決定
放課後。
学院長室へ向かう道すがら、カナはセオとミリアと一緒に廊下を歩いていた。
図書館の前に差し掛かると、ミリアが勢いよく本を抱きしめて宣言する。
「私、休暇まで、セオにお願いして教えてもらうの!」
「……え?」
カナはきょとんとして二人を見る。
「勉強! セオの教え方って、とっても上手なんだよ!」
ミリアが得意げに胸を張ると、隣で参考書を抱えたセオが少しだけ困ったように笑う。
「……頑張れ。僕もできるだけわかりやすく教えるから」
控えめながらも優しい声をかける。
「えへへ、ありがとう!」
ミリアは嬉しそうに笑い、カナに手を振る。
「じゃあ、行ってらっしゃい! また後でね!」
「うん、勉強会、頑張ってね、二人とも」
カナも笑顔で応え、二人を見送る。
図書館へ入っていく二人の背中を見送り、
一人になったカナは、少し緊張した面持ちで学院長室へと足を向けた。
*
「……入りなさい」
扉を開けると、学院長セレスタンが、いつもよりも厳しい表情で座っていた。
その隣にはエリアス、そして窓辺には腕を組んで立つレイナルトの姿がある。
その空気はぴんと張りつめていた。
「……失礼します。あの……」
カナが小さく声を出すと、セレスタンが頷き、手で中へと促した。
「来てくれてありがとう、カナさん。座りなさい」
セレスタンが促し、カナは椅子に腰を下ろす。
カナが座ると、セレスタンは机の上の封書を指で押さえながら、口を開いた。
「精霊庁より知らせがありました。
フェイル村近くの精霊の森で、異変が起きているとのことです」
「……精霊の森が、異変……?」
カナは目を見開き、心臓がぎゅっと掴まれる感覚に襲われる。
セレスタンは重く頷き、視線をエリアスへ向けた。
「エリアスが現地へ赴き、対処にあたることになりました。ですが……」
セレスタンの視線が、今度はカナへと戻る。
「君にも同行してもらった方が良いと、我々は判断しました。
森の異変は、おそらく祝祷による覚醒と無関係ではない。
君の目で状況を確かめ、精霊たちの声を聞いてもらう必要があります」
カナは驚きに息を呑む。
「わ、私、が……?」
その瞬間、窓辺のレイナルトが低く声を発した。
「……つまり、貴様と二人で向かうということか?」
強い視線がエリアスに注がれる。
レイナルトの周囲にはわずかに風がざわめき、魔力が揺らぐ。
視線の先のエリアスには、見えない圧力が向けられていた。
エリアスは表情を変えず肩をすくめ、淡々と答える。
「学院長の決定です。森の安定を最優先に考えれば、それが最善でしょう」
レイナルトの瞳がさらに細くなる。
「……最善、か……?」
空気が一瞬、ひりつく。
セレスタンが軽く咳払いをし、二人の視線を制した。
「殿下。あなたには学院の留守を守ってもらう必要があります。
この件は、エリアスとカナさんに任せるのが最も適任です」
レイナルトはしばし沈黙し、やがて深く息をつく。
「……承知した」
だが、その視線は最後までエリアスから逸らさなかった。
セレスタンは軽く息をつき、カナに向かうと言った。
「出立は休暇が始まる朝です。準備を整えておくように」
カナは緊張しながらも、はっきりと答えた。
「……はい」




