表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/22

第四話 守護る者

 マルクは反射的に床を蹴った。


 次の瞬間——


 先程まで彼がいた空間が、消えていた。轟音だけが遅れて広間を揺らす。


 そこには、底の見えない“穴”だけが空いていた。まるで空間ごと削ぎ取られたように。


 そこだけが消えていた。


 破片一つ、残っていない。


「っ……」


 マルクは荒い息を漏らしながら、床へ手をついた。遅れて全身に走る痛みに顔を歪めながら、震える腕で身体を起こそうとする。


 立ち込める煙の奥から、重い足音が響いた。


「父。それは全てを守護し、導く者。それが我が責務であり、誇りである」


 一歩。


 また一歩。


 まるで処刑台へ歩み寄るような、圧倒的な威圧感。


「だが、時に、父は」


 ヴォルドガーンの雷光が、静かに唸る。


「子らを守るため、災いを討たねばならん」


 ヴォルドガーンが、一歩踏み込む。


 その足元が爆ぜた。


 マルクがヴォルドガーンの姿を探すより早く、


「貴様は危険だ。死ね」


 声が、耳元で響いた。


 どうして。


 その言葉だけが、頭の奥に残った。


 けれど、何が引っかかっているのか、自分でも分からない。 


 気付いたときには、拳は眼前に迫っていた。


 鈍い衝突音が響く。


 だが、ヴォルドガーンの拳は、マルクへ届かなかった。


「……ハッ」


 黒褐色の腕が、ヴォルドガーンの拳を受け止めていた。


 衝撃が、遅れて広間を駆け抜ける。


 床が砕けて、周囲の椅子がまとめて吹き飛んだ。


「あーあ」


 アンジェリカが、呆れたように頬杖をついた。


「気色悪ィ説教してんじゃねえよ、変態野郎」


 グレイの低い唸りが、空気を震わせる。


 ヴォルドガーンの眉間に、深い皺が刻まれる。


「邪魔をするな、グレイよ」


「嫌だね」


 即答だった。


 倒れ伏したマルクの頭をグレイは勢いよく踏みつけた。


「こいつァこの夜会のイレギュラーだ。聞かねェといけないことがまだ大量にある。なァ?魂無しィ」

 

「……ぐぅ」


 グレイの足が、ぐりぐりとマルクの頭を踏みにじる。


「そんなものは後から調べればよい。それに、本当にそれが貴様が此奴を生かす理由か?」


 ヴォルドガーンの鋭い眼光が、矢のようにグレイを射抜く。


「……あァ、勿論だ。こいつァ夜会の“完成”に必要な存在かもしれねェ。殺すのは時期尚早ってやつだ」




(——ってそんな訳無えけどなァ〜♪)




 グレイの口角が、三日月のように吊り上がる。


(夜会のメンバーに相応しくない肉体強度、卑屈な性格。そして何より、“魂”が無いと来たァ)


 ぐり、と。


 グレイの踵が、マルクの頭へさらに沈み込む。


(他人に踏みつけられ、弄ばれるためだけに生まれてきたような存在。弱者ですらねェ。“弱者を越えた弱者”だ)


 グレイの喉が、愉快そうに鳴った。


(あ〜……神様ってモンがいるなら感謝するぜェ〜♡)


(こいつァ、俺の玩具だ)


(——ぜってェ、楽には死なせねェ)


「グレイ、父に反抗するか」


「反抗ォ?」


 グレイが、くつくつと笑う。


「てめェを父親だと思ってる奴なんて」


 グレイの肩が震える。


「誰一人いねェんだよォ!!」


 背中から引き抜かれたのは、巨大な鉈。欠けた刃と、乾いた黒色が、多くの命を噛み砕いてきたことを証明している。


「死ねェェ!!!!」


 鉈が、ヴォルドガーンの首筋に迫る。


「フン、バカ息子が」


 ヴォルドガーンは瞳を閉じ、深く息を吐いた。


 その瞬間、マルクは、広間全体の空気が澱んだような感覚を覚えた。

 

 一瞬一瞬を引き延ばされたような世界で、自由に動いているのはヴォルドガーンだけ。


 ……いや、違う。




 視界の隅で誰かが微笑んだ。




 莫大な衝撃が、マルクの体を吹き飛ばす。


 何度も床を転がり、瓦礫へ叩きつけられる。


「が、はッ」


 視界の先。


 広間の中心には、巨大なクレーターが生まれていた。


 その中央で——


「……」


 グレイの顔面が、床へ深々とめり込んでいた。ヴォルドガーンの巨大な手が、グレイの後頭部を鷲掴みにしている。


 床へ叩きつけられた衝撃で、石畳は蜘蛛の巣状に砕け散っていた。


「親へ牙を剥くとは、出来の悪い息子だ」


 ヴォルドガーンが、静かに呟く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