不穏な影
生徒たちが成績表を受け取り、一喜一憂している頃。
学院の門を抜けて、一頭の早馬が駆け込んできた。
その背には、精霊庁の紋章入りのマントをまとった伝令。
門番と短く言葉を交わすと、馬上から封蝋のついた書簡を差し出した。
「……精霊庁より至急。エリアス・グラン殿にお渡し願いたい」
伝令はすぐに踵を返し、砂煙を上げて学院を後にする。
すぐに、学院内に滞在していたエリアスのもとへ封書が届けられた。
封を切り、内容を読むや否や、彼の表情が険しくなる。
「……フェイル村近くの精霊の森で、異変……だと?」
手紙を読み終えると同時に、立ち上がる。
「……学院長に報告する。取次ぎを」
足早に学院長室へ向かう廊下を進みながら、
エリアスの胸に、フェイル村で出会った少女――カナの顔が浮かんでいた。
*
「おはよう、エリアス。よく眠れましたか」
「はい。学院長。失礼します」
扉を開けるエリアスに、学院長セレスタンは、机の上の書類に目を落としたまま声をかけた。
しかし彼のただならない声にすぐ視線を上げる。
「……何かあったのですか」
「たった今届きました……こちらを」
セレスタンが封書を受け取る。
そこにある精霊庁の紋にわずかに眉を上げたが、静かに目を通す。
『フェイル村近郊、精霊の森に異変発生。
精霊の反応が急激に乱れ、森全体が不安定化。
周辺住民にも影響の恐れあり。至急対処を要す』
「なんと……」
しばし沈黙した後、深く眉間に皺を寄せた。
「……この報告、彼女の覚醒と無関係とは言えないでしょう」
エリアスは頷く。
「……やはり、そう思われますか」
「精霊の力が急に増し、影響を及ぼすことは珍しくありません。
まして、あれほどの祝祷の後だ……」
学院長は重くため息をつき、机に指先を組む。
「フェイル村は、あの子が最初に庇護を受けた場所……放ってはおけん」
学院長はしばし沈思し、やがて机の上の封書を閉じた。
「……いずれにせよ、誰かが向かう必要がある」
その低い声には、迷いのない決意が滲んでいた。
エリアスは一歩前に出ると、胸に手を当てる。
「私が参ります。
精霊庁の職務として、現地を調査し、必要な措置を講じましょう」
学院長はわずかに頷き、その瞳に確信の光を宿す。
「……それが良いでしょう。ですが……。
彼女の同行が必要かもしれません」




