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精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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旅立ちの朝

小さな村の広場に、早朝の陽が差し込む。

朝露のきらめく石畳に、馬車が静かに止まっていた。


「……いよいよか」


村長エダンが、腰に手を当てながらカナを見つめる。

その顔には、どこか寂しげな笑みが浮かんでいた。


「カナ、お前の決心はきっと正しい。

だが、決して無理はするな。心が疲れたら、いつでも帰ってこい」


「……はい。ありがとう、ございます……エダンさん」


その傍らには、エダンの妻マリナ。

彼女は、籠いっぱいの焼き菓子や干し果物を差し出しながら、目尻をそっと拭っていた。


「王都はにぎやかだろうけれど、食べ慣れた味も恋しくなるはずよ。

これ、道中で食べて。お菓子は冷めてもおいしいのよ」


「……ありがとう、マリナさん。すごく……嬉しい」


カナの目から涙がこぼれる。

マリナは、俯くカナの背中をそっと撫でてくれる。


「道中……気をつけてね。いつでも帰ってきてね。あなたの家はここよ」


「はい……お二人ともありがとう……ございます。

お世話に……なりました」


マリナは涙をこらえながらカナに言う。


「……違うでしょ、カナ。”行ってきます”よ」





荷物を積み終えた馬車の脇では、エリアスが静かに待っていた。

深い藍の外套に身を包んだ青年は、カナが現れると一礼した。


「準備が整いました。王都までは一週間ほど。

無理のない行程を取っています」


「ありがとうございます。お世話になります。

よろしくお願いいたします」


カナは深く頭を下げると、振り返って村の景色を目に焼きつける。

子どもたちと一緒に遊んだ広場、小川のせせらぎ、木々のざわめき。


――そして、風の中に、微かに重なる精霊たちの声が聞こえる。


『カナ、いってらっしゃい』

『きっと、新しい風が君を待ってる』

『また会おうね』


頬にそっと触れる風が、涙のように優しかった。


カナは俯き、唇を噛んだ。

その目に、熱いものがこみ上げる。


ーー一瞬の後。

カナはグッと拳を握ると顔を上げた。


もう、泣かない。

これは別れではなく、始まりだから。


「――行ってきます」


馬車に乗り込み、扉が閉じられる。

蹄の音が静かに響き始めた時、マリナが涙を拭いながら手を振り、

エダンはゆっくりと帽子を取って頭を下げた。


カナは窓の外に手を振り返し、風に乗せて小さく囁いた。


「……見ていてね。わたし、変わってみせるから」


馬車は村を離れ、森の道へと進んでいく。

朝の光が、カナの旅立ちを静かに祝福していた。

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