第3話 オルが見た狂気
オル・ドッフォリアンは人生の絶頂にいた。オルが言った無茶な夢に付き合ってくれた二人の親友。そんな二人と一緒に色んな未知の世界を見てきた。充実した生活を送っていると、ルナと名乗る女が仲間に加えてくれと頼みこんできた。
最初は突っぱねた。なにせヒラヒラとした白いドレスみたいな服を着た小柄の女だ。生死関わる場に連れていく方がどうかしている。毎日毎晩入れて欲しいと頭を下げてきた。最終的に折れたのはオルのほうで、結局ルナの加入を認める羽目となった。
ルナはオルの想像以上の実力者だった。魔物討伐が目に見えて捗るようになった。けどそれ以外は最悪だった。
オルやメーディが話しかけても何も返さず、それでいてルーカ相手にはくっつき虫状態で、もなんだか仲間の輪をかき乱されているような感じがしていた。
とはいえそれはオルがルナのことを好きになれてないからだと思ってた。しかしルナにどれだけ話しかけていっても全く相手にされず、半ばあきらめていた。
そしてある日、オルは忘れられない地獄の夜を体験するのであった。
「…はぁ、随分と話が長引ぃちまったな」
魔物の換金やら色々で深夜までギルドにいた。日を跨いでいるか跨いでいないかといったような時間帯で、外を出歩いているのはオルくらいだった。
(ん?ありゃ…ルナじゃねぇか?こんな時間に何してやがんだ)
オル以外の以外のも出歩いている人間が一人だけいた。それはルナだった。オルのイメージではルーカのいるところにルナあり、そんなイメージがあったこともあり、ルナ一人だけが出歩いている目の前の光景はあまりにも異様に思えてしまった。
(アイツ、どこに行くつもりだ?)
ルナはツカツカと町の門を抜けていった。門の先は魔物がいるため視界の悪い夜に出るなんてことはまずない。
「なんか、あんのか?」
心配か不信感か、とにかくルナの行動が気になったオルは眠い目をこすってルナの後ろを追うことにした。
ルナは光の無い平原を突き進んでいく。三十分ほど歩いたころ、周りは木々が増えており、いつの間にか森に足を踏み入れていた。
森を歩いて少ししたところでルナが足を止めた。
(あいつ、斧で地面なんか掘って何してやがんだ?)
ルナは魔物討伐のための武器として常に斧を持ち歩いている。ルナはそんな斧で地面から何かを掘り出していた。
「た……て。い…。ゆ……し…!」
ルナが土を掻きだすにつれて声が聞こえてくる。その声はオルのものでも、ルナのものでもない女性の声だ。その声は土の中から聞こえてきていた。
(ッ!マジかよ、アイツ!?)
土の中から人の腕が姿を現した。ルナはその腕をひきづりあげる。
(ありゃあ、ギルドの受付じゃねぇか!三日前に行方不明だので騒がれてたけど、ルナの奴が絡んでたとは…)
オルが身内のとんでも事情を目の当たりにして驚いていると、ルナの声が届いてくる。
「まだ生きてたのか?ま、お前が苦しむ分には嬉しいけど…」
「ごべんなさい!許して、許してください!許してください!もう、話しかけ…!」
「喋んな。許すわけないじゃない。お前の死刑は既に決まってるんだからさ。その、汚い口を!開くなっ!」
ルナは持っていた斧を受付の手首に向かって振り下ろした。
「ァァァァァァ…!」
躊躇なく手首を切断したルナは悶え苦しむ受付の頭に足をズガッと乗せて叫ぶ。
「喋んなって、言っただろ!」
ルナはそのまま足に力を込めて受付の顔面をグリグリと土にめり込まれる。
「てめぇ、やめろ!なんのつもりでやってんだ!?」
目の前の光景に耐えきれなくなったオルが物陰から飛び出してルナの足を蹴り上げると、受付とルナの間に割って入った。
「…ッ!?まさか、つけられてたとは…最近は気を抜いてしまっていたか」
