平穏8
村の広場に、レオニスとアルトリウスが向かい合って立つ。
その報は、あっという間に村中へと広がった。
気づけば、広場の周囲には人だかりができていた。
「なんだなんだ? 果し合いか?」
「違う違う! 王都の騎士様の模擬戦だって!」
「すげえな……あの気配……」
ざわめきと期待に満ちた声が、空気を震わせる。
カナは、その人垣の外で立ち尽くしていた。
(すごい、人……)
そっと息を呑んだ、その時。
「大丈夫か、カナ」
不意にかけられた声とともに、肩がやさしく引き寄せられる。
「レ、レイナルト様?!」
驚いて見上げると、彼は目を細め、穏やかに微笑んだ。
そのまま、彼女を人垣から守るように立つ。
そして、視線を広場の中央へと向けた。
「なんだ? 楽しそうなことになっているな」
「だ、大丈夫でしょうか……」
愉快そうなレイナルトの声に反して、不安げに問いかけるカナに、彼は軽く頷く。
「大丈夫だ。
彼らも、加減は分かっているだろう」
そう言うと、視線を再び広場へと戻した。
カナもまた、ゆっくりと視線を二人へ向ける。
*
向かい合うレオニスに、アルトリウスはにっと笑みを浮かべる。
「魔力は? どうする?」
問われたレオニスは、広場の外――ティオの姿を一瞥する。
「……もちろん、ありだ」
静かな声。
「でなければ、彼の参考にならん」
その言葉に、アルトリウスは微笑む。
「……だね。わかった!」
そして姿勢を低くすると、その気配をすっと研ぎ澄ませる。
「……それじゃ、いくよ?」
レオニスは目を細める。
「……ああ。来い!」
*
――空気が、変わった。
次の瞬間。
二人の足元から、淡く光る魔力が立ち昇り、渦を巻いた。
空気が震え、地面に光が走る。
それは、広場全体を包み込むように、広がっていった。
レイナルトは、わずかに口角を上げた。
(……さすがだ。自ら広場を結界で覆うか……)
見えぬ壁が、静かに張り巡らされる。
外へと影響を及ぼさぬよう、そして内に全力を許すための配慮。
その中心で――
二人は、同時に地を蹴った。
鋭い金属音が、遅れて響く。
――ギィンッ!
交錯する剣。
弾ける火花。
風が、後から追いかける。
一閃。
また一閃。
続けざまに繰り出される斬撃。
レオニスの剣は、水のように流麗に。
アルトリウスの剣は、風のようにしなやかに。
重なる斬撃は、もはや光の軌跡となって空間を駆ける。
踏み込み、受け、流し、打つ。
そのすべてが、ただ美しく、そして鋭い。
観衆は、息を呑んだまま動けない。
その中で――
ティオは、ただ立ち尽くしていた。
(なんて……速いんだ……)
目を凝らしても、動きが捉えきれない。
視界に残るのは、残像のような光だけ。
(……見えない……!)
拳をぎゅっと握りしめる。
(これが……騎士の剣……!)
胸の奥が、熱くなる。
同時に、自分の未熟さが、痛いほどに突きつけられた。
届かない。遠い。圧倒的に。
(でも……だからこそ――)
その瞳に、確かな光が宿る。
あの高みへ。
あの速さへ。
あの強さへ。
届きたいと、強く願う。
(……絶対に、追いつく……!)
広場の中央では、なおも剣戟が続いている。
交差する二つの剣は、まるで互いを高め合うように、なおも激しさを増していく。
視線を逸らすことなく、ティオはただ、見続けた。




