忠臣リゲルの懐古
ああ、彼女は美しかったよ。
そして頭がおかしかった。
俺達はみんな知っていたよ。彼女が人を斬るしか能のない、イカれ野郎だってね。
でも美しかったんだ。本当に。
姿? 声?
そりゃあ綺麗だったが、そんなんじゃないんだ。
剣技だよ。
お貴族様が言ってたのがなんだったか⋯⋯ああ、“死線で踊る”?
そうだった。「彼女が死線で踊るのを一目見た者は魂を奪われ」うんたらかんたら⋯⋯。
まあ、俺にはよくわからんが。
純粋なんだよ。濁りが無い。
剣を振るう時、邪魔だったのは、俺自身だったのかもしれないと思ったね。
向こう側にイっちまった奴にしか辿り着けない境地というか、そういうのがあるんだよ。
あんなもん見せられて痺れてる時に、あの声で「続け!」なんて言われたら。そりゃおかしくなっちまうさ。
アルタイル陛下が大陸統一なんて真似できたのは、シリウスのお陰だよ。間違いなく。
⋯⋯惚れてた? 俺が?
馬鹿言え。俺に被虐趣味はねーよ。
いや待て。そういう意味じゃない。
ほら、シリウスの奴、尋常じゃないくらい力が強かったろ?
ヤッてる最中に、ついうっかりで絞め殺されたらと思うと、おっかなくて抱けねーって。そういう話。
それにな。
シリウスが人を好きになるとしたら、相手は陛下だろうって思ってたんだよ。俺達みんな、な。
だってよ。あの鬼神サマが、仔犬みてぇな顔して駆け寄ってくんだぜ?そりゃ敵わねえって。
陛下は陛下で、穴が開くんじゃないかってくらい、気が付くとシリウスを見てた。
完璧な一対だったんだよ、あの二人。
替えなんかきかない。割って入れるもんじゃない。そんな事、誰だって分かってた。
⋯⋯分かっていたと、思ったんだがな。




