024▼場所:『落し物の黒い廃屋』……語り手:『やさ男』
◆◆◆場所:『落し物の黒い廃屋』……語り手:『やさ男』
「ねぇ、ここに落としたの? つうか、一人で大丈夫?」
《まぁ、いつものことかもしれないけど》と、『ショートヘア』が、自慢の黒塗り『MOVE』の中から、いつもの調子で溜め息一つ。
「あぁ、落したケータイ拾ってくるぐらい一人で十分。お前は、ここで待ってりゃいい。それに、『お前とのあの夜(例の夜)』よりは、ヒドくないと思うぜ?」
《だから、大丈夫だろ、きっと》と、僕は、『片目を瞑ったまま』で続けとく。
《おいおい、皮肉げだな》と、『ショートヘア』が、『自嘲気味』に車の窓を閉める。
僕は、窓越しでも聞こえる『BGM・天国と地獄』を聞きながらに、『廃屋』へ向かう。
――そこはよくある『古民家』。
最近の流行じゃそう言われるような代物でも、人が住んでなければ、ただの『廃屋』。何が出ててもおかしくないような『ボロ小屋』だ。街の中っていっても、大学が出来るまでは田舎だったみたいなもんで、こういったところが少なくない。
『ショートヘア』から借りた『ケータイ』の『全地球測位システム(GPS)』を頼りに落とした場所を探したところ、ここに行き着いたってわけで。
「――」
中は暗い。
いや、黒い。
古い建物なのか、『木製の扉』は朽ちていて、すぐに土間が広がる。
僕は瞑ってた片目を開きながらに、『電話』をかける。
「ヴーヴーヴー」
電子音がすぐ返る。
それは、僕の『ケータイ』の『振動』が返す音。
「ヴーヴーヴー」
黒の中、断続的な点滅。
携帯の点滅で明るくなるたび、目の前にいる影を照らす。
「――」
僕の『ケータイ』を偶然に拾ってくれた人物。
きっと、とても親切だから、服の中に大事に入れていてくれたんだろう。
それか、どっかの手癖の悪いヤツが無理やり入れたのかもしれない。
――まぁ、そんなことはどっちだっていい。
もの言わぬ影から、返してもらわないといけない。
『ケータイ』と、もう一つの『大切なモノ』を取り戻さないといけない。
「なぁ、もう終わりにしよう」
「――」
影は答えない。
ただ、『沈黙』を返すだけだ。そんなのは、この異様な雰囲気からすれば当たり前。
あの『白の幽鬼』にあった夜と同じ、【殺人視考(僕)】が恐怖したあの『戦慄の旋律(雰囲気)』が重々しい。
穴が開いた屋根から差し込む『月光が赤く』見えようと、それが何だってんだ?
おかしな光景なんて、おかしな考えなんて、『いつも視てるモノ』と一緒じゃないか。
恐怖なんて『錯覚』だ。ただの、『幻想』だ。
――そんなモノはもうどうでもいい。
腹をくくって向かい合えば、どうってことはない。……もう、【あの夜】とは違う。
「終わりにしよう」
近づいて、近づく。
『一足一刀の間合い(射程圏内)』をさらに割り込んで、近づく。
『じり』、『じり』、『じり』と、近づく。もう何回、近づいて、こうやって近づいたか忘れた。
だけど、近づかないと始まらない。――そうしないと、返ってこない。
『ケータイ』も『大切なモノ』も返ってこない。
「――なぁ、もう戻ってこい」
触れた。
影に触れた。
冷たく凍てつくように氷のようなガラス細工に触れた。
「――ッ」
突然の『閃光』。
気づいたときには、『銀光』。
僕の『頚動脈』をギリギリの皮一枚切り裂いて、『月光』が走り抜ける。
その軌跡はとっさに避けなければ、僕の首を切断していた斬撃だった。
クソッ、首筋から血が出てんのか?