ルナは少し面倒くさそうにしながら斧の持ち手を肩に乗せながらつぶやいた。
「随分と反省の色がねぇな?おめぇ、どんな理由でこの人の腕を斬り落としたんだ?」
「理由?そんなものは一つしかないよ。このゴミはルーカ様に触れた。この汚らしい手で、神聖なるルーカ様を!あぁー!言葉にするだけで嫌悪感が溢れ出てくる!!」
話しているうちに段々と気持ちが昂ってきたルナは持っていた斧をオルに向かって投げる。オルはその飛んでくる斧を受け止めようと構える。
しかし勢いよく回転していた斧は角度を下げ、オルの股の下を通り過ぎていった。
「なっ!?」
ルナは端からオルを狙っていなかったのだ。斧はオルの背後でうずくまっている受付の頭を真っ二つにした。
「…ッ!?て、てめぇぇ!!」
守るはずだった人を簡単に殺させてしまったことで動揺したオルは一瞬フリーズしていた。その隙にルナは近くに転がってあった大きめ石でオルの頭を叩き割った。
「ガッ!?ウッ…」
成人男性の頭並みの大きさの石をぶつけられたオルは意識を失ってしまった。
「…クソ虫が、変に勘づきやがって」
◇◇◇
「グッ…うわぁ!!」
オルは悲鳴をあげベッドから転げ落ちる。オルは自身の泊まっていた宿で眠っていたのだ。
「…ゆ、め?」
オルは今までのことが夢であることを理解すると胸をなでおろして、ぐっしょりとかいた汗を洗い流しに行こうと立ち上がった。
その瞬間パタンと、本を閉じたかのような音が部屋に響いた。オルが泊まっている部屋は一人部屋であり、誰かが部屋にいることは本来ありえない。
「…やっと起きたか。お前がくだらないことで気絶したせいで昨日はルーカ様と寝ることができなかっただろ」
部屋に角で本を読んでいたルナが本をオルに投げつけながら言った。
(夢じゃ…ねぇ!)
すぐさま戦闘体勢に入ろうとするオルにルナが待ったをかける。
「もっと脳みそ使え。ここで戦うくらいならとっくに殺してる。穏便にいこうよ。夜のことは忘れて、さ?お互い平穏に生きたいでしょ?」
提案…というより脅迫に似た言葉でオルに詰め寄る。そして持っていた斧をカンカンと壁を叩く。
「…分かってるぜ。てめぇのことは誰にも言わねぇよ」
その言葉にルナは満足そうに笑いながら部屋を出ていった。
「そう。でも、しももその口滑らせたら…死ぬのはお前だけじゃないからな?」
ルナはそんな恐ろしい言葉を残して去っていった。
それからオルはルナの悪行を見逃し続ける生活を送っていた。ルナは人殺しを平気で行っている。その前提を頭に入れて観察していると、ルナの悪事が見えてくる。
夜になる度に宿を抜け出し、ルーカに近づいただけの人間に制裁を下す。
(このままこの悪魔を放っておいちゃダメだ)
ルナの言う通り黙っていれば安全だろう。しかし自分の安全のために巨悪を許し続けるなんてできなかった。
(騎士団に話しても無理だった。人殺しの証拠がない、あんな可愛い女が殺人なんてしない、現場について来いって言ってもめんどくさそうにするだけ。そんなことをしている間に一人、一人とこの町から人が消えている。騎士団の説得よりも俺が直接叩いたほうがいいだろう)
ルナを生かしておくなら、自分が犯罪者になってでも止める。そんな覚悟がオルの中にはあった。
「…なぁ、ルナ。ルーカが森に来いって言ってたぜ」
「ふーん、そっ」
決戦の場はルナが処刑場としている森林。ルナはルーカのこととなると素直に従い、町を出ていった。
(その隙に、ルーカとメーディをここから遠ざけねぇとな。大切な親友にあんな危険なヤツを合わせる訳にも、俺が人殺しをする姿を見せるのもゴメンだ)
オルは拳をギュッと握り、ルーカとメーディを連れて町の広場に向かった。




