10 非リア充 仲裁する の巻
実はこの小説の登場人物の名前は、結構適当に決められているのです。
だって、名前決めるの面倒なんですもの。
当て馬噛ませ犬だから、アテューマ(あてうま)・ワン(犬の鳴き声)バイト(噛む)。
他の皆さんはどうやってあんなオサレな名前を思いついているんでしょうかねえ。
噛ませ犬はサーベルを抜き、彼方くんはブロードソードを大上段に構えた。お互いまだ間合いに入ってはいない。睨み合いが続く。
喧嘩だ。喧嘩祭りだ。わっしょい。
「ねえねえ、これバレたらみんな仲良く素振り千本だと思うよ~」
「リアリィ?」
「先例から言えばね~……」
そう言うボクちゃんはまた遠い目をしていた。噛ませ犬のお蔭でこれまた経験済なのだろう。
どうやらオレまで二人のとばっちりを食らう可能性があるようだ。ならば答えは決まっている。早くこの喧嘩を仲裁しないと! という訳でボクちゃんも手伝ってね。
ごにょごにょとオレとボクちゃんとで作戦を練る。さあ準備はいいかい?
オレは二人の間に飛び込んだ。
「邪魔だ、オダケン。そこを退け」
「俺様は貴様ごと切っても一向に構わないんだぞ」
「まあまあ、二人ともオチケツ。喧嘩は良いけど、ここでされると迷惑なんだ。だから他所でやってよ。飴ちゃんあげるからさあ」
「「そんなものいらん!」」
わお、息ぴったり。存外、君たち気が合うんじゃないの?
それじゃあ、次はボクちゃんよろしく。
「そうそう、オダケンくんの言う通り一旦頭を冷やしたらどうかな~」
ボクちゃんがダンッ、と一歩踏み込むと同時に、そこを起点として地面が氷で覆われていった。やがて氷は彼方くんと噛ませ犬達も巻き込み固まり、完全に体を固定した。全て彼女の魔法だ。
「クソッ! 動けねぇ」
「ヒュア、俺様の決闘に手を出すな!」
「別に決闘するのは良いけど、時と場所を考えてよね~」
「激しく同意だねえ。さあて、氷を溶かしてほしかったら、素直に言うことを聞いた方が良いよう」
オレは指先からボウと火を出す。
「熱っ!!」
「おっと、手元が狂ったようだ」
「うわあ、わざとらしいな~」
火が噛ませ犬の鼻頭にかすった。前髪が少し焦げていた。
ボクちゃん改めヒュアちゃんよ、わざととは人聞きの悪い。あくまで無意識の内に指先が噛ませ犬の方に向いていただけだよ。
「さあ、決闘はおしまいだよ。いいね?」
「…………分かった」
「フン。今回ばかりは見逃してやる」
そこは「アッハイ」でしょうに。
まあ、なんにせよこれで素振り千本アゲインを回避出来たので良しとしますか。
オレは手から火炎を放射して、一気に二つの氷のオブジェを溶かした。うひー、熱そう。
ちょっと、二人ともそんなに睨まないでくださいよ。ゆっくりだと効率が悪いんですもん。
「フン。やはり勇者でない奴はとんだ腰抜けだな。他人の決闘ですら恐れるか」
噛ませ犬が意地悪そうに言った。
あの、その理屈だと他の皆も当てはまるんですけど……? 誰一人決闘に賛成していなかったよ?
