第十四話 俺たちマウシーズ!
『はいどうもーみんな大好き死神フォルツ様でーす』
ピンク色のタキシードを身に纏った男が、前髪を指で払った。
『えー今日は視聴者からメールを貰いまして〜なんか、チョキチョキさん?みたいな都市伝説が流行ってるらしくて〜』
【ハキハキ喋れ】
【さっさと行けや】
【ビビんなよ】
【勝手に行けば】
【フォルツ様かっこいい///】
【髪型へんなの】
『こんの一般人共がッ!!!!あと髪型は関係ないだろッ!!!!!!』
フォルツは画面に顔がつきそうなほど近づき、コメント欄を睨みつけた。
『まあとにかく、なんか出現場所っぽい地図も一緒に届いたから〜適当に行って、超級探索者でもあるオレ様が、サクッと退治してきてやろうかな〜みたいな』
【だから早く行け】
【さっさと行け】
【すぐに行け】
【フォルツ様イカしてる///】
【早く〇ね】
『おい!!〇ねはライン越えだろ!!!!!!ってことで、行ってきま〜〜す』
フォルツはピースサインを作り、それをチョキチョキと数回閉じたり開いたりさせた。
◇◇◇
同じ頃。
都市中心部から南東に外れたエリア。
アテンの家がある東商店街からは、徒歩で20分ほどの距離だった。
マルクは時計を確認した。
現在の時刻は十六時二十分。
約束の時刻は、十七時と記載されていた。
少し、早く来すぎたかもしれない。
その時間になれば、依頼者が現れるのか、詳しいことは分からない。
地図が送られてきたのを最後に、何度質問のメールを送っても、依頼者から返信が来ることはなかった。
周囲を見渡す。
古びた住宅と空き地が並ぶ、特段変わり映えない場所だった。
特に目印になるようなものはなく、待ち合わせ場所としては少し妙に感じられる。
依頼者も不明。
この場所に連れてきた理由も不明。
この手の依頼にしては、曖昧な事が多すぎる。
「…………帰ろうかな」
マルクは小さく呟いた。
その時だった。
前方の十字路から、重低音が聞こえてきた。
それは少しずつ大きくなり、こちらへ近づいてくる。
マルクは顔をあげた。
遅れて、その正体に気付く。
バイクのエンジン音だ。
「ここかぁ〜?あの地図にあった場所はぁ?」
「隊長ぉ帰りましょうよぉ〜あっし、怖くてもうチビりそうっすよぉ〜」
「マジめんどい。マジだるい。マジ帰宅希望」
三台のバイクを先頭に、続々と人影が現れた。
それぞれが黒と黄色の装束を身に纏った、武装集団だった。
「んぁ?」
先頭の男と目が合う。
ヤマアラシの針のように逆立った赤い長髪が特徴的な男だった。
ロック歌手のような黄色いスカジャンに、ダメージが刻まれた黒のデニムパンツ。
腰にはジャックナイフが何本も、無造作に差してあった。
「なんだてめぇ」
こっちのセリフだった。
しかし、マルクは思い直す。
もしかして、彼らが依頼者だろうか。
「あの〜メールくれたのってあなた達ですか……?」
集団に、ぽかんとした空気が広がる。
先頭の三人が顔を見合わせ、ヒソヒソと何かを話し始めた。
「まさか、これってよぉ」
「そのまさかだと思うっす……」
「マジ最悪。マジ無駄足。マジ帰宅希望」
「……?」
マルクは首を傾げた。
「あー、もしかしてお前も、あの依頼を受けたのか?」
こほんと咳払いをし、ヤマアラシ男が言った。
「え?チョキチョキさんの討伐ですよね?受けましたよ……って、お前もってことは……」
「あーやっぱりか」
ヤマアラシ男は頭を掻いた。
次の瞬間、男の目が見開いた。
「天虎組に輝く二番星!!」
「虎の威を借るネズミとは、あっしらのことっす!!」
「マジ宣伝。マジ紹介。マジ記憶希望」
「天虎組二番隊!!オレ達が“マウシーズ”!!!!!」
「だ!!!!」
「っす!!!!」
「的なー」
「…………ぉ、おお」
それぞれ独特なポーズをとる三人に、マルクは一応拍手をした。
「どもっす……」
ヤマアラシ男の隣に立つ男が、照れたように頭を掻いた。
小さなサングラスに黄色いヘルメット。
右手には何故かツルハシを持っている。
「おい!!ラグー!!懐柔されてんじゃねぇ!!」
