11 非リア充 お昼寝がしたい の巻
最近なんだか忙しい。
スターウォーズを観に行く暇があるかなあ?
ああ、仮面ライダーも観たい……。
あの芳しきキャラメルポップコーンの薫りを胸いっぱいに吸い込みたい。
映画が観たいよう。
そんな事を考えていたら筆が進まない進まない。
リンゴーンと鐘の音がお昼を告げる。
この王宮には大きな時計台があるのだ。振り子式で時間も正確。広い王宮中にその音が響き渡り、働いている皆の生活のリズムを支えている。学校のチャイムみたいだ。
「それでは午前の授業をここまでにします。午後からの剣術の稽古も頑張って下さいね」
ロクロウさんがぱたんと教科書を閉じた。
いやっほう、待ちに待ったお昼休みだ。お昼寝タイムだ。いや、その前にお昼ご飯だ。ランチタイムだ。
オレ達は机を合わせてお弁当を広げる。なんかこれをすると小中学校の時のことを思い出すんだよなあ。
「今日の訓練はどっちの当番なんだ?」
「確か騎士隊の方かと」
「うわあ、ひたすらタイマンコースかあ」
戦闘訓練は騎士隊と騎士団の交互に行っている。どっちが教えるかで見るにたえない喧嘩していたので、見かねたロクロウさんが折衷案を出したらしい。二つのグループのトップ同士がお互いの頬をつねりあうまでに発展したんだとか。先に手を離した方が負けなんだそうだ。ガキか。
この二つは訓練方法も全く違う。騎士団はとにかく素振り等の基礎や基本を重視する。それに反し騎士隊は、ひたすら教官とのタイマンだ。出来るだけ実戦に近い形でやって戦闘スキルを磨くんだとか。どちらにしろ剣を振りまくっている。
チャクラムは別の時間に練習している。王宮に扱える人が少なく、また教えられる人も忙しい、というかキリリアさんだ。キリリアさんも忙しい為、いつもの訓練に組み込めないのだ。
キリリアさんと二人きりになれるのは嬉しいけど、正直毎日がハードモード。それのせいで余計に無理してるように見られて、また同情したメイドさんがこっそり差し入れとかくれるんだろうなあ。あれ、良いことづくめじゃん?
でも、それとは別の癒しが欲しい訳だ。それがお昼寝だ。誰にも邪魔されずにのびのびのんびりとぐうたらするのだ。それにはいつものあの庭がぴったりなのだ。
オレはさっさと弁当を食べ終えると席を立つ。さあ、シエスタだ。シエスタだ。
「また、あの秘密の庭に行くのか?」
「うん。シエスタはオレの毎日の小さな楽しみなんだ」
「オダケン……辛い時とかは無理しないで、遠慮なく相談してくれよな」
「そうです。私達は、いつだってオダケンくんの味方ですからね」
「分かってるよ。オレは大丈夫だから。ノープロブレム。日本語で言えばなんくるないさー」
心配そうな二人を尻目にオレはアハハと笑い飛ばした。
あの噛ませ犬との遭遇以来、なんか彼方くんの態度が変わった。前までは少しツンとしていたのに、最近は妙に優しい。本人は普段通りのつもりなんだろうが、こちらとしては非常にやりにくい。
あの後聞いた事だが、彼方くんが国と約束を結んだのはオレをボッチにさせない事も理由の一つだったらしい。なんでも、ボッチの辛さはよく理解出来るんだとか。そう彼方くんは自嘲していた。
それとオレに救われたというのは、転移初日の夜の事らしい。いくらラノベのような展開でも現実ならばその後も上手くいくとは思えず、彼方くんは色々と不安で悩んでいたんだとか。そこにオレが「枕投げしよう!」とひょっこり現れたら、全部馬鹿らしくなって心も落ち着いたらしい。ラノベでも異世界転移した日に枕投げをするような奴は聞いた事がない、と彼方くんは笑っていた。
オレはそんなことないと思う。『異世界転移したから枕投げで無双する』みたいなタイトルのラノベがあるとも限らないよ。『小説家になろう』あたりで連載してるかもよ?
