表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/668

学院の案内

学院長室を出ると、レイナルトはカナに歩調を合わせ、ゆったりとした足取りで廊下を進んだ。

重厚な扉を抜けた瞬間、目の前に広がった光景にカナは思わず息を呑む。


広大な中庭が陽光を浴びて輝き、透明な小川が校舎を縫うように流れている。

澄んだ風に乗って、小さな光の粒が舞い、耳元でかすかに精霊たちの囁きが聞こえた。


レイナルトが歩を進めながら、ゆったりと語る。


「ここが中庭だ。中央にある“精霊樹”は、精霊が最も集う場所の一つでな、学院の象徴ともいえる」


カナの視線の先、蒼銀色の葉を持つ巨大な樹が、天を突くように立っていた。

その幹からは柔らかな光がこぼれ、根元には大小さまざまな精霊が遊ぶように舞っている。


「すごい……なんて大きい……。

精霊樹、初めて見ました……」


「王国で最古の樹の一つだ。千年を超えてなお、精霊たちと共に生き続けている。

学院での授業や儀式は、この精霊樹を中心に組まれている」


レイナルトは歩きながら、敷地の奥を指し示す。


「学院は三つの主科に分かれている。

君が入る“精霊科”は、精霊との対話や契約を学び、彼らの力を正しく扱う術を学ぶ場だ。

隣の“魔術科”は、純粋な魔力の理論と魔法術式の研究を行っている。精霊に頼らぬ魔術師の多くは、ここで育つ。

そして、私が学ぶ“騎士科”は、剣と戦術、そして護国の使命を学ぶ場所だ。精霊や魔術の補助を受けながら、実戦力を鍛える」


レイナルトは騎士科の方へ足を向ける。

訓練場に近づくと、声と共に剣戟の音が響いてくる。


カナは騎士たちが模擬戦を繰り広げる姿を見つめ、思わず呟いた。


「……殿下も、あそこで剣を?」


レイナルトはふっと息を吐くと、静かに答える。


「もちろんだ。何かあれば王子として、先頭で剣を振るわねばならない。当然だろう。

……もっとも、学院では王族という肩書きなど関係ない。

私は一人の生徒として、剣を学び続けているだけだ」


その覚悟を帯びた言葉に、カナは胸の奥で小さな感嘆を覚えた。

精霊の囁きが優しく舞う中、二人は踵を返した。





学院の敷地を一巡したあと、レイナルトは最後に中庭の中央へとカナを導いた。

そびえ立つ精霊樹は、間近で見るとさらに壮大で、天へと広がる葉からこぼれる光が、まるで星の雫のように舞っている。

精霊の気配が幾重にも重なり合い、小さな光の粒――精霊たちが舞っていた。


「これが、この学院の心臓ともいえる精霊樹だ。

ここに立つと、精霊たちの息吹がよくわかるだろう」


カナは歩みを止め、そっと目を閉じた。


――サラサラ、と風が葉を揺らす音。

耳の奥に、やわらかな囁きが届く。


(カナ……待ってたよ)


そのとき、小さな羽を持つ光の精霊が、ひらりと舞い降りた。

迷いなくカナの方へ近づき、肩にちょこんと腰を下ろす。

透明な翅が虹色に輝き、カナの頬に小さな光の粒が触れた。


「えっ……」


驚いて目を見開くカナ。

隣にいたレイナルトが、思わず息を呑み、低く呟いた。


「……なんと……」


カナはその声を聞き逃さず、驚きのまま顔を向けた。


「殿下……精霊が、見えるのですか?」

 

レイナルトは一瞬だけ表情を硬くし、ゆるやかに目を伏せた。


「……つい口に出てしまったか。

ああ……正確には、姿は見えぬ。

だが……光となって舞う気配だけは、幼いころから感じ取れるのだ。

声は聞こえないし、触れることもできない……それでも、精霊がそこに在ることだけはわかる」


静かな風が二人の間を抜ける。

レイナルトはゆっくりとカナに視線を戻すと、声を落として続けた。


「どうか、このことは内密にしてほしい。

王族が精霊を視認できるとなれば、不要な混乱を招きかねないからな」


カナはレイナルトをまっすぐに見つめ、真剣に頷いた。


「……はい。誰にも言いません」 


レイナルトの表情が、ほんのわずかに和らぐ。


「……ありがとう」


 レイナルトには、光の粒が、カナの肩に舞い降りたのが見えていた。

彼はしばらくその光景を眺め、静かに言った。


「……やはり、君は精霊に選ばれているのだな」


精霊はしばらくカナの肩で光を放つと、やがて静かに舞い上がり、精霊樹の枝葉の奥へと溶けるように消えていった。

光の余韻だけがしばらく漂い、カナは胸に手を当てながら、深い呼吸を一つした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