リクエストIF・SS カナの休暇2
SSのはずだったのですが……?
3人のにぎやかな休暇に、もう少しお付き合いいただければと思います。
午後の陽射しが少し傾きはじめたころ、二人を乗せた馬車は王都を後にした。
街外れを抜けると、石畳はやがて緩やかな土の道に変わり、両脇には夏草の揺れる丘が広がっていく。
「この先に、山に近い湖がある。別荘は、その湖畔に建っているんだ」
窓辺に身を乗り出すようにして、サラが説明する。
「湖……」
「うん。ボートにも乗れるよ。
風のない日は水面が鏡みたいで、とてもきれいなんだ」
馬車の外では、遠くの山並みが少しずつ近づき、山肌を覆う深緑が目に鮮やかだった。
道端では、農家の人々が籠を抱えて帰路につき、すれ違うたびに穏やかな笑顔を向けてくれる。
「母と兄は、明日の朝に来る予定だよ」
「じゃあ、今日は二人だけなんだね」
「そうだね。夕暮れ前に着くから、荷を解いたら少し湖まで散歩しよう」
馬車の中は、窓から入る澄んだ風の匂いで満ちていた。
王都の喧騒が遠ざかり、これから始まる湖畔での休暇が、二人の胸に静かに広がっていく。
*
やがて、馬車は森の小道へと入った。
両脇の木々が作る緑のアーチをくぐり抜けると、
視界の先に白い壁と赤茶色の屋根を持つ瀟洒な建物が現れる。
「着いたよ。ここがうちの別荘」
サラの声には、どこか誇らしさと安堵が混じっていた。
玄関前で馬車が止まると、管理を任されている年配の執事が出迎え、荷物を受け取ってくれる。
館の中は木の香りがほのかに漂い、落ち着いた空気に包まれていた。
「やっぱり荷解きは後にして……せっかく明るいうちに着いたから、湖まで行こう」
サラは軽やかにカナの手を取った。
別荘の裏手から続く小道は、柔らかな草の匂いを運び、遠くから水のきらめきを反射させている。
やがて木立が途切れると、夕陽を受けた湖面が視界いっぱいに広がった。
水面は金色に揺れ、ゆるやかな波が岸辺の小石を優しく撫でている。
「……すごい……きれい……」
カナが息をのむと、サラは満足そうに微笑んだ。
「明日はボートに乗ろう。
湖の真ん中から見る朝は、もっと素敵だよ」
岸辺に立ち、二人はしばらく言葉もなく、その景色を見つめていた。
夕暮れの光と湖の静けさが、これからの休暇の始まりをゆっくりと告げていた。
*
湖から戻ると、別荘の玄関前に、見慣れた姿が立っていた。
「……えっ? ミリア!?」
カナが思わず声を上げると、ミリアはにやりと笑って両手を広げる。
「やったー! サプラーイズ!!
サラ、ちゃんと秘密にしてくれてたんだね!」
振り返ると、サラがいたずらっぽく唇を上げた。
「驚かせたくて。内緒にしてたんだ」
「もう……本当にびっくりした」
カナは笑いながら、ミリアと軽く抱き合った。
そのまま三人で食堂へ向かうと、テーブルには温かなスープや焼きたてのパン、
香草を添えた肉料理が並び、窓の外には湖面に映る夕暮れの光がちらちらと揺れていた。
「三人で過ごせるなんて、思ってなかった。とっても嬉しい!」
「せっかくの休暇だからね。賑やかな方がいいだろう?」
サラの言葉に、カナとミリアは顔を見合わせ、同時に笑った。
食後は暖炉の火を囲み、学院での出来事や、湖での遊びの計画を語り合う。
外はすっかり夜の静けさに包まれ、湖の水が岸を撫でる音だけが響いていた。