「寝坊して午後の訓練に遅れるなよ」
「それは保証しかねるなあ」
「目覚まし時計貸しましょうか?」
「あ、うん。それなら間に合ってるかなあ」
奴には毎朝叩き起こされていますとも。今もマジックボックスの中に入っている。チートの事はまだ内緒だ。
オレは庭へと向かった。庭への入り口を見つけるにはコツが要るのだ。ある花を目印に……おっとこれ以上は企業秘密だ。
オレは花のアーチを潜り抜けた。
この庭園は不思議だ。いつも綺麗に花が咲き誇っているのに、それを手入れする庭師をオレは一度も見たことがない。やっぱり魔法なのかなあ。
オレは四阿のいつもの場所に寝転んだ。ここは日が直接当たらず、風通しも良くて花の香りを存分に楽しめるベストポジションなのだ。毎日少しずつ場所を変えて研究した成果だ。
ああ、早速眠くなってきた。……スヤスヤ。
オレは違和感で目を覚ました。なんかこう……頬をつんつんとつつかれているような感覚だ。誰かいるのかな?
オレは目を開けてみた。すると妖精とバッチリ目が合った。…………妖精?
「はわわ。起こしてしまいましたわ。ごめんなさいごめんなさい」
「ええと……、どちらさん?」
そこにいたのは可憐な美少女だった。歳は中学生くらいだろうか。ガウンで少し厚着をしている為体格はよく分からないが、立ち居振るまいは生まれつきの高貴さを感じさせる。この世の者とは思えない程に儚げで美しい娘だ。
あれ、初対面の筈なのに何処かで会った事がある気がする。え、本当に誰だろう? こんな可愛い娘を忘れる訳がないのに。
「ご、ごめんなさいごめんなさい! 名前も言わずにとんだ失礼を……。あ、あの……その、わた、わたくしは……」
「うんうん。まずは一旦落ち着こうかい? ほら深呼吸。吸ってー」
「すぅー」
「吐いてー」
「はぁー」
「吸ってー」
「すぅー」
「吸ってー」
「すぅー」
「吸ってー」
「すぅ……ぅ……ぅぅ」
「あ、冗談だから無理に吸わなくても良いよ」
「あ、あんまりですわぁ……」
「アハハハハ。どう、落ち着いた?」
「……はい」
クスンと形の良い鼻を鳴らし、少女は涙目で返事をした。その様子すらも気品があり美しい。
だがオレにそっちの趣味はない。精々が頭を撫でたくなるくらいだ。……予備軍!?
「ふぅ……わたくしはクレオーメと申します。貴方様のお名前は?」
「じゃあ、クーちゃんって呼ばせて貰うよ。オレはそうだなあ、本名言ってもあんまり皆覚えてくれないからなあ……。オダケンでいいよ」
「クーちゃんですか……構いませんが……。オダケン様、というのですか? 不思議な響きのお名前ですね」
「そりゃあ、この世界の人間じゃあないしねえ」
「……? オダケン様は人ではないのですか?」
こてん、とクレオーメもとい、クーちゃんは首をかしげた。この娘は意外と天然のようだ。そこがまた良いのだろうか?
「そういう意味じゃなくて、オレは別の世界から来たって事。勇者って聞いた事ある?」
「はい。確か先日この国で召喚されたと聞いておりますわ。……ということは、オダケン様が勇者なのですか!?」
「いや、違うよ」
クーちゃんは綺麗な柳眉を八の字にした。困惑しているようだ。
確かに今の話しの流れからすると、そう誤解してしまうのも無理はない。オレが悪い。だが、この娘は王宮の噂を耳にはしないのだろうか。察しが悪い。見た目通り深窓の令嬢なのか、そういうのにはやはり疎いのだろう。
「オレは勇者召喚されたけど、勇者じゃあないんだよねえ。ちゃんと他に勇者が二人いるんだけど、オレは二人が召喚された瞬間に近くにいてさ。色々な偶然が重なって、オレも召喚されることになった、と言うのが正しいのかなあ」
「ううん……つまり、オダケン様は戦えないのですか?」
「いいや、魔王討伐には参戦出来るし、そうするつもりだよ」
「勇者ではないのに勇者であることをするのですか? その、意味がよく分からないのですが」
あれれ、なんだかてにをはが合わないぞ。
「クーちゃんは勇者って何か分かる?」
「ええと……魔王を打倒し平和を取り戻そうとする方々、と思っていたのですが……。間違っておりましたか?」
「いや、それも間違ってはないんだけどねえ……」
その理屈だと、魔王討伐隊メンバー全員が勇者って事になるよなあ。間違ってはいないけど、オレが言いたいのは称号に“勇者”が有るか無いかの話なんだけどなあ。もしかしてクーちゃんは称号を知らないのかな?
