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その35・おいおいそのネーミングは最悪でしょうが

・これまであったこと

 蛇のお腹を裂いたら動く人形が出てきました。以上。



「ほら、念願のゴーレムに出会えてよかったわね」


「俺が力説してたのはこんな手乗りサイズじゃなくて巨人みたいな──」


『でもよ、要望通りの武骨そうな見た目だぜ? ……ひひっ、な、なにが不満なんだぁ? ふっ、ふひっ、ひひひひっ……』


 笑いが堪えられないくらい面白いか。そうかそうか。

 なんなら眼球がどっか遊びに行ってるその右の眼窩にコイツをぶちこんでやろうか?


<少年は自分を探していたのか。ゴーレムリーダーである自分を。なぜ?>


 アンデッド聖女のたわ言を真に受けて勘違いする謎の人形。

 武骨といえば確かに武骨だ。すぐ折れそうな複雑な形状の飾りなどは一切なく、ずん胴で短足といった機敏さに劣るが安定感に優れた見た目に、長めの太い腕、遊びのない鉄兜のような頭部の天辺には、槍の穂先のような突起が一個だけ生えていた。

 これで小屋とか大岩くらいのデカさだったらなぁ……


「いやそうじゃなくて、俺が求めてたのはもっとこう、質量とハッタリで押し切るような……まあ、それよりさ、ゴーレムリーダーってのは何なんだ?」


<教えよう。自分の原初の記憶あるいは本能的な直感によると、自分は自然発生したゴーレムリーダーというゴーレムである。ゴーレムリーダーとは何かというと、ゴーレムを操るゴーレムということになっている。理論上>


 最後の一言がひっかかるが、嘘はついていないのだろう。


『それはともかくよぉ、シオンも外したし正解者は無しってこったな』


 なんだと。


「生き物をかたどった石って言ってたものね。これはゴーレムリーダーだから全然違うわ。よって全員不正解でお流れね」


「けど、三人の中で一番正解に寄せた答えの奴が勝ちってことだったろ? なら俺の勝ちじゃないのか? お前らは生き物だと予想してたんだし」


「だけど、意識や知性がある存在という見方をするなら、私たちの予想の方が近いと思わない? あなたの予想はただの石でしょ?」


『しかも動かねぇしな。俺らの予想やこいつは勝手に動くものだぜ?』


「生身かそうじゃないかってのはデカいポイントだと思うぞ。これは譲れないな」


 などとしつこく食い下がった結果、一品だけ、二人の折半で奢ってもらえることになった。ゴネてみるものである。撫でたりもしたが。



 という揉め事や撫で事もあったが、それ以後は問題もなく朝を迎えた。

 一応、ゴーレムリーダーを名乗る自立人形がおかしなことをしないか警戒していたが、特にそういうこともなく、むしろ起床したのはこいつが最後だった。ゴーレムも寝るんだな……



「それで、あなたはこれからどうするの? 行く当てあるの?」


<未定>


『んならよぉ、俺たちに付いてきたらどーだ? 一癖も二癖もあるやべぇ奴しかいねーし、お前みたいなのが一体増えたところでほとんど変わんねぇぜ。旅は道連れ……って言うだろ?』


「一番のキワモノが言うと説得力あるわね」


『一番のバケモノはお前だけどな』



「朝っぱらからバチバチ火花散らすのやめてくれないか」


 治安の悪い地域に生息しているチンピラ同士の威嚇合戦みたいに、首を傾げて睨みあいする聖女と聖女をどうにか宥めようとしている苦労人な俺の足元に、ゴーレムマスターが近づいてこちらを見上げてきた。


<両手に花>


「喧嘩売ってんのかガラクタ」


『オイオイ落ち着けって。人形の言うことくれぇ聞き流せっつーの』


「そこまで目くじら立てなくてもいいじゃない」


 そんな中、ファングを見ると、置物と化して嵐が過ぎ去るまで黙ってお座りしていた。コークスはというと相変わらず呑気にそこらの草をモグモグしてる。



 ……カチンときたり落ち着かせたりと交互に繰り返し、互いの頭がようやく冷えたところで、俺達は野営の後片付けを終えて出発する準備に取り掛かった。

 準備といっても、焚き火の後始末と、食える部分を切り取った大蛇の頭や骨などを埋めるくらいしかないのだが。


「……そうだ。お前さ、目的も何もないってことは、やっぱり名前とかも無かったりするのか」


<そうでもない。自分にはロードスという名がある>


『あるんかい』


 流れ的にここは、俺達がいくつか候補を挙げるがどれも拒否されて、誰かがボソッと呟いたやつが「気に入った。いい名前だ」とか言われて採用されるはずだよな。


「リーダくん……ってのは、駄目かな?」


 秒で発想したかのような名前をソルティナがお出ししてきた。どうやら彼女はファングを命名したときに名付けのセンスを使い切ったらしい。


<先程の提案についてだが、断る理由、特になし。よって同行を受け入れる。今後ともよろしく。それと、自分は諸君らの名前をまだ聞いていない>


 そんな枯れ果てたアイデアの産物をロードスは秒で無視して話題を切り替えた。


「そうか、言われてみたらそうだったな。忘れてたわ。俺がシオンで、この厚着の姉ちゃんが、まあその……ナナと呼ばれている。そしてそこの銀髪がソルティナだ」


『そーいうこった。よろしくな、ロードス』


<こちらこそ>


「…………あのね、リーダくんって名前を考えたんだけど、どうかな?」


 さっき拒否されたのと同じようなくだりがもう一回行われた。こやつめまだ言うか。

 どうやら俺はソルティナのしつこさと諦めの悪さを侮っていたらしい。前世のときからゴリ押しで我を通して生きてきた女だということを忘れていた。


『初回みたいに言うなよ……』


 ナナが引いていた。


「なんでそんな、面白味のカケラもないつまんないネーミングにそこまで拘れるんだ」


「わかりやすくていいだろうが」


 ニコニコと笑顔でソルティナが俺の肩をガシッと掴んでくる。


「あなたもそう思うわよね?」


<いいところなど何一つない。問題外>



 ──その直後、ソルティナが俺の肩から手を引き、おもむろにロードスを掴んで持ち上げると、万力みたいな力をかけて破壊しかけたので慌てて引き剥がし、危うく平べったくされるところだったロードスをファングの背に乗せ、


「ファング、リュムレインへ全速力だ! 決して振り返るな!」


<良い乗り心地だ>


「離して、ねえ離しなさいよ! あの口の減らない腐れ人形に我が乾坤一擲の一撃を!」


『ゴーレムの言う事なんざサラッと聞き流せ……ってさっきも言ったよなこれ!?』


 混乱の中、ほとぼりが冷めるまで先に目的地へと向かわせたのだった。

今週の更新は火曜、木曜、土曜の同時刻に一回投稿となっております。

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