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それはとても悲しい物語だった。
それは紛れもなく悲劇の物語だった。
結末は決して幸福な最期ではなく……
それでも、不幸な最期だと言い切ることができないのは、きっと彼女たちの想いに感化されたからなのだろう。
確かにそれは悲劇だった。
すべてが死に、世界が終わり、深淵の先で混沌が嗤っていた。
しかし、誰もその終焉に絶望などしていなかった。
此処ではない何処かの未来を諦めてなどいなかった。
此処ではない何処かの笑顔を守るために戦い抜いた。
その先できっと、笑い合える光景が広がっているのだと信じていた。
この世界にはもう、誰一人として残ってはいない。
この世界は確かに敗北したのだ。
だが、この敗北は決して、無意味なものではなかった。
たとえ世界が滅んでも……
”終わってなんかいない。私は確かに……希望を送り届けたのだから”
命の灯火を燃やした少女たちの絆が、晴れた空に橋を架けた。
――運命の涙雨。後にそう呼ばれた星歴七七七年の悲劇。
それから七年、決して晴れることのなかった催涙雨を切り裂くように、希望を運ぶ比翼の鵲が飛んでいくのを最後に見た。
だからこれはやはり、幸福な最期ではなく、不幸な最期でもないのだろう。
何故なら彼女たちの物語は、まだ結末を迎えてなどいないのだから。
…………
……
――異常な空間
ここを訪れた者は、誰しもがそういった感想を持つに違いない。
薄暗い部屋に灯る幾つもの蝋燭。まるでこの世の果てまで続いているのではないか。そう思わせるほどにどこまでも長く続いている。
そして何よりも異常なのは、間違いなくここにある無数の本だ。
世界中の本を集めるとこれくらいになるのだろうか。いや、上にも横にも果ての見えない並んだ本を見るに、それ以上の数はありそうだ。
これだけなら、ただ不気味な場所で終わりかもしれない。
しかし真に異常なのは本の数ではなく、本そのものから溢れ出るもの。
たとえば喜び、たとえば怒り、悲しみ、苦しみ、憎しみ、恐怖、未練、愛。
そういった様々な感情が、本一冊一冊からひしひしと伝わってくるのだ。
この禍々しい空間に迷い込んだなら、普通の人間はどれほど耐えていられるだろうか。
そう、こんな空間でただひとり、冷静にこれまでの物語を振り返っている自分もまた、異常なのだろうか。
いや、そんなことは決してない。
ここに集まった本はそれぞれ誰かの物語。
最初は気味悪く思ったこの空間も、今ではどこか愛おしくすら思えてくる。
ただひとつ、三日月の笑う仮面を着けた男の愉快な話し声も、三人の少女たちの声も、今ではもう聞こえてこないというのが、少し寂しく感じられた。
この空間でただひとり、あの世界の終焉の物語を見終えると……
目の前には淡い光を放つ一冊の本。
すでに終わったはずのあの物語が、再び始まろうとしていた。
幕間が終わるまで後少し。
続きを見る前に舞台裏を覗き見てから、本当の最後を見届けよう。
これは英雄の物語ではない。
これは愛を貫く物語でもない。
これは運命を砕く一人の英雄の物語。
そう、誰かが言っていたが……きっとこれは――
彼女が言っていた通り、そういった物語のはずだから。
いつか必ずその手は届くと、そう信じてみたくなったのだ。




