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その30・地の底から水の村へ

 ナナの失われた心臓を求めて、そのきっかけとなる情報を探すべく、不死の王の隠し研究施設へ向かうという当初の予定は、ここであっけなく終わった。

 宝物が眠る場所への手がかりがあるかもしれない施設を目指しているときに、ふと寄り道したところでその宝物が見つかるとかギャグか。



「どうする?」


 質問の意味は言うまでもなく、このまま当初の予定通りに(目的の無くなった)旅を続けるか、もうどうでもよくなったし帰るかという二択である。

 あとナナの心臓が封じられていた宝石だが、もういらないので壷に戻しておいた。


「どうしたらいいのかしらね」


『わかんねえ。俺としてはもう大満足なんだけどよぉ』


 このまま予定を大きく切り上げてさっさと町に戻ってもいいのだが、そうなると地元の奴らからの『やっぱ強くても子供だけじゃ駄目だったか。でもよく無事で帰ってきたよ』みたいな、ムカつく同情の空気が町いっぱいに蔓延しそうな気がする。


「何らかの成果なり土産なりがないと帰れないな」


 クチバシで突っついてくるやかましい奴らを怪物らしく暴力で黙らせてもいいが、それやると両親の肩身が狭くなりそうだしなあ。親が生きてるうちはやめとこう。


「ここにはもう何もないみたいだし、まだ調べてない上の二ヶ所の通路を探索して、それから今後を決めましょうか」



 で、どっちも行ってみたが、左奥はなんもなかった。


 厳密には、王国で使われていたと見られる金貨が石のテーブルの上に数枚散らばってたが、既に軽くひと財産築いていた俺や定期的に大金を稼げる商売を始めたソルティナも、わざわざそんなはした金を持ち帰る気にもならなかった。


『うっわ、懐かしーなぁ……。あの嫌んなるくらい賑やかだった王国の町中でよ、食い物や服とかをこんなのと交換したことあるぜ。お前らがいらねぇんなら、俺がもらっとくか』


