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その28・この辺に聖地があるんだってよ

 二十年前に滅んだ町で想定してなかった大物との一戦を終え、その後はこれといってトラブルもなく、のんびりとヤールンスの村へ俺達は向かっていた。

 だが、ひっかかる事が一つある。


『一番の見どころにはがっかりすると思うけど、私が行くからそれも問題ないわよ』


 というソルティナの発言だ。

 黎明の聖女の所縁の地、村にあったという恵みの泉、そして、私が行くから問題ないという奇妙な含み。何かがあったのは間違いないがヒントが少なすぎて正解がわからん。

 あっけらかんとした態度からして深刻な件ではないと思うんだけど、ソルティナなのがなあ。


 それに、何か関わりがあるといえば、ナナもそんな感じのことを言っていた。村の名前に聞き覚えがあるという風なことを、ぼんやりとしたうろ覚えで。

 果たして、水の村にどんな真実が待ち受けているのか……



「ギャギッ」


「ギヒッ」


「この不快な鳴き声は……やっぱり出てきたか」


 ここまで一回も遭遇しないのも変だと思ったら、ついに登場だ。

 そう、雑魚の代名詞と呼ばれる、緑色の小鬼。

 ゴブリンである。

 卑劣さと卑屈さしか頭の中にないような行動しかとらない、この不潔で小柄な魔物は、そこそこ自然豊かな場所ならどこにでもいる。

 どこで手に入れたのかわからないが二匹のうち片方はナイフを、もう一方はそこらで拾った棒切れを

持っていた。それで俺達に勝てるつもりなんだろう。


「なら俺もコイツで相手してやるよ」


 俺はこの旅で手に入れた打撃武器を背から外し、ゴブリンどもに構える。

 前日に出会った哀れな野盗たちの一人が持っていた槍、その先端を落として再利用することにしたのがこれだ。つまり木の棒である。

 廃墟の町の墓地での戦いでは、持っていくのを忘れて使わずじまいだったが、今回こそ活躍させてやるからな。


「ギイィッ!」


 ナイフ持ちのほうが先に突っ込んできたが、


「まじかよ、リーチの差もわかんないのかお前ら……」


 ただの安物の槍に過ぎなかった木の棒でも、俺が持って力を注ぎこめば鋼鉄のように強靭になる。俺はゴブリンの胴体辺りを目がけて、横薙ぎに棒を打ち付けた。


 ぶちゃあ、という重く湿ったものが引き千切れた音と、飛び散る真っ赤な液体。

 俺の一撃はゴブリンをかっ飛ばすはずが上下真っ二つにしてしまっていた。


「アギャ……ギャヒイイィィィ!!」


 仲間の上半分が宙を舞って自分の足元にドサリと落下したのを見て、棒切れ持ちは一瞬止まったが、何が起きたか理解すると、叫びながら一目散に逃走した。


「誰が逃がすか。さっきはしくじったが、お前は大当たりにしてやる」


「ゲピィッ!?」


 一足飛びであっさりと追いつき、棒切れ持ちへと加減してスイングする。 

 芯を叩いた、さっきとは違う感触。そう、ティエルさんを吹っ飛ばしたあの時の──


 俺の容赦ない一打を受けた衝撃で頭とか手足とか千切れ飛びながら、棒切れ持ちは虹のような綺麗なアーチを空に描いて、近くの小川に飛び込んだ。


「はい減点」


「ちょっと待てよ、そんなルールあるのか!?」


「球打ちだと水場はたいてい減点対象ね。友達いないシオンちゃんは知らなかったでしょうけど、どこの地域でも普通はそうなのよ? 友達がいなかったシオン君は聞いたことなかったと思うけど」


 二回も言いやがった。


『いや、どーでもいいだろ。その点数が減ったから何だっつぅんだよ』


「黙っていてくれナナ。これは俺のプライドの問題でだな」


『プライドって……何がそんなに気に触ったんだぁ? 普段はやる気ねぇ感じなのによ、急に変なところで拘りを見せるよなぁ……』


「そういう子なのよ」



「……決まりなら仕方ない。一打目の即死当たりからさっきの減点を差し引くことにする。それなら文句もないだろ」


「まあ、それがいい落とし所ね」


『だからその差し引きに何の意味がよぉ』


 というわけで俺は気分よくヤールンスへの歩みを続けることにした。




 手入れが行き届いている、とまではいかないが、グラッドからここまでの道のりはそれほど荒れてはいなかった。やっぱり人の往来がある街道と獣道とは違う。


「あ、標識よ」


 街道の横の地面に突き刺さった太い棒、それに釘で打ち付けられた板に、ヤールンス、グラッド、ポトカと書かれたそれぞれの地名に矢印が記されていた。


「ポトカ……知らない名前ね。板の新しさといい、最近になって町でもできたのか、それとも元々あった町へ、森を切り開いたか山道でも開通したのか。まあ村に着いてから話でも聞けばわかるわね」


