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婚約破棄されたら幸せを拾いました  作者: 夏つばき


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147 ルナの覚悟


「こんなはずじゃなかった」


そう言いながら、何度唇を噛みしめたことだろう。


幸せの絶頂は、ハリソンが生まれた時だった。

赤い巻き毛を持つハリソンは、亡き母そっくりで、父はまるで母に会えたかのように涙を流して喜んでくれた。

ヘンリー様は、ハリソンの美しい緑の瞳が自分にそっくりだと、得意げに周囲に自慢して回った。


私の喜びを打ち砕いたのは、ハリソンが生まれて数日後に現れたホランド伯爵だった。


『お義父様、男の子です。元気に産まれてきました』

『・・・・・・ヘンリーに、似ていないんだな』


私が喜び勇んでハリソンを見せると、ホランド伯爵は一瞬で顔を歪ませた。

探るようにハリソンを眺め、ヘンリー様に似ていないことを確かめると、まるで興味を失ったかのように、すぐに席を立った。


あまりのことに驚く私の耳元で、伯爵は冷ややかに、そして軽蔑に満ちた声で告げた。


『うちの家系に、赤毛なんてありえない』


その瞬間、私の心臓は激しく音を立て、凍りついた。

まさか、ホランド伯爵はハリソンがヘンリー様の子でないとでも言うつもりなのだろうか。


『お義父様、この子は、亡き母にそっくりでございます』


(私の貞操を疑ってるの!?)

あまりの屈辱に、震えるの身体を押さえながら、声を振り絞って訴えた。

そんな私に、これ以上ないほどの侮蔑を孕んだ視線を向けてきた。


『両親ともに金髪で、赤毛が産まれるか』


ヘンリー様を慮ってか、私の耳元で低く囁き、そのまま背を向けて去って行った。

後を追いかけたヘンリー様が話をしたらしいが、ハリソンのもとには戻らなかった。

ホランド伯爵は、ハリソンが完全に孫ではないと、はっきり見切ったのだ。


ヘンリー様は、私の貞操を疑うことはなかった。

ホランド伯爵のあのそっけない態度は、ボビー様のところに子どもが生まれたせいに違いないと考えたのだろう。

ボビー様のお子様は、金髪碧眼で、ホランド家の特徴をよく受け継いでいた。

もしくは、あの頃は私のことを、それなりに愛し、信頼していたのかもしれない。


(本当に、ふざけたことを言ってくれたわよね)

この屈辱は、未来永劫、決して忘れることはないだろう。

ハリソンがヘンリー様の子であることは、母である私が、誰よりもよく知っている。


(ハリソンの赤毛が、何だというのよ!)

できることなら、衝動のままにホランド伯爵を平手で打ち据え、その尊大な顔を歪めてやりたかった。


確かに私もヘンリー様も金髪だ。

でも、亡くなった母は赤毛だったのだ。

ホランド伯爵も夫人も、今では白髪だらけで金髪に見えるけれど、若い頃のどちらかは赤毛だったはずだ。

そもそも、ヘンリー様の金髪だって、光の加減次第では、薄いピンクに見えることがある。

それなのに、どうしてハリソンの赤毛だけが、これほどまでに責められるのだろう。

似ていないというだけで、血を疑われる理由になるはずがない。


だが、頭の固いホランド伯爵は、ヘンリー様の言葉に耳すら貸さなかったのだろう。

アンナ様の披露宴の直後、縁はあっさり切られた。

あんな祖父など願い下げだと思う一方で、ハリソンを可愛がってくれる人が少ない現実に、胸が痛んだのも確かだ。

だからこそ、その分の愛情を私たちが注ごう。

親子三人で、幸せな家庭を築くのだと、静かに心に決めた。



(・・・・・・・・・だけど、無理だったわね)

