特別課題と特別授業
夕食を終えたカナは、寮の机に向かっていた。
窓の外には月が静かに浮かび、庭を淡い銀の光で照らしている。
昼間の授業でレフルから渡された特別課題は、精霊との契約理論や基礎術式の書き取り。
「特待生として、少しでも早く基礎を身につけてくださいね」という励ましの言葉と共に渡されたものだ。
先ほどやっと契約理論のレポートを終え、次の基礎術式に挑む。
カナはペンを握りしめ、丁寧に術式の文字をなぞっていく。
「くぅーっ!難しいー!
……魔法とか、術式とか……全然知らないことばっかり」
それでも、頭の中に浮かぶのは、精霊たちの柔らかな笑み。
――もっと知りたい。
――精霊たちを、ちゃんと理解したい。
そんな思いが背中を押し、夜が更けるまでペンを動かし続けた。
*
翌朝、精霊科は自習日。
しかし、カナには別の予定が用意されていた。
特別授業。
今日は、精霊庁から上官が来るのだという。
朝食の席で、カナはテーブルに突っ伏した。
「いいなぁミリア。自習でしょ。助けてー」
「あはは、無理無理ー!」
遅くまで勉強していたカナのクマが濃い。
サラが笑って言う。
「はいはい。諦めなよ、カナ。
っていうか、すごい顔だよ。
あ、学院行く前に私の部屋寄ってね」
「?」
カナが首をかしげると、ミリアが笑って言う。
「わかったー! サラ、カナにメイクしてあげるんだね!」
「正解」
「えっ! そうなの?
わー! 嬉しい! ありがとう!」
*
サラにメイクしてもらい、クマをきれいに隠し、上機嫌で学院に向かうカナ。
(そういえば、前世ではメイクってリップくらいだったっけ……)
カナの中で、メイクは一”陽キャ”キラキラ女子たちがするものであって、自分には縁が遠かった。
(あー……ダメだ。疲れすぎて思考がネガティブになってる……)
半ばぼーっとしながら歩いてると、後ろから声がかかる。
「カナ、今日の特別授業は、私も同席することになっている」
その声にカナは飛び上がった。
慌てて振り返り、頭を下げる。
「お、おはようございます。レイナルト第一王子殿下!」
レイナルトは軽く首を振り、穏やかに微笑む。
「そう固くなるな。行こう」
連れ立って学院の講義室へ向かうと、重厚な扉の前で待っていたのは――
「……えっ? エリアスさんっ!?」
思わず声が上ずる。
濃紺の制服を纏い、背筋を伸ばしたエリアスが微笑んだ。
「よお、カナ。元気だったか? まさかまた会うとはな」
その懐かしい声に、カナの目に自然と涙が浮かぶ。
「エリアス、さん……」
「うぉっと! おいおい、ちょっと、カナ、大丈夫か?
と、とりあえず部屋に入ろう!
あっ……と、すみません、殿下。ご挨拶が遅くなりました。よろしくお願いいたします」
エリアスは慌てたように言い、二人を部屋へと案内する。
中には、整然とした魔法陣や資料が並んでいた。
カナが落ち着いたころを見計らって、エリアスが声をかける。
「さて、カナ。今日は君の精霊感応能力を、より詳しく測る。
俺も上級官として、この授業に加わることになったんだ」
エリアスの声はいつもより少しだけ真剣で、カナは自然と姿勢を正した。




