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13 非リア充 美味しい朝食 の巻

 テンプレの一つ。

 日本の調味料の開発。

 奈川木が彼方くんをじいっと見つめている。その目には期待と不安が入り混じり、彼方くんの僅かな動作も見逃さないと目一杯に見開かれている。

 彼方くんは唇を舐め、ゆっくりと舌で味わう。


「その、お味はどうですか」

「これは……最高だな」


 彼方くんは感嘆した。久し振りに遠くに住む恋人と出会ったような感覚だ。まさかこんなにも早くこうなるとは思ってもみなかった。彼方くんは感動の余韻に浸った。

 オレも一口食べてみる。


「うんうん、凄く美味しい! 奈川木は料理が上手だねえ」

「そんな、お母さんの腕に比べたら私なんかまだまだですよ」

「そりゃあ、おばさんはプロだからな。でも奈川木の味も俺は好きだぜ。それに、まさかこんなに早く醤油を味わえるようになるなんてな。奈川木はマジで凄い」

「そんなに褒めても何も出ませんよ。とにかく、お口に合って何よりです」


 オレ達の手放しの称賛に奈川木は照れて顔を赤くした。

 オレはもう一口照り焼きを頬張った。魚の脂が、旨味が口中に広がり、日本人が慣れ親しんだ味の照り焼きソースと絡み合う。甘味が強くコクのあるソースは嫌が応でも食欲を喚起させ、齟齣する事を止められなくなる。肉質のしっかりとした淡白な味の少し柑橘の風味のする異世界独特の不思議な魚との相性も良く、濃いめの味付けでもくどくなくあっさりと食べられる。ああ、お米が欲しい。銀シャリと共に掻き込みたい。


 何故オレ達は奈川木お手製の朝食を食べているのかというと、奈川木が醤油を作ったのでその試食も兼ねたスキル“調理”の研鑽だ。

 あの召喚された日の夜、オレ達から日本の味をこの世界で再現するのは難しいという事を聞かされた時から、日本の調味料を作って驚かせようと考えていたらしい。幸いにも転移前から持っていたお弁当箱に現物があった、しかもあの魚の形をした醤油差しに丸々丸大豆醤油が入っていたので、それをもとにロクロウさんや厨房の人達と相談しながら作っていったそうだ。魔法のお蔭で、本来なら数年熟成させる所を数日に短縮したんだとか。

 本人曰く、異世界の食材を使った為か風味が独特との事だが、正直素人には市販のと違いが分からない。

 数日前からオレもメイドさんのお手伝いと情報交換に毎朝厨房に通うようになっていたので、実は知らなかったのは彼方くんだけだった。これを彼方くんに言ったらどう思うかなあ。

 以前にどうして奈川木が醤油の作り方を知っているのか聞いた事があった。そしたら、お祖母ちゃんに教えてもらったという答えが返ってきた。何でも本業なんだとか。結構有名な老舗蔵本なんだとか。実家も料亭と言っていたし、奈川木って結構なお嬢様だったのかも。


「彼方くん、タレがついていますよ」


 奈川木はそっと彼方くんの口許をナプキンで拭った。


「おお、悪いな……」

「何だか昔みたいです。彼方くんは食べ方も変わっていませんね」

「昔……って、ガキの頃の事じゃないか。まるで俺が成長していないみたいな言い種だな」

「身長はとても伸びましたけど、中身はあまり変わっていませんよ」

「マジかよ……」


 奈川木はうふふと笑った。

 彼方くんは少し恥ずかしそうだ。

 オレはそんな二人を味噌汁をすすりながらジト目で見ていた。奈川木が味噌まで作っていた事はオレも知らなかった。ああ、和食って美味しいなあ。


「な、なんだよオダケン。その目は」

「いやあ、リア充爆ぜないかなあって」

「な、何で俺がリ、リア充なんだよ!?」


 彼方くんは顔を真っ赤にして叫んだ。動揺しまくり祭りだ。パラダイスだ。


「あの、リア充って何ですか?」

「べ、別に奈川木が知らなくても良い事だ!」

「ええと、リア充っていうのはね……」

「せ、説明するなオダケン! ああああああ!」


 オレが懇切丁寧に奈川木に教授してあげると、奈川木も意味を理解した途端に顔を真っ赤にした。


「わ、わた、私は別に彼方くんの事が好きな訳じゃ……あっ、だから嫌いっていう事でもないんですよ! ただ身近で安心出来る存在というか、なんというか……。と、とにかく私たちはただの幼馴染みで、そ、そんな関係じゃ……!」

「そ、そうだぞオダケン! かか、勘違いすんなよ! 別に俺は奈川木の事なんて好きじゃないからな! あっ、人としては好きだけどな、その彼女としては嫌い……じゃなくて、そもそも彼女じゃないし、むしろ好き……いや、この好きは違うんだ……!」


 二人はしどろもどろになりながら弁明していたが、途中から何を言いたいのか全くもって伝わってこない。

 もう止せよ。聞いてるこっちまで恥ずかしいよ。


「ちょっとからかっただけで二人とも動揺しすぎだよ。ほら、お茶でも飲んで落ち着きなよ」


 オレは二人のカップにお茶を注いだ。相手をからかうのには引き際が肝心。お茶は高い位置から注ぐのが肝心。

 それにしても憎らしい程に初々しい二人だ。非リア充には劇薬だねえ。朝から嫉妬しちゃうよ。

 どろり。


「とにかく! もうこの話は止めにしようぜ。確か今日の魔法の授業は実技だったよな?」


 最近のロクロウさんの授業では実技の時間が増えている。オレ達が魔法の基礎理論的な部分をある程度理解出来ているとロクロウさんが判断したからだ。魔法の仕組みをよく理解していないと、後で手痛いしっぺ返しを食らう、良くて死ぬかもしれないとロクロウさんが力説していた。天賦の才能一つで家出をして冒険者になったロクロウさんが言うのだから間違いはないだろう。最悪の場合が気になるが……。