残念なことに、ヘンリー様はハリソンの誕生以来、変わってしまった。

いや、もともとの本性が顔を出しただけなのかもしれない。


結婚前から、ヘンリー様のずる賢く打算的な面には気付いていた。

それでも、私はいい家庭を築こうと努め、穏やかな関係を保てていた。

このまま幸せになれると思っていたのに、現実はそう甘くなかった。


原因は、金銭的な余裕がなかったことだった。

ホランド伯爵からの援助を当てにしていたヘンリー様は、手持ちの金を使い果たしてしまっていた。

まさか貯金もないなんて、思いもしなかった。


でも、それだけなら、親子三人で慎ましく暮らせば、どうにかなっただろう。

騎士団の給料は、それなりにはあった。


(・・・・・・まさか、借金があるとは思っていなかったわ)

独身時代の酒場での借金が残っていた。

そして、アンナ様への慰謝料を支払うために作った、その忌まわしい借金。


借金があると知ったとき、目の前がすっと暗くなった。

驚きながら詰め寄ったが、ヘンリー様に「婚約破棄するために必要だった」と言われると、言い返すことができず、ただ頷くしかなかった。

婚約を破棄するために慰謝料が必要だなんて、そのときまで、私は何も知らなかった。


しかし、「責任の半分は私にある」と言われたときには、さすがに泣いた。

確かに、そう言われればそうなのかもしれない。


だが、そうではない。

私は知らなかったのだ。

私はヘンリー様に選ばれた立場だったのだから、本来その責めを負うべきはヘンリー様のはずだ。

それなのに、私まで同じ責任を負わされるとは、思ってもみなかった。


一刻も早く借金を返し、この身を縛るものから解き放たれたかった。

でも、私は幼いハリソンの世話で働けず、稼ぎはヘンリー様頼みだった。


お金がないと、しなくてもいい喧嘩をついしてしまう。

ほんの少しのお金の使い方を巡る口論が増え、気に入らないことがあるとすぐに怒鳴るヘンリー様に怯えて、次第に何も言えなくなってしまった。



(・・・・・・結局、大人になれなかったのよね)

