エピローグ [A面] 『サイカイ』
3ヶ月後、ロミアの食堂が再開したーーー、今までと変わらない日常が始まる。
「はいお待ち! 理玖、3番席の2人組のところに運んで」
「あぁ、任せてくれ!」
客が満席で慌ただしく厨房で調理をするロミアと出来立ての料理を運ぶ理玖。
そこにひとりの女性が声をかけてきた。
「……理玖、約束を守りに来たわ」
「ありがとうスフィーナ」
「お店繁盛しているのね。2人の元気そうな顔も見れて来た甲斐があったわ」
「君も元気そうでなによりさ」
「これをあなたに」
スフィーナから真っ白な封筒を受け取った。
「なにさ?」
「ジンから頼まれていたものよ」
差出人の意外な名前。時が止まったみたいにこだました。
「少し話がしたいわ」
「あぁ、待ってくれ」
封筒をゆっくりとポケットにしまい、途中だった3番席にラーメンとチャーハンを届ける。
「お待たせしました。ラーメンチャーハンセットです」
理玖が厨房に戻ると、ロミアとスフィーナが握手し合っていた。
「きゃー! スフィーナちゃん久しぶり!」
「ロミア、久しぶりね!」
2人はハグをして喜びを分かち合う。
思い出話に花を咲かせる前に、スフィーナが『彼を借りるわね』と断りを入れてこちらに向かってきた。
理玖は頷き、席につく。
彼女がフッと一息つくと話を始めた。
「私とジンの関係について話しましょう。あなたが師と呼ぶ男とは腐れ縁だった。それこそ、あの男の妻役として誘われた事もあったけれど、不快だから断ったわ」
「……そんなことが?」
初めて聞く先生の意外な話に胸が躍る。
身近な人の知らない一面というのはとても興味深いものだ。
「あなた宛に預かり物をしていたのを思い出してね。今日はこれを届けに来たのよ」
1枚の封筒。開くと走り書きしたような文字が雑に並んでいる。ジンの文字に間違いない。
文字を追っていく。
『面と向かって言えないことを端的に綴る。後のことは俺なり、この手紙を渡してくれたであろう女にでも聞いてくれ』
スフィーナに一度視線を向け、手紙に戻す。
『この手紙を読んでいるなら俺は死んだのだろう。
生前に謝るべきだった、すまない。
理玖は闇市で売られていたことは知っているな。
その時の俺にはひとりをギリギリ買える金しか持ち合わせていなかった。
あの男に手を借りたのは間違いだった。引き剥がした俺の罪だ。お前たち兄弟を離れ離れにしてしまったことをひどく後悔している』
ジン先生が残した『理玖、ひとりにしてすまなかった』はこのことだったのかと驚いて口元に触れる。
「!?」
次の一文に目が止まった。
『ボウズの弟は、浦辺冬馬という男に託してしまった俺の責任だ』
「浦、辺?」
その名字は知っているーーー、相棒と同じ名だ。




