決心の翌朝
翌朝。
朝食のホールは、休日前の開放感に包まれて賑やかだった。
テーブルに並ぶ焼きたてのパンと、香り立つスープ。
カナが席につくと、隣のミリアがぱっと顔を輝かせた。
「カナ、昨日の夕食いなかったよね? 大丈夫だった?」
ミリアの明るい声に、カナは少し慌てて笑う。
「う、うん……ちょっと疲れてて……」
「そっか! 元気になってよかったよ!」
ミリアは安心したように胸を撫で下ろすと、すぐに昨日の話を楽しげに語り出した。
「ねぇ聞いて! セオって本当に教え方が上手なんだよ!
昨日の勉強会、難しい精霊魔法の理論もすっごくわかりやすく説明してくれてさ!
今日って一日自習日じゃない?
だからまた教えてくれるって!」
その表情は嬉しそうで、目を輝かせながら手振りを交えて説明する。
その弾む声に、カナもつられて笑顔になる。
「ミリア、すごく楽しそうだね」
「うんっ! 魔力の流れの見方とか、精霊との繋がり方とか……セオって本当に頼りになるんだよ!
しかも優しいし! 今度、カナも一緒に教わろうよ!」
ミリアの元気な声が食堂に響き、カナも自然と笑みを浮かべた。
けれど――テーブルの向かいで静かに食事をしていたサラは、
カナの笑顔の奥にあるわずかな影に気づく。
ミリアが話に夢中になっている間、サラはそっとカナの横顔を見つめた。
カナが無理に笑っていることを見逃さなかった。
朝食を終え、ホールを出る。
「じゃ、行ってくるね!」
ミリアは図書館へと走っていき、カナとサラは二人きりになった。
「じゃ、ね」
カナは自分の部屋に戻ろうとしたが、廊下を歩き出したところで、後ろからサラが静かに声をかける。
「カナ、ちょっと……いい?」
振り向くと、サラが真剣な眼差しで立っていた。
「……カナ、様子が変だよ。……何があった?」
その静かな問いかけに、カナの胸がきゅっと締めつけられた。
*
カナは迷った末に、サラを自室に招いた。
扉を閉め、椅子を勧める。
サラが腰掛けると、カナは逡巡の後、小さな声で話し始めた。
「……サラ……あのね」
カナは話した。
転生したことは伏せ、精霊の森のこと、
精霊王シルヴィアのこと、フェイル村のこと。
大聖堂での検査を経て、学院に来たことを全て。
カナは俯くと言った。
「……精霊の森に、異変があると分かって……。
それで……明日、森へ行くことになったの。
もしかしたら……もう二度と、戻って来られないかもしれない」
その告白に、サラは一瞬だけ目を見開いたが、
すぐにいつもの落ち着いた表情に戻り、
ただ静かに、カナの言葉を最後まで聞いた。
そして、深く息をつきながら、低く柔らかな声で答えた。
「……ミリアがいなくて、良かったよ」
カナが驚いて顔を上げると、
サラはわずかに微笑み、首を振った。
「ミリアには、言えない。
あの子はきっと止めるよ。
泣いて泣いて……泣きながら、君を行かせないって……そういう子だから」
その言葉に、カナの胸が締めつけられる。
ミリアの顔が思い浮かび、目頭が熱くなった。
サラはそんなカナを見つめ、何も言わずに歩み寄ると、ぎゅっと、強く抱きしめた。
「……大丈夫」
普段は冷静なサラの声が、熱を帯びて震える。
「カナは……きっと帰ってくる。
私、信じてる。
どんなに時間がかかっても……ずっと、待ってる」
その言葉に、カナの涙が溢れ出す。
サラの肩に顔を埋めながら、
震える声で「ありがとう」と繰り返すしかなかった。
サラはカナの背を何度も優しく撫で、
抱きしめる腕に、離さないとばかりに力を込めた。




