明かされる目的
ep.84の続きになります!
「……ルセオラス……いや、セオ。なぜここに」
声がわずかに震えた。
弟は、落ち着いた笑みを浮かべたまま、ゆっくりと歩み寄る。
「隣国から、きな臭い噂が届いたんだ。
国境沿いでの動き、交易路での不審な荷……。
留学を続けている場合じゃないと思ってね」
淡々とした口調だが、その言葉の奥には冷ややかな緊張が潜んでいる。
「帰ってきてからは、ずっと調べ物と研究をしてたよ。
……父上も、学院長先生も知ってる。だから学院の中で動いても黙認されてるんだ」
レイナルトは一瞬、言葉を失った。
「研究……? どこにいた」
「一般寮だよ。あそこなら、誰の目にも留まらない。護衛もいない方が動きやすい」
肩をすくめる仕草は軽やかだが、その瞳は一片の冗談も含まない。
月明かりが二人の金髪を照らし、兄弟の輪郭を浮かび上がらせる。
ルセオラスはカツラと眼鏡を戻す。
セオ・クローヴァに戻ると、一歩踏み出し、手を差し出すと言った。
「詳しい話は学院長室でしよう。
兄さんにも聞いてほしい」
「……わかった。
……良く戻った。セオ」
しばしの沈黙のあと、レイナルトはその手を握り、固く握手を交わす。
そして短く息を吐くと、頷いた。
夜風が二人の間をすり抜け、精霊樹の葉をさらりと揺らす。
二人は中庭を後にし、静まり返った学院の廊下を連れ立って歩き出す。
石畳に響く靴音だけが、長く尾を引いて夜に溶けていった。
*
学院長室の重厚な扉が静かに開く。
セレスタンは二人の姿を見ると、静かに息をつき、セオを見た。
「ついに、明かされたのですね」
その言葉には、覚悟と重責が込められていた。
セレスタンはゆっくりと立ち上がると、レイナルトに向かって頭を下げる。
「レイナルト殿下。
陛下の命により、ルセオラス殿下のことをお伝え出来ず、申し訳ありませんでした」
レイナルトは少しだけ緊張の色を滲ませながらも、真剣に頷くと言った。
「いや……理由は聞いた。どうか、顔を上げてほしい」
隣にいるセオは、静かな表情を崩さない。
セレスタンは彼に向かうと、静かな口調で問いかけた。
「では、研究は成功されたのですね」
彼はゆっくりと頷いた。
「ええ。これまでの調査と、実験の成果は確かなものです」
その言葉に、レイナルトは眉を寄せた。
「……セオ。さっきから言っている『研究』とは、一体何のことだ?」
セオの目が鋭く光る。
「王国の安寧を脅かす、隣国の不穏な動きに関するものだよ。
精霊の力の異常な乱れや、封印の緩み……。
それらの原因を解明し、対策を講じるために研究していたんだ」
空気が一層引き締まった。
レイナルトの眉間に深い皺が寄った。
「その異常な乱れと封印の緩みとは……具体的に、何を意味するんだ?」
セオは言葉を選びながら答えた。
「長年、王国の守護にあった精霊の力が不安定になって、弱まっているんだよ、兄さん。
それは単なる自然の乱れではなくて……。
多分、というか、十中八九、隣国の意図的な介入があると思ってる」
彼は続ける。
「だからこそ、僕は帰国して密かに研究を進めてきたんだ。
新たな封印の方法や、異変の原因となる存在の特定を」
沈黙が室内を満たす。
レイナルトは眉を上げると息を呑み、低く言葉を紡いだ。
「……精霊たちの力が不安定になるというのは……。
もしや、森や土地に異変が起こるということか?」
セオは頷いた。
「そう。
……って、に、兄さん、大丈夫?!」
レイナルトは、音を立てて血の気が引くのが分かった。
「辺境の精霊の森の異常……カナが、そこへ向かっている。
もしや、隣国の、手の中へ……?!」
「えっ?! カナが?!」
セオはセレスタンを見る。
学院長は眉をひそめて頷いた。
「精霊の森近郊で異常発生、調査ということで、
精霊庁の上級官、エリアス・グランと共に向かっています」
セオは絶句した。
「カナが……」
学院長室に、重い沈黙がのしかかっていた。




