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精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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レイナルトの決心

カナの震える声が学院長室に落ちたあと、沈黙がどれほど続いたのかわからない。


やがて、レイナルトがゆっくりと歩み寄った。

彼の足音が、カナの心臓の鼓動と重なる。


彼はそっとカナの目の前に立つと、深く息をつきながら、震える声で言った。


「……無茶はするな」


次の瞬間、レイナルトの両腕がカナを優しく包み込み、胸の奥からあふれる想いごと抱きしめた。


カナは驚いたように目を見開き、すぐに彼の胸に顔を埋める。

張り詰めていた心がほどけ、抑え込んでいた涙が一気に溢れ出した。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


嗚咽まじりに、ただその言葉だけを繰り返す。



レイナルトは黙ってカナの小さな背を支えながら、細い肩が震えるたび、静かに髪を撫でた。

温かな掌が、涙で揺れる心を包み込むようで、カナはさらに胸の奥が熱くなる。


「……帰ってこい、必ず」


レイナルトの低く掠れた声が、カナの耳元に落ちる。

その声は、震えていた。


カナは頷くことしかできず、ただ、彼の胸の中で泣き続けた。





しばらくの間、学院長室にはカナの泣き声と、レイナルトが静かに髪を撫でる音だけがあった。

ようやくカナの肩の震えが少し落ち着いた頃、その背後から静かな声が響く。


「……殿下」


レイナルトが振り向くと、そこにはエリアスが立っていた。

真剣な青の瞳が、まっすぐに彼を捉える。


「……心配する気持ちは、痛いほどわかります。

だから、俺は、誓います。

この命に代えても、カナを守り抜くと」


その瞳には、揺るぎない騎士の覚悟を宿していた。


エリアスは跪くと剣を置き、胸に手をあて、深く頭を下げた。

それは、正式な騎士の誓いだった。


レイナルトはしばし睨むように黙っていたが、やがて深く息を吐き、カナを抱く腕を少し緩めた。


「……必ず、無事に……戻してくれ」


低く絞り出すような声に、エリアスは力強く頷いた。


その様子を見守っていたセレスタンが、ゆっくりと立ち上がる。

深い皺が刻まれた額に、厳しさと優しさが同時に浮かぶ。


「……決まりですね」


 静かな声が学院長室に響く。


「エリアス、カナさん……君たち二人で精霊の森へ向かいなさい。

レイナルト殿下には、学院と王都の留守を守ってもらいます」


セレスタンはそこで一拍置き、深く息をついて、静かに続けた。


「……もし、彼女が元の世界に戻ることになっても……。

その決断を下したのは、学院長であるこの私。

恨むなら、私を恨みなさい。

だが――彼女の意志を無視するわけにはいきません」


その言葉に、室内が再び静まり返る。


レイナルトは何も言わなかった。

ただ強く目を閉じると、再びカナを抱き寄せ、その耳元で低く囁いた。


「……必ず……帰ってこい。俺のところに……」


カナは涙に濡れたまま、小さく頷く。

その姿を見て、セレスタンは静かに目を閉じ、カナの決意を胸に刻んだ。

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