別れと、誓い
学院長室を出ると、月が高く昇り、静かな光が廊下が静かに広がっていた。
しばらく無言で歩いていたレイナルトが、ふいに立ち止まり、カナの手をそっと取る。
「……寮に戻る前に、少し……歩かないか」
その声は穏やかだったが、どこか切なさを帯びていた。
カナは驚いたように見上げる。
「……レイナルト、様……?」
彼は答えず、ただ手を引いて歩き出す。
二人は静まり返った中庭へ出た。
夜露に濡れる草花が月明かりに輝き、遠くで精霊の鈴のような音が微かに響く。
夜風がそっと吹き抜けた。
レイナルトは足を止め、振り向くと、カナの肩を優しく抱いた。
その体温が胸に伝わり、カナの心臓が早鐘を打つ。
「……カナ、怖くないのか?」
震える声が夜に溶ける。
「森に行けば……元の世界に戻ってしまうかもしれない。
もう二度と……会えなくなるかもしれないのに」
カナは胸が締めつけられ、俯きながらも絞り出すように答える。
「……怖いです。
レイナルト様と離れるのは、すごく……怖い。でも……」
小さな声が夜気に震える。
レイナルトは唇を噛み、彼女をそっと抱きしめた。
「……君を守りたい。
だけど……君が選んだ道を、止めることもできない……だからせめて――」
言葉を切り、彼はカナの手首にある、銀のブレスレットをそっと撫でた。
月光を浴びて淡く光るそれを手で包むと、低く囁いた。
「――これに誓う。
たとえどこに行っても……俺は必ず、君を探す。
この世界からいなくなっても……君を、見つける」
カナの瞳から、堪えていた涙が零れる。
彼女は震える声で答えた。
「……はい……私も……。
どんなに遠くても、絶対に……レイナルト様のもとに帰ります……」
「……カナ」
その名を呼ぶ声は、どこかかすかに震えていた。
レイナルトは一歩近づき、そっと彼女を抱きしめる。
「本当は君を……このまま離したくない」
カナの胸がぎゅっと締めつけられる。
返す言葉が見つからないまま、見上げる瞳に涙が浮かぶ。
けれど、レイナルトの瞳が真っ直ぐに見つめてきて、その視線から目を逸らすことができなかった。
レイナルトはその頬にそっと手を添え、震える指先で涙を拭った。
彼は小さく息を吐くと、微かに笑みを浮かべながら、切なげに囁く。
「……最後かも、しれないだろ……?」
その言葉と同時に、彼はそっとカナの頬を両手で包み、
ためらうことなく、甘く静かなキスを落とした。
カナの胸が熱く跳ねる。
柔らかく、優しいキス。
けれど、そこにはどうしようもない切なさと、離れたくない想いが深く込められていた。
カナは瞳を閉じ、胸の奥に熱が広がるのを感じながら、ただレイナルトに身を委ねた。
レイナルトは優しく唇を離すと、彼女の耳元で囁いた。
「……必ず、帰って来い。
俺のところに……もう、二度と離さないから」
カナは震える声で、涙をこぼしながら答える。
「……はい……約束します。
絶対に……戻ってきます……」
二人は互いを抱きしめ、月明かりの中で、言葉にできない想いを交わした。




