セオの告白1
「カナなら、きっと大丈夫だよ」
セオは穏やかに言った。
「あの祝祷で――きっと全ての精霊に愛されたはずだ。だから、きっと守ってくれる」
「いや……」
レイナルトは蒼白な顔のまま、低く否定する。
「確認した。カナはすべての精霊に愛されてはいるが、
彼女が扱えるのは――風と水、そして光だけだ」
セレスタンも頷く。
「そう……なんだ」
セオは小さく呟くと、静かに目を閉じた。
しばしの沈黙。
やがて目を開いた彼は、真っ直ぐにレイナルトとセレスタンを見据え、口を開いた。
「……なら、急がないと」
セオの声は低く、研ぎ澄まされた刃のようだった。
「風と水と光だけじゃ、全部は守れない。闇や炎に晒されたら……」
言葉を切り、彼は一瞬だけ唇を噛む。
レイナルトの肩がわずかに強張った。
「カナは、狙われる」
その一言が、重く室内に落ちた。
セレスタンの表情も硬くなる。
「……すでに動いている可能性もあるか……」
空気が冷えたように感じられ、誰もが次の一手を探るように沈黙する。
*
セオは、決意を固めたように息を吸い込んだ。
「……カナを助けるために、僕の研究を話すよ、兄さん」
その瞳には迷いがなかった。
静かに手を掲げ、低く呟く。
「――霊路顕現」
瞬間、空気がわずかに震え、彼らの目の前に王国全土の立体地図が浮かび上がる。
大地の奥を流れる精脈が、脈動する光の線として顕れた。
正常な流れは淡く青白く輝き、しかし――ところどころに、赤黒く濁る歪みが脈打っている。
「なっ!」
「……これは……!!」
レイナルトも、セレスタンも、言葉を失ったまま、その光景に見入っていた。
「これは、王国の精脈の流れだよ」
セオは淡々と告げる。
地図の上に浮かぶ赤黒い脈動を、レイナルトとセレスタンは無言で見つめる。
それが「危険な歪み」を意味することなど、説明されるまでもない。
「……こんなにも歪みが……」
レイナルトの声はかすかに震えていた。
「そう。そして――」
セオは指先で地図上をなぞった。
「それは徐々に、この学院の精霊樹に近づいているんだ。
隣国は魔術大国――我が国の精霊の祝福と魔術の調和を脅威とみなし、それを破壊しようとしている。
精脈が乱れれば土地は荒れ、民は混乱に陥る。
きっとその隙に攻め込むつもりなんだ。
だから……精霊樹が闇に呑まれたら、王国は……きっと、終わる」
レイナルトとセレスタンは絶句した。
そしてレイナルトの視線は、自然に辺境へと向かう。
そこは、赤すら霞むほど、真っ黒に塗りつぶされている。
「……精霊の森が……」
絞り出すような声が、室内の張り詰めた空気を震わせた。
「最初は……精霊の森の周辺だけだったんだ」
セオの声は低く、しかし一言ごとに重みを増していく。
「それが今では、あちこちに広がっている。
――これは、この国の誰かが協力していると考えるべきだ」
レイナルトは息を詰まらせ、言葉を失った。
「……内通者か。何のために……」
「媒介者なのか……それは、まだ分からない」
セオは、地図から視線を外さずに続ける。
「今、魔力の流れを辿っているところなんだ。
ただ、一つだけ、確かに言えることがある」
彼は短く息を吐き、二人を見た。
「――干渉を行っている敵術者が生きている場合、歪みは時間を置いて……必ず再発する」
その言葉が落ちた瞬間、室内の空気はさらに冷え、誰もが次に来る危機をはっきりと想像した。




