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精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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リクエストIF・SS  カナの休暇1

リクエスト頂きました、サラとカナのIFストーリーになります。

(読まなくても本編には関係ありません)

時間軸としては、エピソード62あたりになります。

学院は長期休暇に入り、学生たちは次々と故郷や旅行先へと旅立っていった。

中庭の噴水前も、荷物を抱えた生徒たちの笑い声が響き、いつもより少し賑やかだ。


「カナは、休暇はどうする?」


サラが声をかけてくる。薄紫の瞳が、ふと気遣うように揺れる。


「うん……村には帰り方が分からないし。寮に残って勉強しようかなって」


カナは笑って答えるが、その笑みはほんの少し心細げだ。

サラは少し考え、すぐにさらりと言った。


「じゃあ、うちに来る?」


「えっ……サラの家に?」


「うん。どうかな?」


カナは戸惑いながらも、サラの優しい誘いに胸が温かくなる。

学院で過ごした日々の中で、彼女がこうして自分を思ってくれることが、何より嬉しかった。


「……じゃあ、お言葉に甘えて、行ってもいい?」


「……よし。決まり」


サラの口元がふわりと緩む。

こうして二人の、少し特別な休暇が始まった——。





サラの家は、王都の中心部に建つ堂々たる屋敷だった。


白い石造りの外壁は陽を受けて淡く輝き、門をくぐると広い庭園が広がっている。

噴水の水音と、夏花の香りが、心地よい風に乗って漂った。


「……すごい……」


思わず小さくつぶやくカナに、サラは少し照れたように笑う。


「父の仕事柄、来客が多いから。

慣れれば、ただの家だよ」


――やがて、馬車は玄関にたどり着く。





「ようこそ、リンドール侯爵邸へ。

そして、お帰り、サラ」


屋敷の玄関で、執事と、サラの兄がにこやかに出迎えた。

背筋の伸びた立ち姿、穏やかな笑み。けれど、その瞳には鋭さも宿っている。


「サラから話は聞いているよ。

学院で妹がお世話になっているそうだね」


「い、いえ……こちらこそ……!」


カナは慌ててお辞儀をしたが、心の中で小さく衝撃を受けていた。


(こ、侯爵邸? サラって……侯爵令嬢だったの?!)


「ありがとう、お兄様。

……ただいま」


サラに続いて玄関に入る。

そこに立っていたのは、穏やかな笑みを浮かべたサラの母だった。


「まあ、カナさん。ようこそいらっしゃいました。

サラも元気そうでよかったわ。おかえりなさい」


「お母様……ただいま戻りました」


「は、はじめまして……お世話になります……」


カナは深く頭を下げた。





夕食時。

広い食堂の中央には、磨き上げられた長いテーブル。

燭台の灯りが金の縁取りを淡く照らし、白磁の皿の上に香り立つ料理が並んでいる。


カナはサラと並んで腰を下ろし、向かいにはサラの兄、

その隣には優雅な微笑みをたたえたサラの母――侯爵夫人が座っていた。


「学院での生活は、いかがかしら?」


侯爵夫人が穏やかに問いかける。


「はい……まだ不慣れなことも多いですが、皆さんに助けられています」


カナの答えに、サラの兄が軽く頷いた。


「妹は昔から人見知りだが、君と一緒だと楽しそうだ。感謝しているよ」


食卓では、学院の授業や行事の話、寮でのちょっとした出来事まで、笑いを交えながら話が弾んだ。

気づけば、緊張していたカナも自然と笑顔になっていた。


「少し部屋で話さない?」


食後、サラが声をかけてくる。

彼女の部屋は、落ち着いた色合いの家具とレースのカーテンが揺れる、静かで温かな空間だった。


ベッドに腰掛け、お互いの学生生活や、将来のこと、

好きな食べ物の話まで――時が経つのを忘れるほど語り合った。


「――もうこんな時間か。そろそろ休もうか」


サラが笑みを浮かべると、メイドがそっと近づき、カナを客室へと案内した。


客室の扉を開けると、そこにはかわいらしい部屋が待っていた。


白銀のレースが縁取られた天蓋付きのベッド。

窓辺には薄いピンク色のカーテン。

高い天井と、淡く灯るシャンデリアが、部屋全体をやわらかな光で包んでいる。

暖かい色調の絨毯と、薔薇模様の壁紙。


「かっ……かわいいっ! お姫様の部屋みたい……」


カナが目を丸くしてサラを振り返る。

彼女はふっと微笑んだ。


「喜んでもらえてよかったよ。

じゃ、おやすみ、カナ」


「おやすみなさい、サラ」


扉が閉まったあとも、カナの胸は温かく満たされていた。

この休暇は、きっと忘れられないものになる――そんな予感とともに、眠りへと落ちていった。





翌朝、食事を終えると、サラが言った。


「今日の午後から、領地にある別荘へ行くよ。

結構涼しい場所で、空気も澄んでいるんだ」


「別荘……?!

え、私も一緒に行っていいの?」


カナは目を見開く。

サラは微笑んで頷く。


「もちろんだよ。

それで……別荘に行く前に、王都を少し回らない? 

市場も見せてあげたいんだ」



家紋がついていない、侯爵家のお忍び用馬車に乗り、石畳の大通りをゆっくり進む。

窓から見える王都は活気に満ちていた。


色とりどりの布が翻り、行き交う人々の笑い声が響く。

カナは、初めて王都の土を踏んだ頃を思い出す。


市場に着くと、サラがひらりと馬車から降りた。


「カナ、降りるよ」


「えっ、でも……」


「大丈夫。護衛もいるから」



市場では香辛料の香りが漂い、果物や焼き菓子の屋台が並ぶ。

サラは慣れた手つきで小銭を払い、包みを二つ受け取った。


「はい、ミートパイ。熱いから気をつけて」


「ありがとう……!」


歩きながら頬張ると、パイの中からスパイスたっぷりの肉が顔を出す。


「すっごく、美味しい……」


カナは思わず呟いた。

サラはその横で、少しだけ子どものように笑う。


「……本当はこういう賑やかな場所、好きなんだ」


そう言って微笑む姿に、カナはふと、これまでとは違う距離の近さを感じた。


二人はそれからも街を歩き、気の向くままに通りの本屋に入ったり、

アクセサリーショップを覗いたりして楽しんだ。


そして二人は、来た時の馬車に乗り、侯爵邸へと戻っていった。

馬車で向かう道中、カナは窓の外に広がる景色を眺めながら、この非日常に心を躍らせるのだった。

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