中庭の邂逅
翌日の放課後。
カナは一人、静かな中庭に足を運ぶ。
ミリアは精霊科の課題で教師に呼ばれており、
サラは図書館で勉強するから、と言って不在だった。
陽光を受けて光る噴水の水しぶきの中で、
小さな風の精霊たちが舞い踊り、カナの肩や指先に戯れていた。
「ふふ、かわいい」
――その時。
「……君がカナ嬢か」
背後から、柔らかく響く声。
振り向くと、絹のような金髪に、天使のような微笑みを浮かべた青年が立っていた。
「あ、はい……って、あっ!」
カナは慌てて立ち上がり、頭を下げる。
少年は口角だけで笑みを深めた。
「僕は、ユリアン。この国の第三王子だよ。
……サラとは仲がいいそうじゃないか」
「あ、と、えっと、殿下、失礼いたしました。
サラとは……同じ寮で……はい」
ユリアンはカナをじっと見つめる。
その視線は微笑んでいるはずなのに、どこか冷ややかな光を宿していた。
「学院中、噂になっているよ。
“全属性に愛されし子”が現れたってね」
彼はゆっくり歩み寄り、カナの目の前で立ち止まる。
「……すごいじゃないか。
君がいれば、王国はもっと精霊の加護を受けられる。
……そうは思わない?」
その声は柔らかいのに、ひやっとするような冷たさが滲んでいた。
カナは一歩後ずさる。
「……やだなぁ。そんなに怖がらないでよ」
ユリアンは両手を軽く上げて微笑んだ。
「僕はただ、君と話がしたかっただけさ。
サラの友人なら、きっと僕とも気が合うと思ってね。
君のような特別な力を持つ人とは……もっと仲良くしておきたいだろ?」
そう言って、ユリアンは柔らかく笑いながら、
カナの手を取ろうと指先を伸ばした。
カナは一瞬、動けなくなる。
その時――
「……何をしている、ユリアン」
低く落ち着いた声が中庭に響いた。
振り向けば、そこに立っていたのは第一王子、レイナルト。
陽光を背に、凛とした眼差しをユリアンに向ける。
「やあ、兄上……これは、ただの挨拶ですよ」
ユリアンはまるで何もなかったかのように笑みを浮かべ、軽く肩をすくめた。
「新しい友達に、ご挨拶をと思っただけです。ね、カナ嬢?」
突然振られ、カナは戸惑いながらも小さく頷くしかなかった。
レイナルトは一瞬、眉をひそめ、低く告げる。
「……そうか。ならば、これ以上の用はないな」
ユリアンは笑みを崩さず、カナに目を向ける。
「仕方ない。では、またお話ししよう、カナ嬢。楽しみにしているよ」
軽やかな足取りで去っていくその背中を見送る。
残された中庭に、風の精霊が不安げに揺れ、
カナは胸の奥に、小さなざわめきを覚えた。




