セレスタンの助言
セレスタンは執務机の脇に歩み寄り、カナの目線に合わせて少し腰を落とした。
その表情は穏やかで、どこか父親のような温かさがあった。
「カナさん。昨日の君の祈りは、確かに精霊に届いていました。
たとえ目に見える形で応えが返ってこなくても、
君の心は、もう十分に祝祷者として歩み始めていますよ」
「……でも、私は……祈りを続けられませんでした……」
カナは俯き、小さな声で答える。
セレスタンは首を横に振る。
「良いのです。
祝祷者にとって、祈りは精霊に届くだけではなく、
己の心と体を守りながら続けることが大切です。
焦る必要はない。むしろ、焦ってはならない」
ゆっくりとした口調で、セレスタンは続ける。
「祝祷者の祈りは、精霊だけでなく、
その場にいる人々の心にも届く。
昨日、君が祈っていたとき……君の願いは、確かにこの学院全体を柔らかく包んでいました」
カナは驚いて顔を上げた。
セレスタンは微笑む。
「祝祷者は、決して一人で立つものではありません。
君の周りには、守る者がいて、君を支える者がいる。
そのことを、どうか忘れないでください」
「……はい。わかりました……」
*
セレスタンはゆっくりと立ち上がると、机の上から予定表を手に取った。
「では、次の祈りの訓練についてですが……。
昨日の疲労を考えると、しばらくは休養を優先しましょう。
数日後、体が完全に回復した頃に、改めて行います」
「はい……ご配慮ありがとうございます」
カナが頷くと、レイナルトが横から口を開く。
「私も同席させてもらおう。
もし何かあっても、今度は絶対に見落とさない」
セレスタンは柔らかく笑う。
「……それは心強いですね。
カナさん、これからも殿下の支えを頼りにしなさい。
祝祷者は、祈りと同じくらい、共に歩む仲間を必要とするものです」
レイナルトが隣で頷く。
(えっ? 殿下が、仲間、って意味……?)
カナは内心で飛び上がりつつ、慌ててレイナルトに向かい、頭を下げる。
「……はい。
殿下……ご心配、ありがとうございます」
「……それでは今日はもう休みなさい。
学院祭の準備は、もし参加できるようでしたら、通常どおりでよいでしょう」
カナは頷いた。
「はい。ありがとうございます」
*
「ではカナ様、お部屋に戻られますか?」
マーサが一歩前に出て、穏やかに声をかける。
「……はい」
カナは頷いて立ち上がると、
セレスタンとレイナルトにもう一度深く頭を下げた。
「ご心配をおかけしました……本当にありがとうございました」
マーサと共に、レイナルトも執務室を出る。
レイナルトが少しだけ歩調を緩め、隣を歩くカナを気遣うように視線を落とす。
「……もう無理はしないって、ちゃんと約束できるか?」
カナは恥ずかしそうに頷く。
「……はい。お約束します」
その言葉に、レイナルトの表情がほんのわずか和らいだ。




