変わらぬ友人
食事を終え、精霊科の教室へ向かう廊下を歩くと、すれ違う生徒たちの視線が自然とカナに集まった。
「……あの子が、例の……」
「学院祭の光、見た? 本当にすごかった……」
小さな囁き声が背中に追いかけてくる。
カナは俯きがちに歩き、胸の奥がざわめいた。
(……目立ってる……)
傍らのミリアは、そんなカナを見ると、胸をそらした。
「すごいね、カナ!
学院中の注目の的! 私も鼻が高いよー! えっへん!」
「……ミリアったら」
カナは吹き出す。
(ありがとう、ミリア。おかげで、落ち着いた)
深呼吸を、ひとつ。
(……大丈夫。いつも通り……)
そう自分に言い聞かせ、カナは小さく拳を握って、精霊科の扉を開けた。
*
扉を開けた瞬間、精霊科の教室は一瞬だけ静まり返った。
だがすぐに、いつもと変わらない笑顔と声が飛んでくる。
「カナ! 昨日の祝祷、すっごかったな!」
フェリルが真っ先に駆け寄り、机に手をついて大きな声を上げる。
「学院中が光ってさ、俺、鳥肌立ったもん!」
「……僕も驚いたよ」
セオが席から立ち上がり、少しだけはにかんだ笑みを浮かべる。
「すごく綺麗だったし……精霊たちも、本当に嬉しそうに見えた」
リオナやマリスも立ち上がり、カナを囲むと穏やかに微笑む。
「あんなすごい祝祷が見られるなんて思わなかったわ」
「ええ、あなたが導いた光……素敵だったわよ」
みんなの優しい声に、カナは胸があたたかくなる。
「……みんな、ありがとう……」
涙がにじみそうになるのをこらえ、笑顔で頭を下げた。
昨日からのざわめきや視線も、この教室の中では不思議と遠く感じた。
ここだけは、変わらない居場所――
そう思える温かさに、カナは心からほっと息をついた。
*
席に着くと、フェリルが机に肘をついて話しかけてきた。
「なぁなぁ、休暇はどうするんだ? 俺は実家に帰るぞ!
久しぶりに母ちゃんの飯が食えるんだ!」
リオナも微笑んで頷く。
「私もよ。両親が楽しみにしてるって手紙をくれたの」
「……僕は学院に残るかな」
セオが静かに答えると、マリスも小さく手を挙げた。
「わたしも。実家より、学院の方が落ち着くから」
ちょうどそのとき、教室の扉が開き、精霊科の教師たちが入ってきた。
レフルが手に書類の束を抱え、ソフィーナが微笑みながら続く。
最後に、無口なハルドが静かに入室した。
「おはようございます。
はい、席について。成績表を配ります」
「うう……とうとうこの時が……」
フェリルがうなだれるようにして席に戻る。
レフルはそんなフェリルを見て微笑むと顔を戻し、名前を呼ぶ。
「今学期のトップは……セオ・クローヴァ。よく頑張りましたね」
「……ありがとう、ございます」
控えめにお辞儀するセオに、教室から拍手が起こる。
「二位はリオナ・レスティア。これも立派な成績です」
「ありがとうございます」
リオナは少し頬を染めながら受け取った。
ハルドが皆を見渡して告げる。
「他の者も、まだまだ伸びる余地がある。次の学期は、もっと力をつけていこう。
カナは次からが本番だぞ」
「はい」
カナの机に成績表はない。
彼女は頷くと、皆を笑顔で見渡す。
(……私も、みんなに追いつけるように、頑張ろう……)
カナはそっと拳を握り、決意を胸に刻んだ。




