出発前夜
サラはしばらくカナを抱きしめたまま、涙を見せまいと必死に堪えていた。
やがて、わずかに肩を震わせながら、低くかすれた声で囁く。
「……おみやげ、買ってくるから。
きっと……受け取ってよ」
その言葉に、カナの胸がぎゅっと締めつけられる。
涙に濡れた瞳でサラを見上げ、小さく、それでも強い決意を込めて答えた。
「……帰ってきたら、サラにも、ミリアにも……聞いてほしいことがあるの。
今はまだ、言えない。
だから……必ず、帰ってくる」
サラは黙って頷き、もう一度だけ強くカナを抱きしめた。
その背を優しく撫でながら、何も言わずに想いを伝えるように。
*
――そして夜。
カナは旅行鞄を開き、静かに荷物を詰め始めた。
部屋はひっそりと静まり返り、
月明かりだけがカーテンの隙間から差し込んでいる。
鞄を閉じて、静かに部屋を見回す。
カナの視線が棚で止まる。
花冠はあの日のまま、淡い光を放ち、静かにそこにあった。
そっと両手で持ち上げ、静かに胸に当てた瞬間、
胸の奥に押し込めていた感情が溢れ出した。
花冠から、レイナルトの温もりが感じられるようで……その優しさを思い出すだけで涙がにじむ。
「……大好きです……レイナルト様……っ」
小さな声が、静かな部屋に吸い込まれる。
カナは花冠をぎゅっと抱きしめ、
彼が月明かりの下で見せた、切なくも優しい瞳を思い浮かべる。
――最後かも、しれないだろ……?
――必ず帰って来い。もう、二度と離さないから。
その声が耳元に蘇り、頬を一筋の涙が伝った。
ベッドに横たわり、枕を抱きしめ顔を埋める。
泣き声を必死に抑えながら、ただ、心の中で何度も願った。
――絶対に、戻ってくる。
――もう一度、レイナルトの腕の中に……。
月明かりに照らされる中、カナはそのまま静かに目を閉じ、涙に濡れたまま眠りへと落ちていった。




