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女神の趣味で美少女吸血鬼に転生しましたが、地上で一緒に暮らすことになりました  作者: こはくさ


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10話

「リベル、あんたに依頼が来てるよ」


 受付カウンター越しに、エミルが腕を組んだまま言った。


 いきなりだな。


「依頼?」


 首を傾げると、エミルは少しだけ口角を上げる。


「指名依頼さ」


「……指名?」


 俺が聞き返すと、エミルはカウンターに肘をついた。


「指名依頼っていうのはね、依頼主が通常よりも多めに報酬を積んで、特定の冒険者に直接お願いするやつさ」


「へえ」


「冒険者側は断ることもできる。一応ね」


 一応、とわざわざ付ける。


「でも、組合の信用に関わるの。よっぽどの事情でもない限り、みんな受けているのさ」


 なるほど。


 つまり、断れなくはないけど、実質ほぼ受けるやつ。


「で、なんで俺?」


 E級になったばかりだぞ。


 エミルはちらりと、俺の後ろに視線を向けた。


 静かに立っているルミエラ。


「まあ、今回あんたに話が来た理由は……」


 少しだけ含みを持たせる。


「後ろの人にいるあいつが付いてくるってのがわかっているからだろうけどね」


「……は?」


「依頼主は本当はあんたではなく、ルミエラにお願いしたかったみたいなのさ」


 さらっと言う。


「でもC級に正式に依頼すると報酬が跳ね上がる。だから“実質一緒に動くE級”を指名したってわけ」


 なんだそれ。


 つまり。


「俺、おまけ?」


「そうとも言うね」


 あっさりだな。


「でも」


 エミルは指を立てる。


「指名は指名。依頼を受けるのはあんた。責任もあんたにある」


 その言葉は、軽くない。


 少しだけ、背筋が伸びる。


「最近の働きが悪くないから話を通したんだ。ゴブリン討伐、安定してるってちゃんと報告上がってるよ」


 少しだけ、胸の奥が熱くなる。


「今回の依頼内容は、北の森の調査」


 北の森。


 その言葉に、思わず目が止まる。


 ――最初に目が覚めた森か。


 あの冷たい空気。


 静かな木立。


 何も分からなかった、あの場所。


 エミルは一枚の紙を差し出す。


「最近ね、街道にゴブリンやコボルドが出てきてるらしいのさ。本来は森の奥にいる連中が」


 森に住んでいるはずの魔物。


 それが街道に。


「だから原因を調べてほしいってこと?」


「そういうこと。それと今回は大規模討伐じゃない。あくまで調査」


 エミルは少しだけ目を細める。


「危険だと思ったらすぐに戻りな。冒険者は命が仕事道具。無茶して評価あげるなんて馬鹿なことするんじゃないよ」


 念押しするように、真剣な目になる。


「どうする?」


 受付のざわめきが遠く感じる。


 E級。


 初めての指名依頼。


 そして――始まりの森。


 俺は無意識に、後ろを振り返った。


 静かに立っているルミエラと目が合う。


 彼女は何も言わない。


 ただ、穏やかにこちらを見ている。


 選ぶのは俺だ、という顔で。


「……受ける」


 短く答える。


 エミルは小さく笑った。


「最初からそのつもりだったんだろ。書類はここにサイン」


 紙を差し出す。


「準備ができ次第、出発してきな」


 ただの調査。


 ルミエラもいるし万が一はない。


 そのはずだ。


 なのに――


 胸の奥が、少しだけざわついたーー


 ーーーーーーーーー


「準備は怠らないことです」


 組合を出てしばらく歩いたところで、ルミエラが口を開いた。


「森は平原より危険度が上がりますから」


「木が多いからか?」


「ええ」


 彼女は頷く。


「単純に視界が遮られます。平原なら遠目に魔物を確認できますが、森ではそれが難しい」


 確かに。


 木々の陰、茂みの裏。


 いくらでも隠れられる。


「ですが」


 続ける。


「魔物は森に住んでいます。彼らは環境の僅かな変化にも敏感です」


「変化?」


「匂い、足音、魔力の揺らぎ」


 淡々とした説明。


「侵入者はすぐに察知されます」


 ぞわりと背筋が冷える。


「だから準備は念入りにしましょう」


 その一言は軽くない。


「消耗品、非常食、回復薬。視界確保のための道具もあると良いですね」


「……結構いるな」


「森は甘くありません」


 断言だった。


 そのまま俺たちは街の商業区へ向かう。


 道すがら、ふと疑問が浮かぶ。


「そういえばさ」


「なんでしょう」


「なんで俺の転生場所、あそこにしたんだ?」


 最初に目が覚めた、あの森。


「もっと街の近くとかあっただろ」


 安全そうな場所はいくらでも。


 ルミエラは少しだけ考える素振りを見せた。


「実は」


 静かに言う。


「転生には、かなりの魔力が必要なんですよ」


「かなり?」


「ええ。個人が扱える範囲を超えています」


 さらっと言うな。


「北の森は、この地域でも特に魔力が豊富です」


 あの静かな森が、そんな場所だったとは。


「なので、自然の魔力を利用する形であそこにしました」


「利用って……」


「効率的だったのです」


 悪びれない。


「だから奥へ行けば行くほど、危険生物が多くいます」


 足が止まりそうになる。


「魔力に惹かれる存在もいますし、元から強い個体も集まります」


 つまり。


 俺が目覚めた場所は、比較的外縁部。


 奥は――


「今回はそこまで深入りする必要はありませんけどーー」


 ルミエラが静かに言う。


「森を侮らないことです」


 その声には、わずかな硬さがあった。


 俺は息を吐く。


 始まりの森。


 転生の理由。


 そして、その奥にいる“何か”。


 ざわつきは、消えていなかった。


「……よし」


 とりあえず今は準備だ。


 俺は視線を上げる。


「まずは買い出しか」


「ええ」


 ルミエラは頷く。


「生きて帰るための準備を」


 エミルの言葉が、ふと頭をよぎる。


 ――冒険者は命が仕事道具。


 森へ入る前から、戦いは始まっているのかもしれない。

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