子どもが生まれれば変わると信じていたヘンリー様は、結局、何も変わらなかった。


赤ん坊は、昼も夜も構わず泣く。

そのため、ヘンリー様にしてきたことはもうできなかった。

赤ん坊は、世話をしなければ簡単に命が危うくなるのに、ヘンリー様はいつまで経っても、そのことを理解してくれなかった。


むしろハリソンの世話をする私を疎ましげに見つめ、「アンナだったら、もっと自分の世話をしてくれただろう」と、たびたび比較しては不満を口にするようになった。


ハリソンを生んで三年が過ぎた頃、夫婦の会話は指折り数えるほどに減っていた。

ヘンリー様の給与は一向に上がらず、暮らし向きは厳しいままだった。

そうして私は、ヘンリー様に勧められるまま、仕事を探し始めた。


最初は、得意の語学力を活かせる仕事として、家庭教師や通訳の仕事を考えた。

期待を込めて招待客たちの家を順番に回ったが、私を雇う者は一人もいなかった。

嫌悪、蔑み、憐れみと、向けられる視線に違いはあれど、突きつけられる答えは同じだった。

きっとヒューゴ様が罪に問われたことで、誰もがホランド家とは関わり合いになりたくなかったのだろう。


条件を落としても構わないと思い、旧友のジェシカのもとにも足を運んだが、「人手は足りている」と丁寧に、だが、はっきりと断られた。

何かいい仕事はないかと、顔の広いルビーを訪ねたが、「困った時だけ来られても」と顔を顰め、扉を閉められた。

二人の冷たい眼差しに委縮し、フローレンスを訪ねる勇気すら持てなかった。


卒業しても、永遠に友情が続くと思っていたのは、どうやら私だけだったらしい。

立場や状況が変われば、私たちの友情など、脆く崩れ去るものだったのだ。


結局、翻訳の仕事をしていた義姉のナンシー様から、わずかな翻訳の仕事を分けてもらい、生活の足しにした。

借金を支払えば、二人の収入を合わせても、生活はぎりぎりだった。


五年も経つ頃には、ヘンリー様の顔を見るどころか、同じ空間にいることさえ嫌になっていた。

別れを切り出したが、私の稼ぎがなければ生活できないからか、ヘンリー様は頑として別れに応じようとしなかった。

相談したくとも、頼りになる父は亡くなっていた。



◇◇◇


「ルナ!今がチャンスよ!」


夜遅く、約束もなしに訪ねてきたシャーロットは、開口一番に叫んだ。

唯一、卒業後も付き合いのあるシャーロットは、私のことを気にかけ、いろいろと世話を焼いてくれる。

最初は恥ずかしくて家庭の愚痴など口にできなかったが、今では不満が出るたびに、シャーロットに聞いてもらっている。


「ヘンリー様は、今、牢の中にいるらしいわよ」

「え?」

「家に帰ってきた主人がそう言ったの!」


(帰ってこないと思っていたけど、そういうことだったのね・・・)

ヘンリー様が無断で外泊することは、すっかり当たり前になっていて、もう気にも留めていなかった。


「アンナ様につきまとって、暴言を浴びせたらしいわよ」

「え・・・?そうなの?」


(・・・・・・どういうこと!?)

王弟の不興を買っているのに、アンナ様に近づこうなんて、正気とは思えない。

ヘンリー様のことを心配するどころか、その愚かさに思わず怒りが込み上げ、ため息すら出ない。


「騎士団も首になったらしいわよ」


「アンナ様のことで・・・?」

「その前に首になってたそうよ。規律違反を繰り返していたみたい」

「・・・・・・・そう」


ヘンリー様なら、やりかねないと思っていた。

だから、何を聞いてももう、驚きはしなかった。


「ルナったら、何を呆けているのよ!」

「えっ、だって、どうしようもないし」

「何言ってるのよ!貴女、これから大変よ!?首になったということは、ヘンリー様は無職なのよ!?」


(・・・・・・どうすればいいのかしら)

ヘンリー様が騎士団を首になったら、私たちはこれからどうやって生きていけばいいのだろう。

今も生活は限界ぎりぎりで、借金もなお背負ったままだ。

シャーロットの目がなければ、私は泣き、そしてこの場から逃げ出していたに違いない。


「職の当てはあるの!?」


(・・・そんなもの、あるわけないわ)

プライドの高いヘンリー様が、平民と同じ仕事に就くなど、到底考えられなかった。


節約する道も知らず、ただ酒を飲み、気に入らないことがあると大声で喚くヘンリー様。

給料を運んでくるからなんとか耐えていたが、ずっと家に居るのだと思うと、恐怖で足がすくむ。

これから、私の運命はどうなるのだろう。


シャーロットが私の肩を強く掴み、真っ直ぐに目を見据えた。


「だから、別れるのよ!」


「・・・・・・でも、ハリソンに父親は、必要よ」

「父親!?まだそんなこと言ってるの?」

「え?」

「そもそもヘンリー様は、父親として機能してるの?ハリソンに、何か父親らしいことをしたことなんてあった?」

「でも、困ったときとか・・・」

「ルナが困ったときに、ヘンリー様が助けてくれたことってあった?貴女が頼るのは、いつだって私だったわよね!?名前だけの『父親』って必要なの!?」


私の弱々しい抗議を、親友は辛辣な言葉で黙らせた。

いつもにこにこ笑って優しいシャーロットが、こんな厳しいことを言うなんて、信じられなかった。


「・・・別れられないのよ。シャーロットだって、うちの事情は知ってるでしょう?あの人、離婚してくれないわ」


「逃げればいいじゃない!牢に入っている今なら、ヘンリー様から逃げるチャンスよ」

「逃げるって言っても、どこに逃げればいいのよ?もう私には、頼れる実家もないのよ。それに、絶対に追ってくるに決まってるわよ」


「ルナだったら、外国でも暮らしていけるわよ。貴女、サイレニア語が得意だったわよね?この際、親子でサイレニアで暮らしたら?」

「・・・・・・・・・・・・サイレニア」


(・・・・・・・・・・・・いいかもしれない)

