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第4話 ルナが見た喜び

 あるスラム街に他の者とは明らかにオーラの違う少女がいた。薄汚れた人間で埋め尽くされたスラムでたった一人だけ艶やかな少女がいた。肌も髪もツヤツヤで、目も人形のように大きい。スラムの住民らしく汚れているがどことなく可憐な雰囲気がある。

 この少女こそが全ての元凶であるルナだ。

 ルナは幼少期から絶世の美少女として騒がれていた。しかしそれは決してい良いものでは無かった。ルナが六歳の時、その美しさに目をつけた奴隷商に追われるハメになった。

 しか奴隷商はルナのことを侮り過ぎていた。六歳のガキに、こんな華奢な少女に殺されるなんて夢にも思わなかっただろう。ルナは生まれ持った戦闘スキル、スラムで身に着けた容赦の無さ、油断を誘うその容姿。全てがうまいことかみ合ってしまった。

 ルナが殺した人数は五人。ルナを捕らえようとした男四人と奴隷商の男である。

 自治組織はその件でルナを保護したが軽い取り調べだけして解放してしまった。小さく可愛らしい少女が人殺しなんてするハズない、そんな考えが頭にあったからだ。

 この成功体験がルナの狂気性を増長させることとなった。金が欲しければ奪うか盗めばいい、邪魔者がいれば殺せばいい。なにせ捕まらないのだから。

 そんなことを続けて十五の歳になった頃、盗みがエスカレートしたルナはギャングのアジトから大金を盗もうとしていた。

 途中までは完璧だったのだが、調子に乗ったことで詰めを誤ってしまった。

「こっちに向かったぞ!」

「逃がさねぇぞ!クソアマァ!!」

「黙れ!お前らもこの金をまっとうなやり方で手に入れてないだろ!」

 ルナは大人数のゴロツキに追われていた。最初は殺して対処していたが、どんどんと数が増えていき数的不利を悟り逃走に専念した。

「捕まえたぞ!クソガキぃ」

 ルナはついにゴロツキの一人に捕まってしまい、そのまま地面に体を押さえつけられてしまった。

「ギャフッ!?」

 そこからはゴロツキたちの一方的な暴力タイムだった。金を奪われた恨み、仲間を殺された恨み、全てを込めて蹴りつけ殴りかかった。

 綺麗な顔が血で見えなくなり、服が足跡まみれになり、ルナの意識が消えそうになった時一人のゴロツキが大きく吹き飛んだ。

(な、にが…?)

 仲間が吹っ飛んだことに驚いたゴロツキたちが一斉に一点を見つめる。その先には一人の青年が立っていた。

「お前たち、たった一人の女の子相手に殴って蹴って…人として恥ずかしくないのか!?」

 青年はルナの周りを取り囲むゴロツキたちに襲いかかる。槍やら剣やら持ったゴロツキ十数人に対し、青年はナイフ一本でケンカを挑む。

 ゴロツキに油断があったため最初は青年が優勢だったが、やはり数に差がありすぎた。しかしそれに屈することなく青年は立ち向かいルナを守り続けた。

「ッ、たぁ…。しぶとい奴らだったな」

 ゴロツキたちを全員気絶させた青年はフラフラとした足取りのままルナのほうに歩み寄る。血まみれの青年はルナに心配かけまいと笑顔で手をさし出す。

「大丈夫?もう安心だからな。立てるか?」

 ルナは一瞬だけ敵意を見せたがすぐに警戒を解いた。見ず知らずの自分のためにここまでボロボロになってくれた青年の手を取り言った。

「なんで、助けた?目的は…」

 本当の善意から人を助けることなんてない。学校に行っていないルナが得た数少ない教訓。しかしルナに手を差し伸べてくれた男には見返りの気配なんてものは微塵も感じ取れなかった。

「目的?目的とかどうでもいいでしょ。困ってる人がいたら助ける、これは人の性だよ」

 地面に座り込んでいるルナを立ち上がらせながら青年は続けた。

「ここは危険だ、それに怪我をしている。俺が広場まで運ぶよ」

 青年はそう言いながらルナの体を持ち上げる。

(ヒャッ!お姫様だっこ!?)