焼きを入れられたようにアツイじゃねぇか……。
――やっぱり、洒落にならないことになっていやがった。どっかの馬鹿が刺激しすぎて、おかしくなってやがる……!
もう、誰も信じられないって言ってるヤツが、人に騙されっぱなしのヤツが、とことん追い込まれたらどうなるかって、誰でもわかることじゃねぇかよ!
『どうしようもないヤツ』のやる行動って何かわかるか?
わかるよな……!
そんなの、誰だって考えたことあることだ。
――殺すか。
――死ぬか。
だから、こんな状況だけは避けたかったってのに……。
「――ッ」
次の斬撃が襲う。
それを右に身をよじって避けるが、腹部の服が斜めに切れる。
だが、それに気を取られてたらダメだ。
――だって、コイツは既にもう一方の手の刃物で、僕の眼を狙って来てやがる。
僕は後ろに飛んで、とっさに避けるが、影はもう次の行動に移ってる。
――着地と同時に、僕の右ひざ目掛けて、切断するように銀光が続く。
ダメだ。
無理だ。
よけられない。
「――クソッ!」
『ガギッ』という鈍い音で。
それは、『ショートヘア』の『ケータイ』に突き刺さった音で。
受け止めた『ケータイの画面』を軸に小手先で、刃先を流しながらに、次の手を!
「――ッ」
またの銀光。
的確に首を凪ぐ軌道。
まるで、どっかの『軍隊やテロ集団』に『暗殺訓練(特訓)』を受けたかのような確実(必中)。
急所を狙って、ただ、『殺す目的』で『急所(重心)』を狙って、ただただ、『解体』にする目的で、刃を振るう。
「――ッ」
『ドガッ』という音がした。
それは、僕の背中に『何か』が当たる音で。
廃屋の『壁』に激しくぶつかる音で。僕が追い詰められたってことで。
影が『必殺のナイフ』を繰り出す流れで、僕の『首』を――。
「――クソッ!」
だけど、それがなんだ。
首を切り落とすからなんだ。俺は黙って殺されに来たわけじゃない。
――殴り飛ばすために来たわけでもない。
「おい、『◆□▲▲▲(赤黒く潰れて読めない)』!」
俺は『コイツ』を連れて帰るために来たんであって。
「――ッ」
無言で返されようと、そのまま『肉』が切り裂かれようと。
「いい加減に!」
防いだ右手から『刃物』が、皮を突き破って、出てこようと。
「――ッ」
無言で無視られて、もう一方の手で『心臓』を狙われたとしても。
「いい加減に!」
左手で掴んだナイフの刃先から、俺の『赤い血』が流れようと。
「――ッ」
『コイツ』が握ったナイフを離して、腰の『シザーバック』に手を伸ばそうとも。
「戻って来い!」
掴んだ両手から血が流れて、痛かろうと。
「お前を!」
切られて刺されて血だらけの俺の両手で。
「絶対に離さない!」
刃物を持った彼女の両手をそのまま掴んで握りこむ。
「――ッ」
暴れる。
少女が、抵抗を試みる。
――だけども、絶対に離さない。離してたまるか。
動く度に、揺すられる度に、力を込められ、力まれる度に、『ぎりぎり』と骨が軋んで、『がりがり』と肉が抉れて、削げ落ちようと、それが何だってんだ!
