エリアスの想い
シルヴィアに別れを告げ、カナは森の中の来た道を戻っていった。
木々の間を抜け、大きく夕暮れ色の空が見えた瞬間――
「……!!」
こちらを見つけたエリアスが、安堵の息を吐いたのが分かった。
肩の力が抜け、こちらに駆け寄ってくる。
「カナ! 大丈夫か?
心配していた。ケガはないか?」
カナは深く息を吐き、強く頷いた。
「はい……大丈夫です。
シルヴィアから、森の異変のことを聞いてきました」
「そうか……とりあえず、森から出よう」
二人は森から出ると、村に向かって歩き出した。
「……エリアスさん……」
カナは話した。
精脈のこと、黒い靄の正体、水の精霊王の加護を受けたこと。
そして――。
口ごもりながらも、覚悟を胸に秘めて言葉を紡ぐ。
「……シルヴィアから聞いたんです。
もし、私の魔力が浄化に耐えられなければ……私は消えてしまうかもしれないって」
彼女の瞳は揺れ、言葉の重みに押しつぶされそうだった。
エリアスの表情は一瞬、凍りつき、心臓が締めつけられるような痛みが走る。
「消える、だと……? そんなの、絶対に許さない」
彼の声は震え、感情が溢れ出すのを止められなかった。
エリアスは握りしめた拳を見つめ、しばらく動けなかった。
目の前のカナは、強い決意を抱いている。
それでも、彼の胸の中では、不安と恐怖が交錯し続けていた。
*
カナが告げた重い言葉は、エリアスの胸に鋭い棘のように突き刺さった。
「消えるかもしれない」――その言葉は、彼の中で幾度も反響し、
彼の胸に、凍てつくような恐怖と、無力感が押し寄せる。
彼がカナに出会ったのは、ただの仕事だった。
精霊庁からの派遣で、精霊の声を聞く少女を迎えに来ただけ。
――それなのに。
その屈託のない笑顔と優しさに触れるたびに、胸が締めつけられるような恋心を覚えた。
しかし、カナの瞳が向く先は、レイナルト。
レイナルトがカナへ向ける想いも、痛いほどわかっている。
だからこそ、言葉にできない。
告げれば、きっと彼女の未来を壊してしまう。
「カナが……消えるなんて、そんなこと、絶対にあってはならない……!」
だが、その言葉を口にすればするほど、現実の重みがのしかかった。
守りたいと願う相手が、今にも消えてしまうかもしれないという無力感。
でも今、目の前で消えそうな彼女を前にして――抑えきれない感情が爆発した。
「俺だって、お前を――!」
叫びながら、カナを強く抱きしめる。
その瞬間だけは、彼の中の迷いも、遠慮も消え失せた。
抱きしめる腕の力が増すたびに、抑えていた想いが爆発する。
カナの戸惑いと温もりが、彼の心の中で絡み合う。
けれどすぐに、自分の行動が何を意味するのか理解し、慌てて身体を離す。
「すまない……忘れてくれ」
声を震わせながらも、顔を背ける。
「俺はただ、君を守りたいだけなんだ」
けれど、その言葉は自分自身への言い訳にも聞こえた。
本当は――自分も、彼女の側にいたいのに。
彼女の幸せを願う気持ちと、自分の想いの狭間で、エリアスの心は引き裂かれていた。