 ルナは驚きや困惑といった感情の他に、胸が熱くなるような感覚を覚えた。今までの人生で一度も感じたことのない温かみがあった。

(なん、だ?これは…)

 その違和感のような気持ちに困惑しながら、青年の体をギュッと抱きしめた。

「…ッ。そんな強く抱きしめて…まぁあんな体験したら恐がるか」

 その行為はあまりにも無意識で行ったことであり、青年に指摘されるまでルナ自身気づいていなかった。ルナは少し恥ずかしそうにしながらも力を緩めることはなかった。

「はい、着いたよ。もう安心さ」

 広場に着いた青年はルナを下ろして笑う。

「じゃあ俺はこれで。今後は気をつけなね!」

 颯爽と去って行こうとする青年にルナは慌てて引き留める。

「あ、あの!おま…貴方のお名前をお聞きしても?」

「ん?あー、ルーカ・スードリッグ。別に覚えておかなくてもいいよ。俺のことは通りすがりの冒険者くらいに見てくれればいい」

 ルーカはそう言うと手をふりながらその場を離れていった。

「ルーカ、様…」

 ルーカが去ってから数分が経ってもルナの動悸が治まることはなかった。さっきの光景が何度も頭の中を駆けめぐる。

 その想いは日を跨いでも冷めることはなかった。それどころかルーカへの想いはさらに強まっていた。

(あの時もっと強く引き留めていれば…)

 今までこの先もずっと、孤独の人生を送り続けるのだと思っていた。そんな中に突如現れた光。ルナはその太陽のような輝きをもう一度見たくてしょうがなかった。

(これで終わりなんて嫌だ!ルーカ様に会いたい。ルーカ様と一緒にいたい。ルーカ様と愛し会いたい)

 ルーカ・スードリッグという名だけを手掛かりにルナは旅を始めた。森を抜け、山を越え、海を渡り、二年の時を経てようやく見つけた。

「俺のパーティに入りたい?うーん、うちのリーダーに一応話しておくよ。キミ、名前は?」

 ルーカはルナのことを覚えていないようだった。そんな問いを投げてくるルーカにルナは胸に手を重ねながら言った。

「わたくしの名前は、ルナ・スードリッグです」

 太陽のように眩しいルーカの対でいたい、そう思い己につけた名前。もちろんルーカは驚きを見せた。

「スードリッグ?俺も同じなんだが、偶然ってあるもんだな」

「そうですね。偶然…いえ、これは運命なんでしょうね」

 ルナはそれからオルに頼み込んでパーティ加入を果たした。ようやくルーカに会えた、会えたのに、そこには邪魔な人間が二人いた。

 ルナの願いはただ一つ。ルーカと愛を交わすことだけである。それなのにルーカの周りにはオルとメーディがいた。

(ルーカ様はお優しい人だ。だからあんなゴミにも笑顔を向ける。ルーカ様はきっとアイツらと話すことを苦痛に思われているだろう。寛大なルーカ様は許しておられるが、私は我慢がならない)

 ルナからすればオルもメーディも自分の愛の園に入り込んだハエでしかなく、殺したくてしょうがなかった。たとえルーカがそのハエをどれだけ愛しても知ったこっちゃない。なにせルーカには自分がいるから、ホンモノの愛さえあれば他はなにもいらない。

(この世界には私とルーカ様以外いらない。きっとルーカ様も同じことを思っているのでしょう。そのためにも、少しずつ少しずつ、害虫を駆除していきますからね)

 ルナはそれからオルとメーディを殺す計画を練ってきた。ルーカにバレず、事故死のように殺すために。しかし流暢にしすぎていた。

 ルナはあの日オルに釘をさし、オルを無力化したと思い込んでいた。しかしオルは水面下で着実にルナを殺すために動いていた。

(ルーカ様ったら、こんな所でなんの用事でしょうか…まさか、ついに!愛の告白とか~!?)

 オルの言伝でルーカが森で待っていると言われた。ルナはそれはもうウッキウキで森にやってきた。

 ルナが森でルーカがやって来るのを待っていると、背後から声が聞こえてきた。

「よぉ、ちと待たせ過ぎちまったな」

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