「――離せよ」
有無を言わさない声。
嘆きのように呻きのように。
「――厭なんだよ!」
暴れる。
身体を抉りこむように、捻る。
「ダメだ。絶対にお前を離さない」
「うざぃよ……。血が出てるのに。いっぱい出てるのに、なんでこんなことできるんだよ!」
理解できないって叫び。
抵抗がより一層、『ぶんぶん』と両腕を振り動かすように。
だけど、俺の手はがっちりと受け止めて、動かない。
「――なんでこんな私のために、そんなになれるんだよ! わかんないよ! なんで、なんでどうして……」
感情の発露。
「――なんでだよ。私を騙して好きに使って利用して、やさしくしてるフリして笑ってて、馬鹿にして、馬鹿にして、バカな私を馬鹿にして、好き勝手に酷い目に合わせたヤツらのクセに」
今まで黙ってたせいか、あるいは突然の事態が起こって『パニック』になってるのかわからない。
「――私にやさしくするフリして、自分のことしか考えないで、触ってくるような汚い、ゴミ以下の臭い『大人のクセ』に、なんで、なんで、私に触れて来るんだよ……」
だけど、そんなことはどうだっていい。
「――騙されて壊されて殺されて捨てられて拾われて、また騙されて、また騙されて、ずっと捨てられ続けて利用され続けた、生きてる意味なんてない、『ただの死体』になんでそんなことできるのかわからないよ……」
僕に出来ることは、ただ何もしないこと。
『甲斐性なし』の僕は黙って聞くだけで――。
「――私なんて、生きてちゃいけないんだょ。捨てられて死んだ人は、死んだことになってなくちゃいけないんだょ……。なのに、どうして……」
抵抗が弱まってくる。
次第に、語気も弱まってくる。
だから、僕は彼女に告げる。普段引っ込み思案だけど、全部吐き出した彼女に告げる。
「そんなの決まってんだろ! ただ、お前に笑って欲しいからだろ!」
「――ッ」
息を呑む彼女。
信じられないとばかりに瞳が揺れる。
「そうやって、また私を――」
だけど、そんなの知っちゃこっちゃない。『甲斐性なし(KY)』は本心を告げるだけだ。
彼女の眼を見ながら、俺の異常って言われる【殺人視考】で彼女を視ながら告げるだけだ。
「……決め付けんなよ。俺がいつ騙した。俺は人を騙せるほど『器用』じゃねぇ!」
「でも、警察が……」
今回の騒動の原因で、裏切りの原因。
「俺は呼んでないし、呼ぶ気もない。もし、呼ぶとしても、お前に必ず話す。家に戻るか、戻らないかはお前の問題だろうが」
「でも、私には帰る『家』なんて――」
とても辛そうに彼女は、呟く。
彼女の瞳が揺れている。
「……何言ってんだ。そんなの簡単なことだろ」
どうしてもわからない『テストの問題』に悩むように、不安でたまらないとばかりに。
だから、俺は答える。
彼女を抱きしめながらに、はっきりと。
「――無ければ作ればいい。ただ、そんだけだ」
「でも、そんなの! そんなこと、『死体』の私になんて……」
消えてなくなりそうに。
自信なく、彼女が返してくる。ただ、不安げに。
「――『死体』だからなんだ。『バカ』だからなんだよ。『異常』って言われても関係ねぇよ!」
一呼吸、彼女の理解を待って。
「じゃあ……」
彼女の理解が追いついて。
俺は、ただ伝える。
「お前の居場所はもう、目の前にあんだろうが!」
「そうだぞ、帰るぞ。『セミロング(我が妹)』よ!」
よく聞いたことのある声がした。
『待て』って言ったはずなのに、あいつの声がしていた。
それは女の声で……。
「アンタの居場所は、とっくに私らの『心』にあんのよ」
《だから、帰ろう》と、『ショートヘア』が、自分の『胸』を親指で、『がしっ』と男前に示しながら、微笑んでいた。
――それで、決着。
《――ッ》と、『張り詰めた糸が切れた』ように『セミロング』が、崩れ落ちて、泣き出して。
《うんうん、辛かったんだね》と、『ショートヘア(バカ)』が、抱きしめて、『思いのタケ』を受け止めて。
《あれ、俺の活躍は?》と、俺は、『ズキズキ』する血だらけの手をじっと見ながら、『手持ち無沙汰』に、はにかんで。
――そんな幕引き。
それで、『家出少女』の【都市伝説】は、終わりを告げた。




