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精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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寮での目覚め

カナが目を覚ましたとき、窓の外はすでに夕闇に沈んでいた。

ベッド脇の小さなランプが灯り、柔らかな光が部屋を包む。


「……ここ、寮……?……うっ!!」


上体を起こそうとした瞬間、全身に重さがのしかかり、カナは思わず顔をしかめた。

その時、扉が静かに開き、マーサが穏やかな足取りで入ってくる。


「カナ様……目を覚まされましたか。よかった……」


「マーサ、さん……ここは……?」


ベッド脇に来たマーサは、そっとカナの額に触れ、

優しく体調を確かめた。


「ここは、寮内にある特別室です。

あ……まだ少し熱がありますね。礼拝堂で気を失われたのを、覚えておられますか?」


マーサは言いながら、カナの額に、冷たいタオルをあててくれる。

カナは青ざめた。


「……気を失って……いたのですか? その後、私は……?」


「レイナルト殿下が抱きかかえて、この特別寮までお連れくださいました。

ずっと傍に付き添われていましたが……わたくしに託され、お帰りになられました」


カナの心臓がドクンと大きく跳ね、顔がさらに青ざめる。


「……わ、私……そんなご迷惑を……」


「ご迷惑などと、とんでもございません。

むしろ、殿下は大変ご心配なさっていました」


マーサはベッドの端に腰を下ろし、声をやわらげた。


「それから……学院長セレスタン様からのお言葉もございます。

明日は一日、学院を休み、身体をお休めくださいとのことです。

祈りの訓練も、体力が戻るまでは控えたほうがよろしいと」


カナは小さく頷き、力なく布団に身を沈める。


「……わかりました……マーサさん、いろいろとありがとうございます……」


「いいえ、どうかお気になさらず。

今はしっかりお休みになることが一番ですから」


マーサは毛布を整え、ベッドサイドのランプを落とす。

ランプの炎が最後に小さく揺れ、部屋はやわらかな暗闇に包まれていった。





カナが膝から崩れ落ちた瞬間、レイナルトの心臓が凍りついた。


「カナ!」


反射的に駆け寄り、彼女の小さな体を抱きとめる。

その顔は真っ青で、閉じた瞼は重たく、呼吸も浅い。


(――まさか、こんなことになるなんて……)


セレスタンもすぐに傍らに膝をつき、彼女の顔を覗き込む。


「やはり……負担が大きすぎましたね。今日はここまでです」


(――そんなに無理をさせてしまったのか……)


彼は迷いなくカナを抱き上げた。

その体は驚くほど軽く、そしてかすかに震えていた。


「カナ……君は十分頑張っている。

――学院長。彼女は私が寮まで送る」


そして礼拝堂を後にする。

レイナルトは歩きながら、腕の中の少女を見下ろした。


――必死に祈ろうとしていた顔、

導きの祈りが成功したときに見せた、ほっとしたようなあの小さな笑み。

癒しと浄化ができなかったときの、苦しみと……悲しみ。


全部、俺は知っている。

だからこそ、彼女がこんなにまで必死に頑張ろうとするのが、胸に刺さる。


「……カナ、無理はするなよ……」


誰に聞かれるでもない、かすかな声が、礼拝堂の回廊に消えていった。





特別寮に到着したレイナルトは、マーサの案内を受け、カナをベッドまで運んだ。

その動作は慎重で、そっと彼女を寝かせ、毛布を整える。


マーサが濡れタオルを持ってくると、レイナルトはそれを受け取り、カナの額の汗をゆっくりと拭った。

彼女の顔はまだ青ざめており、胸の上下も弱々しい。


「……こんなになるまで、頑張っていたんだな」


小さく呟いた声には、痛みが滲んでいた。


「……レイナルト殿下、カナ様はご無事でございます。

あとはお休みいただければ、すぐに回復なさいます」


背後に控えるマーサは、そっと穏やかに告げる。


レイナルトはタオルを置き、寝顔をじっと見つめたまま答える。


「……ああ。

それでも、私が隣にいたのに……止められなかった。

……すまない」


マーサは静かに首を振った。


「カナ様は、とてもお優しい方。

きっと、ご自分が苦しくとも、精霊たちのために祈りを続けようとなさったのでしょう」


レイナルトは視線を落とし、カナの額にそっと手を当てる。


(……俺が、もっと傍にいて支えるべきだった。

だから、目を覚ましたら――

もう無理はしないって、どうか約束してほしい)


レイナルトはカナの寝顔を見守りながら、長い時間、静かにそこに座り続けた。

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