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精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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中庭にて

ユリアンの背中が中庭のアーチの向こうに消えていくと、

レイナルトはゆっくりとカナのそばに歩み寄った。


風が一陣吹き、肩に止まっていた風の精霊が羽を震わせる。


「……驚かせてすまない。大丈夫か?」


レイナルトの声音は柔らかいが、その瞳の奥にわずかな警戒が宿っていた。

カナは小さく首を振る。


「はい。何も……ただ、急に声をかけられて驚いただけで……」


レイナルトはしばし考え込むように目を伏せ、それから静かに告げた。


「ユリアンは……人を惹きつけるのが上手い。

だが、彼の言葉をそのまま信じない方がいい。

……彼なりの思惑があって近づいてくることが多いからな」


その言葉に、カナは小さく息をのむ。


「……そう、なんですか……?」


「あ、いや、君が悪いわけじゃない。むしろ……」


レイナルトは一瞬だけ言葉を切り、

精霊たちが揺らめくカナの周囲を見つめる。


「君が学院で注目されているのは当然だ。

特別な存在だからこそ、いろんな者が声をかけてくる。

……それが、良い意図ばかりとは限らない」


その声音は厳しさよりも、むしろカナを気遣う温かさを帯びていた。

カナは少しだけ緊張を解き、頷く。


「……はい。気をつけます」


レイナルトは小さく微笑む。


「それでいい。困ったことがあれば、遠慮なく頼るといい」


カナの肩に小精霊がそっと頬を寄せる。

その優しい温もりに、カナはようやく胸のざわめきを静めた。





レイナルトはふと思い出したかのように言った。


「……そうだ、カナ。もうすぐ“聖精霊月”が始まるのを知っているか?」


カナは首をかしげる。


「え?……せいせいれいづき? ですか?」


レイナルトは歩み寄り、穏やかな声で説明を続けた。


「年に一度、月が最も澄み渡る時期のことだ。

精霊たちが力を増し、世界との繋がりが深まる。

大聖堂や精霊庁でも祝祭が開かれ、この学院でも特別な儀式が行われる。

……君にとっては、精霊との契約や、魔力の目覚めに大きな意味を持つ機会になるだろう」


カナの胸がわずかに高鳴る。


(……精霊たちが、もっと近くに感じられる……?)


レイナルトはその様子を見て、わずかに口元を緩めた。


「……準備には、私が必ず手を貸す。安心するといい。

学院にとっても、君にとっても、きっと特別な月になるはずだ」


決意を秘めた声に、カナは一瞬言葉を失う。


(……で、殿下が、わたしのために……?)


「えっと、あの、何もわからないので助かります……。

本当にありがとうございます」


「ああ。ではまた」

 

そう言い残すと、彼は軽く会釈し、

護衛に呼ばれて学園本棟の方へと歩み去った。


中庭に残されたカナは、肩に寄り添う精霊を指でそっと撫でる。


「……聖精霊月、か……」


その呟きには、まだ知らない未来への期待と、ほんの少しの不安が混ざっていた。

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