ヤマアラシ男が叫んだ。
そして、ずいっと前に出る。
「オレは天虎組、二番隊隊長、サンダー・ギルベルトってもんだ。そしてこっちは……」
「マジスージー。マジレオニオン。マジよろしく」
眠ったような目の女が、気怠げに告げた。
両頬は大量の飴玉でも詰め込んでいるのか、不自然なほど丸く膨らんでいた。
「よろしくなぁ」
サンダーが右手を差し出してきた。
「ど、どうも……」
マルクが一歩前に出た、その時だった。
「あーーーーーーッ!!!!」
サンダーの後ろから、誰かの叫び声が響いた。
「なんだぁ?今、取り込み中だって分かんねえのか?」
「す、すいやせん……!!でも、こいつ前言ったあいつですよ!!」
「あぁ?」
サンダーが眉をひそめる。
人垣をかき分けるようにして、一人の男が前へ飛び出してきた。
「こいつ上手く言えないけど異常なんですよ!関わんないほうがいいっす!」
男が喚いた。
誰だろうと考えて、マルクはようやく思い当たった。
「……アテンと買い物に行った帰りの」
マルクに肩がぶつかったと因縁をつけてきた猪男だ。
「…………アテン?」
サンダーの眉が、ぴくりと動いた。
「おい、今、アテンって言ったか?」
「え?はい」
マルクは不思議そうに頷いた。
「知り合いなのか?」
サンダーは値踏みするようにマルクを見た。
「一緒に住んでますけど」
「はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声が飛び出した。
夜会。
その存在は、都市でも限られた者しか知らない。
だが、その名を知る者ならば、誰もが理解している。
彼らは絶対の支配者。
それぞれが何かを支配し、円卓によって絶大な力を許されているという。
「…………他のメンバーとは?」
サンダーの声音が変わった。
先程までの軽薄さはない。
まるで地雷の位置を探るような目で、マルクを見ている。
「……一応、会ったことはあります」
マルクは目を白黒させながら呟いた。
「…………そうか」
サンダーは視線を下に向けた。
その表情を探ろうと、マルクが覗き込もうとした、その時。
「囲め」
低い声だった。
だが、その一言だけで空気が変わる。
「え?」
マルクが周りを見回す。
「こうなると隊長、止まらないんすよ」
「マジ面倒」
サンダーの取り巻き二人が、それぞれの手に得物を握り、前に出る。
「悪いな」
その間をサンダーがゆっくりと歩いてくる。
「そもそもこれは俺たちの依頼だ。霧の“遺物も”、報酬も渡す気はねぇ」
それに、と続ける。
「お前みてえのが」
サンダーがジャックナイフを握り込む。
「“そこ”に立ってんじゃねえよ!!!」
咆哮。
凄まじいアラヤが突風を呼んだ。
「……ッ!」
マルクは咄嗟に顔を腕で庇った。
砂埃が舞い上がり、服の裾が激しくはためく。
「消えろッ!!」
サンダーが駆けた。
ジャックナイフが首元へ届こうとした、その瞬間。
「見てください!!ヤンキーのカツアゲ現場をはっけーーーーん!!!!!」
「は?」
場の全員が、反射的に声のした方を向いた。
「なになに??……はよ行け。はよ助けろ。助けてやれよ。てかフォルツ勝てるの。弱そう。アホ。バカ。マヌケ。おい!!!!最後はただの悪口だろ!!!!」
ピンク色のタキシードの男が、端末に向かって喚いていた。
「……なんだぁ、あのふざけた野郎は……」
サンダーが足を止めた。
「……………フォルツ?」
「ッ!?!?」
マルクの呟きに、サンダーが目を見開いた。
フォルツがゆっくりとこちらに歩いてくる。
「一般人共が……オレ様はこれでも一応超級なんですけどねェ」
そのまま端末へ顔を寄せる。
「はいはい分かってる分かってる。助けろってコメントが多いので、仕方なく助けましょう」
【助けろ】
【助けろ】
【助けろ】
【助けろ】
【助けろ】
【フォルツ様優しい///】
「最後のだけ拾っとくか」
満足そうに頷いた後、ようやくサンダー達へ視線を向けた。
「さて、良いネタになってくれよ」
マルクの横に立ち、先の丸いハサミを懐から出した。