「アテューマ、それは言い過ぎだと思うよ~!」
「今のは失言だ。謝るべきだ!」
「別に間違った事は言ってないだろう。そもそも、勇者召喚自体にワンバイト家は反対だったのだ。他にも反勇者派は大勢いた。貴様等が勇者だからといって、全員友好的という訳ではないのだ。その上召喚された中に勇者でないただの一般人が混じっていたのだ。その者まで勇者扱いする事は、それがたとえ勇者自体の頼みでも間違いだ。一般人が戦場にしゃしゃり出てくるのは我等に対する侮辱だ。一般人ならそれらしく、戦を恐れて部屋に閉じ籠っていれば良いものを。俺様は気を遣って言っているんだぞ」
ヒュアちゃんとツッコミくんが妙に焦って噛ませ犬をいさめていた。別にオレは気にしていないんだけどねえ。
噛ませ犬の言うこともほとんど事実だ。反勇者派というのは「異世界の人間なんかに頼らず、自分達の世界の問題は自分達で解決しよう」という人達だ。勇者を快く思わない人は全くいない訳ではない。ただ、そういう人はオレ達に近づかないか、国やロクロウさんが遠ざけているかなのだ。オレなんかは彼方くんの国との約束のお蔭で特に快く思われていない。
勇者召喚自体元は大陸の秘術で、このリヴィア王国に伝わったのは結構最近のことなのだ。初めての勇者召喚で国すらも勇者召喚という行為を把握しきれていない。その上“オレ”というイレギュラーまであった。意外とこの国は危うい。
ちなみに大陸であった勇者召喚はかなり昔だったようで、その詳細、つまり当時の勇者の帰還方法等の大部分が失われてしまっている。そもそも、半ば伝説と化している上に、ラストが勇者達が世界を救ったところで終わっているため、結局帰れたのかどうかも怪しい。
今の所、魔王の城以外に帰れる可能性は見つかっていない。まあ、オレはどのみち帰れないんだけど。
「なんでお前がオダケンが勇者じゃない事知ってんだよ!」
彼方くんが噛ませ犬を睨んだ。
あれ? まさか彼方くんは、皆が知ってることを知らないの? 別に箝口令とかはしかれてなかったからね。結構な人が知ってるよ。
「ハッ、勇者とやらは随分と情報に疎いようだな。王宮中が知っているぞ、そいつは勇者の哀れみを傘に良い気になっている只の雑魚、愚か者だとな」
「違う! オダケンは雑魚じゃねぇ。俺達ん中じゃオダケンは一番心が強ぇ。それに哀れんでなんかねぇ。俺はオダケンに救われた。何も知らねぇくせにオダケンを馬鹿にするな!」
「そうです! オダケンくんを馬鹿にするのは私も許せません!」
一番心が強いだなんて、照れるなあ。
あれ? オレ、彼方くんを助けた覚えはないよ? 何か誤解してるんじゃない?
それと噛ませ犬よ。君は奈川木がいることを忘れてるでしょ。
「心が強い? それがどうした。精々精神魔法耐性があるだけだろう。彼奴が役立たずな一般人である事に変わりはない。それででしゃばるのは愚か者のする事だ」
「ふざけるな!! 俺達は早く帰りたいだけだ。勝手にそっちの都合で召喚されて、しかも魔王を倒すしか帰る方法がないだと。俺と奈川木はまだ良い。“勇者”とかいう破格な力があったからだ。でもオダケンにはない。お前の言った通りこいつは普通だ。戦わなくても許される。だのに、こいつは俺達と一緒に戦おうとしてくれているんだ。俺だって本当の戦場に立つ事を想像するだけで恐い。オダケンは尚更その筈だ。でも、こいつはいつも笑っていて、軽口ばっかり言って、すぐに他人をからかって。本当は一番焦っているのに、無理してるのに、俺達三人で帰る為に頑張っているんだ。そんなオダケンを、大切なダチを馬鹿にしたお前を俺は許さない!」
ごめん、彼方くん。本っ当に言いづらいんだけど、それ……全部勘違いなんだ。
なんてこの状況で言える訳ないよねえ。
オレは望んでこの世界に来たし、帰れないし、カミサマからチートも貰っているし、ゆくゆくはこの世界でリア充になって根を下ろす気満々なんだ。
あっでも、大切なダチって言ってくれたのは素直に嬉しいかなあ。
そういえば、ヒュアちゃんとツッコミくんが焦っていたのも、オレに気を遣ってのことだったのかも。
誰かから遠回しに聞いたことだが、オレの前でオレが勇者でない事を言うのがタブーなのは暗黙の了解らしい。周りからすると全員ではないが、オレは健気に見えるんだとか。
