放課後の庭にて
午後の授業が終わり、教室の喧騒が徐々に静まっていく。
ミリアが勢いよくカナの腕を取った。
「カナ、こっちこっち! 今日のあれ、絶対話さなきゃ!」
そう言って、半ば引っ張るようにして学園の中庭へと連れ出す。
石畳を抜けると、噴水のそばの木陰にサラが座っていた。
彼女は涼しげな瞳で手を振る。
「待ってたよ。って……どうしたのミリア。
なんかすごく興奮してない?」
ミリアが大きく頷きながら笑う。
「あのねあのねサラ、カナ、すごかったんだから!!
精霊がぶわーってあんなに集まるなんて、もう伝説級!
“光の愛し子”ってみんな言ってるんだよ!」
カナは少し頬を染め、視線を落とした。
「……あんなに来てくれるなんて、びっくりした」
サラが肩をすくめ、優しい声で言う。
「カナ、それがあなたの才能ってこと。
遠慮しないで受け止めなさい」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「……ありがとう。二人がいてくれて、心強いよ」
ミリアがにかっと笑い、カナの肩をぽんと叩く。
「当然でしょ! これからは三人でいっぱい楽しいことしようね!」
*
そんな和やかな空気の中、背後から軽やかな声が響いた。
「やあ、サラじゃないか」
振り返ると、金の髪に澄んだ紫の瞳を持つ、美貌の青年が立っていた。
まるで絵画から抜け出た天使のような微笑み――
彼は迷いなくサラに近づき、甘く柔らかい声で言う。
「今日の授業、我々は完璧だったね。
君と僕の連携は、きっと学院一だ。これからも、頼りにしているよ」
サラは落ち着いたまま軽く会釈する。
「ありがとうございます。
また明日も、よろしくお願いします」
青年はその言葉に優雅な笑みを返し、
「楽しみにしているよ」とだけ告げて、去っていった。
残された空気は、どこか香り立つようだった。
しばしの沈黙。ミリアがポカンと呟く。
「……何あれ、すごいイケメン……」
「サラ、お友達?」
カナの声に、サラは首を振る。
「第三王子、ユリアン・ノクトス・ヴェルデン殿下。
魔術の連携授業で、相性がいいみたい」
「「ええっ!!」」
カナとミリアの声が重なる。
「そ、そんなすごい人だったんだ……」
カナが驚きの声を漏らす。
ふと、頭の中でレイナルトの顔が浮かぶ。
「レイナルト殿下が第一王子で……。え? 第二王子は?」
サラは迷いなく答える。
「ああ、第二王子は留学中らしいよ。戻ってくるのはまだ先だって」
ミリアが目を丸くしてサラを見つめる。
「サラって情報通だねー! そんなことまで知ってるなんて」
サラは少しだけ笑みを浮かべた。
「噂はいろいろ耳に入ってくるものさ」
木漏れ日の下、三人の笑い声がやわらかく響く。
しかし、カナの胸の奥には、さっきのユリアンの視線がかすかな棘のように残っていた。
――笑顔はあんなに優しいのに……
どうしてだろう、笑みの奥に、ほんの一瞬だけ、影のような冷たい光が見えた気がした。
カナは胸に小さなざわめきを覚えていた。




