寮での午後
案内を終え、特別寮の前に戻ると、レイナルトが歩みを止めた。
「これで一通りの案内は終わりだが……大丈夫か?」
カナは深く頭を下げる。
「殿下……本日は、私のためにお時間を割いてくださり、本当にありがとうございました。
とても貴重な経験をさせていただきました」
レイナルトは軽く首を振り、穏やかに微笑む。
「気にするな。
明日からの授業、きっと不安もあるだろうが……焦らず進めばいい」
その言葉に気持ちがほぐれ、カナはもう一度頭を下げた。
「……はい。頑張ります」
レイナルトが軽く頷き、背を向ける。
「困ったことがあれば、遠慮なく声をかけるといい。では、また」
その背中に深く頭を下げて見送ると、
カナは小さく息を整えてから、特別寮の扉を押し開けた。
*
「カナ、こっちー!」
広い食堂に入ると、窓辺のテーブルからミリアが勢いよく手を振る。
隣にはサラも座っており、にこやかにパンをちぎりながら声をかける。
「ちょうどお昼を頼んでおいたところだよ。座って」
カナは二人の隣に腰を下ろすと、温かいスープと焼きたてのパンの香りがふわりと立ちのぼった。
少し肩の力を抜きながら、自然に笑みをこぼす。
「ありがとう……もう、お腹ぺこぺこだよ」
ほっと息をついた瞬間、ミリアが興味津々に身を乗り出す。
「それで、午前中どこに行ってたの? 」
カナはパンをちぎりながら答えた。
「うん。学院長先生に会ってきた。明日、オリエンテーションがあるんだって。
授業のこととか、今後の話をいろいろ聞いたの。
……あと、レイナルト王子殿下が同席されてて、それで……」
最後の方は声が小さくなってくる。
カナは下を向くと、少し恥ずかしそうに答えた。
「……殿下が、わざわざ学院内を案内してくれたの」
ミリアは目を丸くして声を上げる。
「えーっ! 殿下が直々に!? 信じられない!」
「ちょっと! ミリア、声が大きい」
サラがたしなめる。
「わたしもびっくりしたよ……緊張で心臓が口から出るかと思った」
カナは思い出して笑みを浮かべる。
ミリアは微笑むと、少し声を落とす。
「で、どうだった? いろいろ回ったんでしょ?」
カナは精霊樹での出来事を思い出し、胸の奥が温かくなる。
「うん。いろいろ回ったけど、やっぱり一番は精霊樹かな。
……すごくきれいで、光がたくさん舞ってた。
……それに、精霊が、肩に……」
ミリアがまたもや声を上げそうになるのを、サラがやんわりと押さえて言う。
「すごいね……そんなことが起きるなんて」
ミリアは嬉しそうに笑う。
「やっぱりカナってすごいなぁ!
それで、明日からはわたしと同じ教室なんだね!何も心配いらないよ!」
カナは二人のまっすぐな瞳に少しだけ驚き、胸がじんわりと温かくなる。
「うん……ありがとう、ミリア、サラ。
わたし、頑張るね」
ミリアが明るく笑い、サラも頷く。
その笑顔に、カナも自然と微笑みを返した。