自分では結構好き勝手やってきた積もりだったんだけどなあ。それが裏面に出て温かい目で見られるとか、とんだ勘違いモノだなあ。最近、メイドさん達が妙に優しいんだよね。トホホ。
「今の俺はお前を殴らないと気が済まねぇ!」
「ハッ。良いだろう、ならば決闘だ!」
「えっ! そ、それは駄目です!」
「何故そうなるんだお前ら!」
「さっき、しないって言ったばかりなのに~!」
え、ちょっと! さっき止めたばっかりじゃん。君達学習しないなあ。ああ、彼方くんの発言のせいでオレが二人を止めづらい。
先に動き出したのは彼方くんだった。ブロードソードを掲げると、それを噛ませ犬の顔面に向かって投げつけた。
しかし、噛ませ犬はサーベルで易々と剣を弾き返す。
「忌々しい騎士隊流剣術気触れが! 武器を捨てるとは愚かだな、俺様の勝ちだ!」
「バーカ、ただの目くらましだよ。本命はこっちだ!」
剣を投げると同時に距離を詰めていた彼方くんが、助走でついた勢いのまま噛ませ犬の股間に蹴りを放つ。
飛んできた剣に注意していた噛ませ犬はそれを避けきれない。
「仝έύ▽ðç‰фожё□♂∴∂↓χ→œ★μεθ!!!!!!」
言葉にならない叫び声を上げ、噛ませ犬は地面をのたうちまわる。
うわあ……彼方くん。それは無いよ……。オレのキンタマまでキュッと縮み上がったよ。
ヒュアちゃんとツッコミくんが駆け寄った。ツッコミくんは青い顔をしている。男にしか分からない痛みだ。
「ヤベッ。つい昔の癖で急所を……まあ、いいか」
昔って。不良時代、こんな喧嘩の仕方だったの? 先制急所確一は汚すぎだよ……。ああ、さっきのカッコイイ感じが台無しだよう。
オレも駆け寄って治癒魔法を施した。一応こいつ嫡男みたいだし、子供産めなくなったら勇者とはいえ罪は免れない。それと後味が悪過ぎる。
おや、気絶してるようだ。
「おい、そんな奴を治療する事ないだろ」
「彼方くん、オレを庇ってくれたのは嬉しいかったけど……これはやり過ぎだよ」
「俺は後悔していない」
彼方くんは悪びれた様子もなく、むしろまだ殴り足りないと不満そうだ。
ああ、いくら嫌いでも噛ませ犬に同情を禁じ得ない。
「奈川木、ちょっといいかい」
「はい、なんでしょうか?」
「彼方くんにお説教をお願いします」
「分かりました」
「ちょ、おい! 襟元を引っ張るな! 自分で歩けるから!」
彼方くんが奈川木にズルズルと引きずられていった。
金的はまだ良いとして、止めたのに決闘をしようとしたのは別の問題だ。しっかりと灸を据えねばなるまい。
「今回はうちのアテューマが迷惑をかけた。本当に申し訳ない」
「ごめんね~。こいつ馬鹿だから、言った事気にしないでね~」
「いやあ、別にオレなら大丈夫だよ。えーと……」
ツッコミくんとヒュアちゃんが頭を下げた。どこか慣れを感じた。苦労してるんだなあ。
そういえばこの二人の名前を聞いていなかった。
「すまない。まだ名乗っていなかったな。ナディ・ヤネンだ」
「ヒュア・シーンスだよ~」
「ナンデヤネンにヒヤシンス?」
「ナディだ。ナンデではない」
「ボクの名前はヒュ・ア・シー・ン・スだよ~」
「りょーかい。ナディくんにヒュアちゃんね。これからもよろしく」
「『これからも』……? ああ、こちらこそ宜しく頼む」
「アテューマが迷惑かけてきたら何時でも呼んでね~」
「そうするよ。アハハハハ」
これで蟠りは解けた筈だ。多分。
嫌いなのは噛ませ犬だけなので、ヒュアちゃんとナディくんとは仲良くしたい。ヒュアちゃん、結構可愛いし。
「おい、お前ら何やってるんだ? あの二人はどうした? ワンバイトは何故寝ている?」
あ、鎧のオッサンだ。素振りの途中から姿が見えなかったけど何処行ってたの? 職務怠慢だなあ。
「いやあ、騎士団員は良い人ばかりですねえ。もう二人も友達が出来ましたよ」
「当たり前だ。何せ騎士団は心身共に優れた者が集まるのだからな。騎士隊とは違うのだ。それでは全員仲良く訓練の続きだ。まずは素振り千……」
「お疲れさまでしたー」
「おっと、急用を思いだしちゃったな~」
「す、すみません。軍曹」
「に、逃げるな、お前ら!」
オレは二人とアイコンタクトを交わして、一斉に逃げ出した。
あ、噛ませ犬置いてきちゃた。
オッサンの出番はもう無いです。
名前持ちのキャラクターは再登場の確率高し。




