↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
91/721

セオの告白3

「兄さんは、そこまでカナのことを……」


セオはしばし沈黙し、やがてにっこり微笑むと、静かにカツラと眼鏡を外した。


「……分かった。

僕はたった今から、ルセオラスに戻るよ。

王子教育は終わっている。執務に何の問題もないはずだ」


その目は温かくも、揺るぎない決意を秘めていた。

視線をゆっくりと学院長に向けて問いかける。


「ですよね? 学院長先生」


セレスタンは微笑んで頷く。


「ええ。レイナルト殿下は体調を崩し、休養されていることにしましょう。

王宮ではなく、学院離宮で。

ルセオラス殿下が代行されることに、何の問題もありません」


「……だって。兄さん。

ま、僕は兄さんの執務の一割もできるかどうか、だけどね」


セオは場の空気を和ませるように、明るく言う。


レイナルトは静かに目を伏せ、深い息をついた。


「感謝する」


そう言うと、レイナルトはそっと自身の指輪を外した。

迷うことなく、その指輪をセオに差し出す。


「これは……王太子の証だ。

……もし、俺に万が一のことがあったら、お前が立て」


セオは笑顔をしまうと言葉を失った。

だがやがて、ふっと息を吐くと、手を伸ばし、指輪を受け取った。


「兄さん……これは、ただ預かるだけだ。

必ず、返す。

だからどうか……必ず、帰って来てほしい」


「……ああ」


深夜、レイナルトは極少数の護衛を伴い、静かに王都を旅立ったのだった。



*



レイナルトが学院長室を去った後、静寂がその場を包んだ。


「行ってしまわれた……か」


セレスタンの声が、静かに落ちる。


セオは差し出された指輪をじっと見つめる。

銀色に淡く輝くそれは、次期国王たる証。

王太子としての責務、そして兄の覚悟が刻まれている品だった。


彼の胸の内には、重責がのしかかる。


「……兄さん。僕、頑張るよ。

だから兄さんもどうか、無事で……」


不安と覚悟が交錯する中、セオはゆっくりと目を閉じ、深呼吸を一つした。



*



レイナルトは孤高の存在だった。

頭脳明晰で冷徹、その壁は誰にも容易く破られることはなかった。

誰も彼の内側に踏み込もうとはしなかったし、彼自身もそれを許そうとはしなかった。


しかし、カナに対してだけは違った。

彼は大事なものを壊さぬよう、そっと包み込むように、彼女のそばにあろうとしていた。

その姿は、普段の冷静さとは別人のように柔らかく、温かかった。


セオは静かに目を閉じ、穏やかな記憶を辿った。

カナが学院に入学してから、ずっとその近くにいた自分。

学院祭の華やかな日も、彼女のそばで静かに見守っていた。


あの日、カナとレイナルトが並ぶ姿を見つめていた。

レイナルトの瞳には、彼女を愛しく思う気配が漂っていた。


その気配は、まるで強い守護者のようで――それを見て、セオは密かに安心したものだった。

セオはカナに、心から感謝していた。


「兄さんの孤独を、癒してくれてありがとう」


――しかし、まさかレイナルトが、自らカナの元へ行くと言い出すとは、想像もしなかった。

兄の揺るがぬ決意を知った。


「――ルセオラスに戻るよ」


それは、兄の代わりに王都を守り、学院を背負う覚悟。

迷うことはなかった。素直に言えた。


セオの胸には、静かな決意が満ちていた。


(兄さんを、そしてカナも守るために)


夜風がそっと頬を撫でる。

静謐な空気の中で、セレスタンはそっと声をかける。


「……ルセオラス殿下、お覚悟、見事でした。

私も微力ながらお支えしましょう」


「……学院長先生。ありがとうございます……」


セオは小さく頷き、指輪を握りしめた。

その夜、学院の窓から見上げる星空は、彼らを見守るかのように、静かに輝いていた。



――遠く離れた場所で、レイナルトもまた同じ星空を見上げていた。

彼の表情は険しくも、どこか穏やかだった。


「……カナ、待っていてくれ。

そしてセオ、俺は必ず、戻る」


その言葉が風に乗り、夜の静寂に溶けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。