんなの知っちゃこっちゃない。『甲斐性なし(KY)』は本心を告げるだけだ。

 彼女の眼を見ながら、俺の異常って言われる【殺人視考(ちから)】で彼女を視ながら告げるだけだ。

「……決め付けんなよ。俺がいつ騙した。俺は人を騙せるほど『器用』じゃねぇ!」

「でも、警察が……」

 今回の騒動の原因で、裏切りの原因。

「俺は呼んでないし、呼ぶ気もない。もし、呼ぶとしても、お前に必ず話す。家に戻るか、戻らないかはお前の問題だろうが」

「でも、私には帰る『(トコ)』なんて――」

 とても辛そうに彼女は、(つぶや)く。

 彼女の瞳が揺れている。

「……何言ってんだ。そんなの簡単なことだろ」

 どうしてもわからない『テストの問題』に悩むように、不安でたまらないとばかりに。

 だから、俺は答える。

 彼女を抱きしめながらに、はっきりと。

「――無ければ作ればいい。ただ、そんだけだ」

「でも、そんなの! そんなこと、『死体』の私になんて……」

 消えてなくなりそうに。

 自信なく、彼女が返してくる。ただ、不安げに。

「――『死体』だからなんだ。『バカ』だからなんだよ。『異常おかしい』って言われても関係ねぇよ!」

 一呼吸、彼女の理解を待って。

「じゃあ……」

 彼女の理解が追いついて。

 俺は、ただ伝える。

「お前の居場所はもう、目の前にあんだろうが!」

「そうだぞ、帰るぞ。『セミロング(我が妹)』よ!」

 よく聞いたことのある声がした。

 『待て』って言ったはずなのに、あいつの声がしていた。

 それは女の声で……。

「アンタの居場所は、とっくに私らの『(なか)』にあんのよ」

 《だから、帰ろう》と、『ショートヘア』が、自分の『(ハート)』を親指で、『がしっ』と男前に示しながら、微笑んでいた。

 ――それで、決着。

 《――ッ》と、『張り詰めた糸が切れた』ように『セミロング』が、崩れ落ちて、泣き出して。

 《うんうん、辛かったんだね》と、『ショートヘア(バカ)』が、抱きしめて、『思いのタケ』を受け止めて。

 《あれ、俺の活躍は?》と、俺は、『ズキズキ』する血だらけの手をじっと見ながら、『手持ち無沙汰』に、はにかんで。

 ――そんな幕引き。

 それで、『家出少女』の【都市伝説(うわさ)】は、終わりを告げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