表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

644/650

平穏7

通された自室の扉を開けた瞬間、カナは思わず息をのんだ。

そこに広がっていたのは――あの日のまま、何ひとつ変わらぬ光景だった。


窓辺の小物も、棚に置かれた人形も……。

彼女の帰りをずっと待ち続けていたかのように、部屋は丁寧に整えられていた。


そっと近づき、布団に触れる。

そこからは、やわらかな陽だまりの匂いがした。


(マリナさん……)


胸の奥に、じんわりと温もりが広がる。

カナは力を抜くと、ぽふりとベッドへと身を預けた。

背中に伝わる柔らかさが、懐かしい記憶を優しく呼び起こす。


傍らには、マリナが自分のためにと作ってくれたクッション。

見上げれば、見慣れた天井の小さな染み。

 

何も変わっていない。

けれど、その何も変わらないことが、こんなにも愛おしい。


階下からは、楽しげな声がかすかに届いてきた。

マリナとエフィ、そしてオルレーナとリュシエル。


エフィがマリナの手伝いをする傍ら、オルレーナとリュシエルが、興味津々といった様子で覗き込んでいる――そんな光景が、ありありと浮かんだ。


(ふふ……本当に、幸せ……)


小さく笑みをこぼしながら、カナはゆっくりと寝返りを打った。


――その時だった。

窓の外から、聞き覚えのある声が、風に乗って届く。


「――っ」


はっとして身を起こし、窓辺へ駆け寄る。


(――あっ)


胸が、強く跳ねた。

そこにいたのは、ティオだった。


記憶の中の彼よりも、背はぐっと伸び、幼かった面差しは、今や凛とした精悍さが宿っている。


マリナが話してくれたことを思い出す。

精霊の森の異変から目を覚ましてすぐ、彼は騎士を目指し、遠くの町の道場へと、住み込みで修行に出たのだと。


その彼が今、レオニスとアルトリウスの間に立ち、木剣を握っている。

繰り返される素振り。

真剣な眼差しで振るうその一振り一振りを、二人は静かに見守っていた。


「……なかなか、筋がいいんじゃない?」


アルトリウスが、口角を上げる。


「ねえ? レオ?」


「……そうだな」


レオニスもまた、穏やかに頷いた。

その言葉に、ティオは顔を輝かせる。


「……ありがとうございます! 俺、頑張ります!」


その声は、まっすぐで、力強い。


いつの間にか、周囲には村の子どもたちが集まってきていた。

興味と憧れの入り混じった、きらきらとした眼差しで、彼らのやり取りを見つめていた。


ティオは彼らを振り返り、少し躊躇うように口を開く。


「こいつらも……騎士に興味があるんです。それで、あ、あの……」


一瞬、言葉を選ぶように視線を落とし――やがて、意を決して顔を上げた。


「あの、お二人の模擬戦……見せていただくわけにはいきませんか? 

お願いします!」


深く頭を下げる。


その願いに、レオニスとアルトリウスは顔を見合わせる。

アルトリウスの唇に、いたずらめいた笑みが浮かんだ。


「どうする? レオ」


問われたレオニスは、ふっと柔らかく笑みをこぼした。


「――いいだろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