夜会参加者の戯言① 満たされぬ狼
退屈だった。
人も。
世界も。
己さえも。
だが、今夜は違った。
崩れた瓦礫をかき分けて、黒褐色の獣が姿を現す。広間には、もう誰もいなかった。
「チッ……派手にやりやがって」
毛皮に滲む赤色。右腕で全身を抱くようにしながら、グレイは足を引きずり歩いていく。
その後を追うように、赤黒い血の跡が続いていた。
弱者をいたぶるのが好きだ。
自分が劣っているのだと。
決して届かないのだと。
そう悟った時に浮かぶ顔が好きだった。
この前のあいつもそうだった。
あいつも。
あいつも。
あいつも。
最後にはみんな、同じ顔をする。
それはとても甘美で、
退屈だ。
「マルク」
弧を描く口元から、鋭い牙が覗く。
魂無しのガキ。
この世から否定された存在。
『“何者”だなんて、僕には過ぎた言葉です』
あのガキは自分にさえ許されていない。
そして、それを悲しいとも思っていない。
いや、思えない。
しかし、それだけではない。
奴には何かがある。
他の有象無象には無い何かが。
獣の本能がそう告げていた。
まだ、それが何かは分からない。
長い廊下を抜ける。
扉を開いた瞬間、冷たい夜風が吹き抜けた。
その先には、夜を見下ろすバルコニーが広がっている。
街の灯りも見える。
人々の影も。
しかし、見覚えのある景色は、どこにもなかった。
バルコニーの隅に置かれたロッキングチェアへ身を沈める。
傍らに置かれた酒瓶を手に取り、一気に呷る。
奴は最後、どんな顔をするのだろう。
どんな言葉を紡ぐのだろう。
どんな色の血を流すのだろう。
どんな。
どんな。
どんな。
「あァ、知りてェなァ……」
瞳が愉悦に細められる。
狼はまだ知らない。
その執着の先に待つモノを。
渇望を。
その正体を。
夜空に月が浮かぶ。
まだ、満ちない。