 戦闘訓練の進度具合によっては、そろそろ実戦も視野に入れているらしい。実際に野に出て魔物と戦うのだ。王都付近にはそうそういないが、魔王の城に近づくにつれ数が多くなっていくそうだ。

 ちなみにその魔王の城だが、実は晴れの日に王宮の展望台に上ると良く見える。元々は初代国王がリヴィア王国を建国する前、連合軍総指令官として前魔王と戦争をしていた時の彼の居城だったんだとか。過去の英雄の家が現在の魔王の住処。なんとも皮肉なものだなあ。

 オレはずずずとお茶をすすった。


「皆は実戦だったらどの武器を使うんだい?」

「俺は、そうだな……正直な話ブロードソードはあまり使いやすくないな。やっぱり素手だな」

「そういえば騎士隊の訓練の時、彼方くんはいつも途中で武器を投げ捨てますよね」

「最後にはやっぱり自分の拳が一番信頼出来っからかな。リーチは魔法で伸ばせるし」


 彼方くんはしみじみと自分の拳を握り締めて言った。

 彼方くんは一応元不良だし、色々と思う所があるのだろう。見た目は完全に不良でも、中身はアニメやラノベが大好きな普通のオタク男子高校生だけどね。あ、あと元中二病。


「あれ? 彼方くんって通常時は魔法がそこまで得意じゃなかったよねえ」

「いや、通常時って何だよ!? 通常じゃない時の俺って何者だよ!?」

「もちろん、ビヨンドザネバーエ」

「言うな!」

「……はい」


 彼方くんに凄く睨まれた。その顔で睨まれと凄みがあるんだよなあ。恐い。


「奈川木はどうなんだ?」

「そうですね……。レイピアも使いたいですが、魔法を撃つ時は弓があると便利なんですよね」

「ガンコウさんなら弓とレイピアの可変武器とか作ってくれそうじゃない?」

「いや、流石に弓とレイピアは無理だろ。曲刀とか日本刀ならいけそうだけどな」

「とにかく、私はひとまずレイピアにしようと思っています」


 まあ、確かにそれが無難な所だろうか。弓だと完全に遠距離になってしまう。だからといって彼方くんのような近距離特化なのもどうかと思うが。


「オダケンくんはどうするんですか?」

「そういやオダケンって騎士隊のときと騎士団の時とで違う武器を使っているよな。それにチャクラムも習ってるし。結局どれを使うつもりなんだ?」


 オレは騎士隊の時はカットラス、騎士団の時はサーベルを使ってる。レイピアは最初の一回限りだ。

 理由は、噛ませ犬の持っていたサーベルが格好良かったから。だから次に会った時にちょうだいと言ったら「えっ?」って顔をされた。終いには声に出していた。オレも「えっ?」って返した。くれなかった……。

 噛ませ犬の隣でヒュアちゃんもナディくんも苦笑いしていたなあ。


「全部だよ」

「えっ?」

「全部って……三つとも使うって事か!?」

「あー、チャクラムに関してはまだ納得のいくレベルまで仕上がってないから、実質二つかな」


 二人が唖然とした表情でオレを見ている。よせよう、照れるなあ。


「流石にそれは無理しすぎだと思います。そんなに焦って強くなる必要はありませんよ。かえって効率が悪くなって逆効果だと思います」

「俺も奈川木と同意見だ。今はまだ一つに絞って専念した方が良い。そもそも二つとも剣だから両方覚えなくても良くないか?」


 二人してオレをいさめてきた。

 またオレが自分だけ勇者でない事を気にして頑張り過ぎていると思っているのだろう。全然そんな事はないのになあ。


「悪いけど二人の言うことを聞くつもりはないよ」

「……どうしてですか?」

「……まだ気にしているのか、あいつが言った事」


 二人は複雑な表情でオレを見ている。希望を失わない友への安堵。だが一人ひた走るその背中を見つめる寂しさ。それを止められない自分の弱さを悔いるような、嘲るような、やるせない表情だ。

 二人は本気で心配して、信頼してくれているのだなあとオレは自惚れてみた。やっぱり本当の気持ちを伝えるべきなんだろうなあ。そうオレは決心した。


「いやあ、だってサーベルもカットラスも格好良くてどっちかなんて選べないんだもん。だったら、両方使うしかないよねえ? オレは器用だからきっと使いこなせるだろうし」


 二人の表情が一変した。というか驚き呆れていた。


「えっと……それが理由ですか?」

「うん。それだけ」

「……何だよ! 本気で心配していた俺が馬鹿とまでは言わねぇけどさ、何か調子狂うな……」

「ふう。オダケンくんはやっぱりオダケンくんなんですね」


 二人は同時に溜め息を吐いた。


「ちょっとう、全く失礼だなあ。二人とも溜め息が露骨過ぎやしないかい?」

「いや、だってお前異世界に来たってのに本当に変わらないからさ」

「もう少ししょげた方が良かった? 今ならまだ間に合うかも」

「全然。つーか、もう手遅れだろ」

「手遅れですね」

「何だよう、二人して。拗ねるよ!」

「拗ねるんですね……怒るんじゃなくて」

「やっぱオダケンはオダケンだな」


 二人は何かに納得したような温かい目でオレを見ていた。

 やめて! そんな目で見ないで! 慣れてないから!

 実は主人公は器用で、ジャグリングが得意という裏設定がある。

 若菜ちゃんは料理がそこそこ上手い。

 食戟のソーマで例えると伊武崎、丸井レベルという裏設定。

 彼方くんは……考えておきます。

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