『んん~~……こりゃ、間違いねぇなあ……やっぱそうだろ…………』


 ブツブツ独り言を呟きながら、ナナが頭部を左右に揺らす。もう村が近いんだから危なっかしいことやめてくれないかな。村人の前でポロッと頭が取れたら洒落にならないぞ。


「おい、そんなに頭を振るなよ。首の包帯がほどけるだろ」


『それはそーだけどよぉ。う~ん………………あのさぁ、ちょっと寄り道しねぇ?』


「え、もしかしてポトカとかいうところに行きたいのか?」


『いんや、そーじゃなくてよ…………ここ来たことあるわ、俺』


「……ああ、やっぱそうだったのか。村の名前にずっと引っかかってたもんな」


『やっと思い出したぜ。あのヤールン族が住んでた土地だよ、ここ。うちの部族とそこまで仲良くなかった連中だったんだけど、俺がさ、族長の娘にかけられた永眠の呪いを解呪してやったら、それからめっちゃ崇められてよぉ』


「昔は聖女らしいことしてたんだな。……そう睨むな、話を続けて続けて」


『……んでよぉ、ナーディマの化身だ、大地の聖女だってあちこちで持て囃されて、そのせいで王国のクソ野郎どもの耳にまで届いちまったというワケだ』


「その後の顛末は、まあ、あなたから聞いたけど……それで、この辺りに気になる場所でもあるってことなのかしら」


『荒らされてなきゃいいけどよ……って、それは有り得ねーか』


 そういうことで、ここからはナナの先導で森へと入っていくことになった。当然まともな道など無いので、幌馬車とコークスは置いていく。ファングも留守番だ。



『あー、きっとあれだなぁ』


 道なき道を進んだ先でナナが指差したのは、小高い丘の上に、適当に積まれたようにしか見えない大きな石の数々だった。崩れたのもあるが、無事なものだけでも十や二十ではきかない数がある。

 これが、ナナが言うヤールン族とやらが何らかの理由で積み上げたものなんだろうか。

 よく見ると、上のほうに乗っている石には、鷲や熊、蛇に狼、蝙蝠の顔が掘られている。ひょっとすると、ここは神聖な場所だったのかもしれない。


「長い間忘れ去られてるようだけど、清浄な気配の残り香みたいなものがまだあるわね。もしかして、ここってその部族の聖地だったりするの?」


『そーだぜ。確かな、この中央で祈りを捧げるんだ。こっちこっち』


 ナナは俺とソルティナに自分のそばにさっさと来るよう促すと、片膝をついて丘の真ん中で祈りの態勢をとった。


『……おお、母なるマイアナよ、大地の末子たる我らを、あなたの懐へと還らせたまえ……………………還らせたまえ…………?』


「何も起きないわね」


『どうなってんだ? あの頑固な族長の話だと、これで……いや、なんか足んねぇ気も…………そうだ!』


 ナナは何かを思い立ったらしく、熊の顔が掘られた石が乗っている積み石へと駆け寄ると、手をかかげて何かを呟いた。すると、熊の顔から薄い黄色の光がぼんやりと放たれる。

 それを見て何かを確信したようにナナは頷くと、蛇や狼の顔にも同様に近づいて手をかかげて呟くと、やはりそれらの顔も黄色く光りだした。


『よし、これでいい。空を飛ぶやつはそのまま放置だったよなぁ』


 よなぁって言われても、そんな条件なんぞお前しかわからねーよ。


『これで行けるはずだぜ…………大地の女神よ、我らをあなたの温かき懐へとどうか導きたまえ……』



 が、またしても、反応がない。

 ありゃりゃ、また失敗かな……と思いかけていたその時、パアッと黄金の光が足元から眩しいくらい強く輝き──






 ──その眩い光が止んだ時、俺達三人は、石造りの神殿めいた建物の玄関広間と思われる場所に立っていた。

 窓はなく、外の光は射していないようだが、周りの石壁が淡く輝いているため暗くはない。ソルティナも視界に支障はないみたいだ。もしかして地下なのだろうか。


『まだ面倒な仕掛けがあったら、どうしようかと思ったけどよ……上手くいったぜ。……ってことで、ようこそ、ヤールン族の隠れ里である『深き石の揺りかご』へ。ま、俺もここに入るのは初めてなんだけどよ、ひひっ』



 そういうことで、どうもここは地底の聖域のようだ。

 信徒でもない俺やソルティナが足を踏み入れていいのかと思うが、付き添いということでどうか大地母神さまには大目に見てもらいたい。荒らす気はないんで。

今週は隔日投稿で、日曜、火曜、木曜、土曜の同時刻に更新します。

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