決意を、胸に
夕暮れの空が紫色に染まるころ、カナとエリアスは静かに村へと戻ってきた。
「ただいま……」
カナとエリアスがゆっくりと扉を開けて中に入ると、
疲れ切った表情のエダンと、やや赤い目で彼らを迎えたマリナの姿があった。
「おお、よく無事に戻った!」
エダンの声は安堵に満ちていた。
マリナもにっこりと笑いながら、力強くカナの手を握る。
「本当に良かった……あなたたちが無事でいてくれて、どんなに嬉しいかわからないわ」
カナは、胸がじんわりと温かくなるのを感じながらも、心の中にはまだ緊張が残っていた。
「あの、エダンさん、マリナさん……」
話そうと口を開いたカナを、エダンが優しい声で制した。
「まずは落ち着け。夕食をとろう。話はその後にしよう」
マリナが奥の台所から、熱々の料理を何皿も運んでくる。
温かな灯りの下、テーブルにはたくさんの心のこもった料理が並ぶ。
エリアスは、一度は礼を言ってから「自分は村の宿に」と言いかけたが、
マリナがにこやかに声をかけた。
「どうぞ、ゆっくりしていってください。
いっぱい食べて、疲れを癒してくださいな」
その温かい言葉に、エリアスはぎこちなくも微笑みを返し、席に着いた。
フォークを手に取り、最初の一口を口に運ぶ。
「……美味しい」
カナが満面の笑みで頷いた。
「そう!マリナさんの料理は、とっても美味しいんです!」
マリナは照れくさそうに微笑む。
温かい空気が部屋を満たしていた。
彼女は嬉しそうに笑い返す。
「ありがとう。
あなたたちのために作ったのよ。いっぱい食べてね」
部屋の中には、ほっとする温もりと、しばしの安息が広がっていた。
夕食を囲みながら、エダンはカナに微笑むと静かに言った。
「こうしてまた、カナと一緒に食事ができることが、何よりの喜びだ」
「……エダンさん……」
カナはその言葉に胸が熱くなり、涙がこぼれそうになるのを必死で堪えた。
*
夕食後。
皆で、居間に移動する。
エリアスは言葉を発さず、ただ静かにカナの隣に座った。
カナが震える声で口を開く。
「……私、靄を抑えられるかもしれません」
カナは、自分が消えてしまうかもしれないことは伏せ、
学院で光の精霊に浄化の力を授かったこと、
その力で、靄が抑えられるかもしれないことを話した。
もし靄が消えれば……人々は少しずつ元に戻ってくると。
それを行うのは――今夜だということも。
エダンはカナの目をじっと見つめ、深く息を吐いた。
「カナ。お前のことはもう、我が子のように思っている。
だからこそ、その言葉が嬉しくもあり、同時に怖くもある」
マリナはカナの手をそっと握り、優しく声をかける。
「無理はしないで。あなたが倒れてしまっては、私たちみんなが悲しむ。
どうか、自分の身体も大切にして」
カナはマリナの温かいまなざしに胸を締めつけられ、強く頷いた。
「ありがとうございます。
でも……皆のために、やらなければ」
マリナは涙を流しながら、そっとカナを抱きしめた。
「どうか、無事でいて。お願いよ……カナ」
エダンもまた、涙をこらえながら静かにその様子を見つめると言った。
「お前の覚悟はわかっている……。
だが、忘れるな――誰よりもお前自身を守ることも、戦いの一つだと」
エダンには、カナが何か大事なことを隠していることが分かっていた。
その上で、彼女の悲壮なまでの決意が、何よりも強く伝わっていた。
その言葉に、部屋に緊張が走る。
カナは深く息を吸い込み、覚悟を新たにした。
「必ず……帰ります」
静かな決意が、夜の闇に溶けていった。




