花冠――レイナルトの想い
学院長室を出た二人は、長い廊下を並んで歩いていた。
高い窓から差し込む陽光が、白い大理石の床を金色に染める。
先ほどまでの緊張がまだ残るカナは、小さく息をつくと、
隣から聞こえる落ち着いた声に振り向いた。
「カナ。君の好きな花を聞いておきたい。
作るには時間がかかる――今のうちに選んでおこう」
レイナルトの穏やかな声が廊下に響く。
その瞳には、微かに柔らかい光が宿っていた。
カナはただ嬉しそうに頷いた。
「はい! ……って、お花、自分で選んでいいんですか?」
「……ああ。君に似合うものを、一緒に探そう」
その一言に、抑えているはずの想いがわずかににじむ。
*
中庭に出ると、柔らかな風が花々を揺らし、精霊たちが光の粒となって舞っていた。
さまざまな花が静かに咲き誇り、近づくと甘やかな香りが漂ってくる。
「すごい……どれもきれいで迷っちゃいます」
花壇の前で立ち止まったカナが瞳を輝かせると、
レイナルトはその横顔をしばらく見つめ、そっと視線を逸らした。
「焦らなくていい。君が笑っていられる花を選べばいい」
「笑っていられる花……?」
「……ああ」
カナは首を傾げながらも、夢中で花を選び始める。
その姿を、レイナルトは静かに、しかし誰よりも優しい眼差しで見守っていた。
花壇の前でしゃがみ込んだカナは、どの花がいいかと迷っていた。
ふと――横に立つレイナルトの肩あたりに、柔らかな光がふわりと寄り添っているのが見えた。
「……え?」
思わず目を瞬かせる。
金色に輝く小さな光の精霊が、まるで彼を護るようにそばにいて、今、確かにカナの方を振り向いた。
精霊はにこっと笑うと、羽をひらめかせ、中庭の一角に咲く、淡い桃色の花の上へと舞い降りる。
そして小さな手を振って、まるで「これを」と教えるように花びらを指した。
「……この花……」
カナはそっと立ち上がり、花の前に歩み寄る。
レイナルトが不思議そうに彼女を見る。
「どうした?」
「えっと……なんとなく、この花がいい気がして……」
言葉を濁しながらも、精霊の示す花を指差した。
それは、白に近い淡い桃色で、中心がほんのり金色の花だった。
光が差すと、花びらが透けて輝く。
「エルダーローズか……いい選択だな」
レイナルトは、少し驚いたように目を細め、淡い微笑みを浮かべて花を見つめる。
「実は、私も同じ花を考えていた。
……不思議だな。まるで光が、この花を照らして導いているように見える」
カナは、胸の奥でどきりとした。
(やっぱり……精霊が示した花を、殿下も……)
カナにはまだ見えていない想いを、光の精霊だけがそっと伝えているようだった。
ふたりは知らない。
エルダーローズの花言葉は<絆>。
そして――
<秘めたる想い>と、<守りたい存在>――だということを。




