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それは現のイストリア  作者: 御乃咲 司
※※ ■■■-狭間のアポカリプス
53/55

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 それはとても悲しい物語だった。

 それは紛れもなく悲劇の物語だった。

 結末は決して幸福な最期(ハッピーエンド)ではなく……


 それでも、不幸な最期(バッドエンド)だと言い切ることができないのは、きっと彼女たちの想いに感化されたからなのだろう。

 

 確かにそれは悲劇だった。

 すべてが死に、世界が終わり、深淵の先で混沌が嗤っていた。

 

 しかし、誰もその終焉に絶望などしていなかった。

 此処ではない何処かの未来を諦めてなどいなかった。

 此処ではない何処かの笑顔を守るために戦い抜いた。

 その先できっと、笑い合える光景が広がっているのだと信じていた。


 この世界にはもう、誰一人として残ってはいない。

 この世界は確かに敗北したのだ。

 

 だが、この敗北は決して、無意味なものではなかった。

 たとえ世界が滅んでも……


”終わってなんかいない。私は確かに……希望を送り届けたのだから”


 命の灯火を燃やした少女たちの絆が、晴れた空に橋を架けた。

 ――運命の涙雨(フェータルレイン)。後にそう呼ばれた星歴七七七年の悲劇。

 それから七年、決して晴れることのなかった催涙雨を切り裂くように、希望を運ぶ比翼の鵲が飛んでいくのを最後に見た。

 

 だからこれはやはり、幸福な最期(ハッピーエンド)ではなく、不幸な最期(バッドエンド)でもないのだろう。


 何故なら彼女たちの物語は、まだ結末を迎えてなどいないのだから。




 …………

 ……



 

 ――異常な空間


 ここを訪れた者は、誰しもがそういった感想を持つに違いない。

 薄暗い部屋に灯る幾つもの蝋燭。まるでこの世の果てまで続いているのではないか。そう思わせるほどにどこまでも長く続いている。


 そして何よりも異常なのは、間違いなくここにある無数の本だ。

 世界中の本を集めるとこれくらいになるのだろうか。いや、上にも横にも果ての見えない並んだ本を見るに、それ以上の数はありそうだ。

 これだけなら、ただ不気味な場所で終わりかもしれない。

 しかし真に異常なのは本の数ではなく、本そのものから溢れ出るもの。


 たとえば喜び、たとえば怒り、悲しみ、苦しみ、憎しみ、恐怖、未練、愛。

 そういった様々な感情が、本一冊一冊からひしひしと伝わってくるのだ。

 この禍々(まがまが)しい空間に迷い込んだなら、普通の人間はどれほど耐えていられるだろうか。 


 そう、こんな空間でただひとり、冷静にこれまでの物語を振り返っている自分もまた、異常なのだろうか。


 いや、そんなことは決してない。

 ここに集まった本はそれぞれ誰かの物語。

 最初は気味悪く思ったこの空間も、今ではどこか愛おしくすら思えてくる。

 

 ただひとつ、三日月の笑う仮面を着けた男の愉快な話し声も、三人の少女たちの声も、今ではもう聞こえてこないというのが、少し寂しく感じられた。

 

 この空間でただひとり、あの世界の終焉の物語を見終えると……


 目の前には淡い光を放つ一冊の本。


 すでに終わったはずのあの物語が、再び始まろうとしていた。


 幕間が終わるまで後少し。

 続きを見る前に舞台裏を覗き見てから、本当の最後を見届けよう。



 これは英雄(えいゆう)の物語ではない。

 これは(あい)を貫く物語でもない。

 これは運命を砕く一人の英雄(ぐしゃ)の物語。 


 そう、誰かが言っていたが……きっとこれは――


 彼女が言っていた通り、そういった物語のはずだから。

 

 いつか必ずその手は届くと、そう信じてみたくなったのだ。

  

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