平穏6
レイナルトの眼差しを、エダンは正面から受け止めた。
そして、ゆっくりと頷く。
「……もちろんでございます、殿下。
あの異変は、我らとて被害者にございます。
カナの力がなかったらと思うと……今もなお、恐ろしい」
「――そうか。
……わかった」
エダンの低く、噛みしめるような言葉に、レイナルトは、ゆるやかに視線を巡らせた。
「では……話すといい。アルトリウス」
「……え?」
思いがけない言葉に、エダンとマリナは揃って首を傾げる。
(――なぜ、ノーザリアの王子が、王国の異変について語る……?)
二人の瞳に浮かぶ戸惑いに、アルトリウスは一度静かに目を閉じた。
胸の奥に溜め込んだものを吐き出すように、深く息を吸う。
そして、顔を上げた。
「……まず初めに……。
僕は、皆さんから石を投げられても、責められても仕方のない立場にあると……申し上げます」
その声には、覚悟の重さが滲んでいた。
アルトリウスは、まっすぐに顔を上げ、語り始める。
一つひとつ、逃げることなく。
*
すべてを聞き終えたとき。
エダンとマリナは、衝撃のあまり、言葉を失っていた。
ノーザリアの王が――精脈を歪めていた。
精霊を滅し、精霊樹を枯らし、王国を我が物にせんとした――その事実。
「僕は……皆さんに真実をお話しするため、そしてノーザリアを代表し、謝罪するために参りました」
アルトリウスは、震える声を押し殺すように、言葉を紡いだ。
その奥にあるものが、痛いほどに伝わってくる。
「父の所業は、到底許されるものではありません。
いかなる非難も、誹りも、叱責も……すべて、お受けします。どうか……」
深く、頭を下げる。
まだ年端も行かぬ少年の、そのあまりに真摯な姿に、エダンの胸は揺れた。
しばしの静寂ののち、彼は静かに口を開く。
「……アルトリウス殿下。どうぞ、お顔をお上げください」
エダンはひとつ息を吐き、ゆっくりと言葉を続ける。
「……お話は、よく分かりました。
まさか、そのようなことがあったとは……」
言葉を切り、しばし思案するように目を伏せる。
やがて、顔を上げたエダンは――俯いたままのアルトリウスへ、やわらかな微笑みを向けた。
「この話は、我らの胸の内に留めましょう。
よくぞ、打ち明けてくださいました」
その言葉に、アルトリウスははっと顔を上げる。
その瞳が大きく揺れた。
罵倒されることを覚悟していたのだろう。
膝の上で握られた手は、かすかに震えていた。
「知りたいとは申しましたが……」
エダンは静かに続ける。
「もう、過ぎたことにございます」
その隣で、マリナもそっと頷いた。
「ええ、あなたの言うとおりね」
そして、やさしく微笑む。
「私たちは、もう前を向いています。
あの異変は……もう、二度と起こらないのでしょう?」
アルトリウスは息を詰め、力強く頷いた。
「……はい。二度と。
我が名にかけて、お約束します」
その言葉に、彼女は、ふっと微笑みを深めた。
「なら、大丈夫です。
これは、ここだけのお話にしておきましょう」
二人の言葉は、あまりにもあたたかく。
そのぬくもりに、アルトリウスは再び――深く、頭を下げた。