「今だともう貨幣としてではなく、そのサイズの金としての価値しかないでしょうね」


「それでも探索の記念にはなるだろ。どうせ持ち主なんぞもうこの世にいないに決まってるし、遠慮しないでとっとけとっとけ」


『ひひ、そんじゃお言葉に甘えるか』


「逆にそんなものをここに放置してるほうが、よろしくない気もするしね。貨幣と鉄の武器は大地を汚すものなんでしょう? お掃除した報酬と思えばいいのよ」


『現代の人間ってのは言い逃れを編み出すのがうめぇなぁ……』



 右奥には身元のわからない白骨死体があった。つまりこちらはハズレである。


「着てる物もボロボロで、どこの国や部族の衣服かすら判別不能ね。ここまで入り込んで力尽きたのかしら。それともここで諍いがあってその結果殺されたか」


『骨も半壊してるしよぉ、致命傷があったとしたって、これじゃあ何もわからんぜ』


「……そういえば、お前さっきから首が全然ユラユラしてないみたいだけど」


 あれだけ包帯でギッチギチに縛ってても不安定だったナナの首が、さっきから妙にしっかりと首の上に乗っかっている。


『あー、心臓が戻ってきたせいなのかなぁ、なんかくっつきがいいんだよ。離そうと思えばいつも通りに離せると思うけど、それにさ……』


「いつも通りって……それがもう当たり前なんだな」


 自分の頭を抱えてる状態がもはや本人的には基本姿勢らしい。


『よっとぉ』



 ほどけた包帯が床に落ち、ナナの頭部がそのまま浮遊して自在に空中を飛び回った。



『ひひっ、どうよこの俊敏な飛行はぁ!』


「飛行はいいけど、そんな頭だけで飛んでたら、首から下が無防備すぎるだろ。何が起きてるのか把握するの不可能じゃねえの?」


『それが不思議なんだけどさぁ、胴体のほうも視界があんだよ。どういう理屈か自分でもさっぱりわかんねーが、とにかく見えてんのは確かだぜ』


 心臓の力ってすげー。


「頭で敵を攪乱して、胴体がその隙にナイフで攻撃とかもできそうね」


『接近戦とか得意じゃねーんだけどなぁ…………獣とか雑魚魔物なら、まあナイフ一本でサックリ仕留めたりできたけどよぉ、あのクソミミズみてぇなガチの強敵はしんどいぜ』


「得意じゃないってわりには、結構やるじゃない」


「どこまでやれたら得意か不得意かの線引きは置いといて、せっかくここで見つけた唯一の貴重な武器だからな。使わなきゃ損だぞ」


 ──そう、何もなかったと思っていたのだが、実はハズレの白骨死体の懐に大地の魔力が込められた、石を削って作られた刃物が収められていたのである。

 ……なのだが、たまたま収められていたように見えるだけで、実際はそれで刺されて亡くなったあとに抜け落ちて懐に転がっただけかもしれない。

 この骨が石器ナイフの正当な持ち主だったのか、それとも持ち主の敵だったのか、何もかも今となってはわからない。全てを知っているのは大地の女神だけだろう。

 遺品か凶器かわからんがありがたく頂いておくんでよろしく、と礼を言って白骨死体を床に横たえると、俺達は部屋を出て地下冒険のスタート地点に戻ることにした。


『母なるマイアナよ……あなたの御許から旅立つ我らに、どうか祝福を…………』


 玄関広間でナナが祈りを捧げると、ここに転移した時と同様に、眩い黄金の光が──



「──なんだか、久々の日の光に思えてくるな。まだ半日も過ぎてないのに」



 地下の石かごから地上の聖なる丘に、こうして俺達は再び戻った。


「それでこれからなんだけど、とんでもない収穫があったのはさておき、俺は予定通りに旅を進めるべきだと思う。理由は地元の奴らに逃げ帰ったと思われるのが不愉快だからだ」


「それには著しく同感ね。私としてはヤールンスにさえ寄れたら、まあ……後はどうでもいいのだけれど。あなたはリュムレインでお土産頼まれてたわよね?」


「ああ、あそこのキッツイ地酒を爺ちゃんにな」


 あの爺ちゃんの事だから酒ならなんでもいいんだろうけどな……


『俺としてはよぉ、急いで帰る必要ねぇし、のんびりと旅を続けてもいいぜ。つーか帰る場所なんてとっくに過去のものになってるしな。気になることっていやぁ、うちの部族の縄張りが今どうなってんのか知りたいってくれぇだなぁ』


「かつての王国の……もとい、帝国の近辺にある大きな草原ってことよね。それなら帝都からずっと北にあるソレット草原しか心当たりないけど、あそこってほとんど手つかずのはずよ。水源が遠いから、どうにも農業も畜産にも向かないとかで。せめて近辺に川でもあれば、大がかりな河川工事でもして無理やり支流を作るとかできたのかもしれないけど……」


『川もあるっちゃあるんだけどよぉ、あのか細い川じゃ、そんな町一つなんか潤わせるほどの水量はねぇわ。後は山ん中の泉とか、大地の女神さまにお祈りして与えてもらった井戸くれぇのもんだしな』


 それはナナが生まれる数年前の出来事で、ずっと草原に雨が降らない時期が長く続き、渇きに苦しむ部族の者たちが総出で地に手をついて一心不乱に女神に祈ると、やがて草原のある一ヶ所が金色に光りだし、そこを掘っていくと底から水が滲み出てきたのだという。


「そっちはそういう感じで水が出たのね」


『んん? どういう事だよ。お前もなんか似たよーな話を持ち合わせてんのかぁ?』


「…………あっ」


『どーしたシオン?』


「いや、それがその、ヤールンスの件ってことなのか? なあソルティナ、そうなんだろ?」


 ソルティナは何も答えず、ニヤリと笑った。




「着いたわね。ここはいつ見ても、のどかな村だわ。巡礼に来てる光神教の信徒くらいしか、ろくに部外者がいないわね」


「でもお前って前世も今も天に選ばれた聖女であって、光の神とか関係ないんだろ?」


「大神殿のお偉い方々たちが一方的に『うちの聖女です』って認定したのよ。訂正するのも面倒で厄介そうだし、ならこっちもせいぜい利用してやれと思ってダンマリしたの。それがあんな最悪の結果を招くとはね」


「今となってはその間違いを解く術もないか」


「別にこのまま誤解されたところでどうでもいいわ。過ぎた話よ」


『ここがヤールン族の末裔の地か……シケた奴らばかりの退屈そうな村だな。あの豪気な部族の血も二百年も経てば、そりゃ薄まるかぁ……そーだよな…………』


 地上に戻った後、俺達はさっさとファング達と合流し、そのままヤールンスの村へと到着した。村の真ん中を流れる川の水がとても綺麗で涼し気だ。

 流石にもう夕暮れも近い。今日はこのまま余裕を持って一泊すべきだろう。夜道を進んでもこのやばい面子なら支障もないだろうが、金に困ってないのだから宿泊を渋る必要もない。


「さて、それではいよいよ、目的の場所へ行きますか」


 勝手知ったる、という感じのソルティナに付いていく形で、俺とナナはこの村の象徴とも呼ばれていた場所へ案内されるのだった。

今週の投稿は月曜、水曜、金曜、日曜の同時刻になります。

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