「クーちゃんは魔法使える?」
「いいえ、まだ使えませんが」
ああ、思った通りだ。ならば称号というシステムを知らなくても無理はないな。
というのも人間、正確には楽人族という種族は元来魔法が使えない。楽人族とはオレが元いた世界で言う所の普通の人間だ。ちなみにこの世界の普通の人間は二足歩行の人型で、魔物だったりそれが化けていたりしないものだ。
ならば何故今オレ達が魔法を使えるのかというと、それもこれもステイタス化の魔術のお蔭である。ステイタスがなければ、オレ達は魔法を使えない。つまり、クーちゃんが魔法を使えないという事は、クーちゃんにはステイタスがない。ステイタスがないという事は、そこに称号という項目がある事も知らない筈だ。
楽人族うんぬん、ステイタスかんぬんのところはロクロウさんの受け売りだ。
「クーちゃん、ステイタスは分かると思うけどそこには称号って項目があって、オレのはそこに何も書かれていないんだ。他の二人はちゃんと“勇者”ってのがあるんだけどね。指しづめ今のオレは勇者(仮)かな。お分かり?」
「ユウシャカッコカリ……なのですか? つまり……まだオダケン様は勇者の卵なのですね」
「うん、まあ概ねその考えで問題ないかな」
「きっとオダケン様なら素晴らしい勇者になれるに違いありませんわ」
いたいけな少女に励まされてしまった。なんだか結局最後まで勘違いされた気がするなあ。
オレはこっそりとマジックボックスから時計を取り出し、時間を確認した。そろそろ戻った方が良さそうな頃合いだ。
オレはよっこらせっと腰を上げた。
「それじゃあ、オレはもう訓練に戻らないといけないから。バイバイ、クーちゃん」
「あ、あの、今日ここでわたくしに会った事は内密にしてもらえませんか?」
「大丈夫だけど……どうしてだい?」
「実は……わたくし侍女の者に内緒で一人でここに来ているので、その、バレると怒られてしまうのですわ」
いくら王宮の中とは言え、随分と不用心な娘だなあ。世間知らずと言うか、他人の悪意を知らなさ過ぎる。他人を信用出来る事は美徳だが、もしオレが悪い人だったらそれを聞いて狼になっていたかもしれないのに。
「だから、どうか今日の事はご内密に……」
「もうバレてますよ、お嬢様」
「え? きゃあ!」
いつの間にか出現していたメイドの格好をした女性が、クーちゃんに背後から声をかけた。おお、かなりの美人だ。
それに驚いたクーちゃんがぴたりとオレに抱きついた。ふわりと甘い香りがした。
「離れろ、下郎」
「え、アイタタタタ!!」
ドスの効いた底冷えのする低い声だった。
思わぬ幸運に酔いしれる暇もなく、オレとクーちゃんの間に割って入った女性が腕を捻り上げ、地面に押し倒し、完全にオレを無力化した。見事なワザマエだ。
「不審者確保。お嬢様、大変危険ですので離れていて下さい」
女性はオレの首筋にナイフを当てる。氷のように冷たい刃だ。
「ダ、ダチュラ、その人は不審者じゃありませんわ!」
「そうでした。悪漢の間違いでした」
「そうではなくて、危ない人ではないという意味ですわ!」
「お嬢様は世間に疎いので知らないと思いますが、男というのは善人の顔をして女性に近寄り、油断させた所で豹変するような生き物なのです。ケダモノなのです」
「なんで交際経験のないダチュラがそんな事を知っているのですか!?」
「メイド長から聞きました」
なんか凄い男を誤解してるよこの人! メイド長さんは男に一体どんな怨みが……。いや聞きたくない!
「と、とにかくその方は安全ですわ!」
「お嬢様、何故そこまで庇うのですか? 何か根拠がおありで?」
「だってオダケン様は、勇者のようで勇者でない、特別なユウシャカッコカリなのですから!」
「……只の一般人じゃないですか」
クーちゃん、庇ってくれてありがとう。でも、それじゃあ誤解は解けないや……。
ヒロイン候補登場!?
でも、主人公が報われるのはまだ先の予定。