サイレニアで暮らすことは、私が子どもの頃から抱いていた夢だった。

それに、サイレニアまでは、ヘンリー様も追ってはこないだろう。


努力と時間をかけて磨いてきた語学力には、自信がある。

何とか、一人でも生きていけるだろう。


だが、誰にも頼れない異国の地で、ハリソンを抱えて、本当に生きていけるだろうか。


目に入れても痛くないほど可愛いハリソンの寝顔が頭に浮かぶ。

私が万が一倒れたら、ハリソンはどうなるのか。

面倒を見てくれる人もいないし、お金だってどこまで稼げるかわからない。

この決断は、本当にハリソンのためになるのだろうか。


「・・・・・・・・・ルナ?ちゃんと考えてる?」


「え、ええ」

「もし、ルナが逃げるなら協力するわよ」

「え、ええ、でも」

「まずは、うちに来なさいよ。ここにいたら色々迷って、決断できないわよ」


「で、でも・・・・・・」

「迷ってる時間はないわよ。主人が言うには、明日か、明後日には牢から釈放されるそうよ」


「えっ?明日?」

「正確には、いつになるかわからないけどね。でも、アンナ様の口添えで、起訴はされないみたい」

「アンナ様が・・・・・・」


アンナ様は、今のヘンリー様の姿を目にして、何を思ったのだろうか。

そして不幸に落ちた私を想像して、胸に去来したのはどんな感情だったのだろう。

嘲りか、憐れみか。

それとも、ヘンリー様に対する情が、まだ残っていたのだろうか。


「言っておくけど、ヘンリー様のためじゃないわよ。『ご家族のために』って、おっしゃったらしいわよ」

「・・・・・・そう」


身内から犯罪者を出すことの辛さを慮ったのだろうか。

どうして、あの方は私たちに仕返しをしようとしないのだろう。

私とアンナ様の命運を分けたのは、結局のところ、その心根の違いだったのだろうか。


私と彼女の差に思いを巡らせていると、不意にシャーロットが私の肩を掴んだ。

顔を近づけ、私の目を真っ直ぐに覗き込み、叱咤するような厳しい声で言った。


「ルナ!いい加減にしっかりしなさい!」


「だ、だけど・・・・・・」

「貴女が呆けてたら、話にならないのよ!」

「う、うん」

「これは、私の問題ではなく、貴女の問題なのよ!」

「え、そうね」

「ルナ、貴女、ハリソンの母親でしょう!?」

「そ、そうだけど」


「だったら、しっかりしなさいよ!ハリソンを守れるのは、母親であるルナしかいないのよ!!」

「えっ・・・」

「黙って待っていたって、誰も助けてくれないのよ!母親が子どもを守らなかったら、その子はどうなってしまうのよ!」


(・・・・・・・・・守れるのは、私だけ)

その瞬間、目の前を覆っていた霧が一気に晴れた気がした。

ハリソンを守れるのは、私だけだ。

他人に、あの子の運命を握らせるわけにはいかない。

あの日、ハリソンを絶対に守ると決意したのは、誰でもない、私自身だ。


「負けん気が強くて、行動力がある。それが貴女の持ち味でしょう!?」


「・・・・・・シャーロット」

「貴女ならやれるわよ!私も手伝うから、一緒に最善の方法を考えましょう!」


(・・・・・・・・・確かに、そうだったわ)

結婚前の私は、気が強く、自信と行動力に満ちていた。

少なくとも、計画を立て、目的に向かって邁進する力だけはあった。

ヘンリー様に自分を否定され続け、知らぬ間に心まで縮こまっていたのかもしれない。


「ごめん。目が覚めたわ」

「そう、良かったわ。決断できた?」


「ええ。シャーロット、悪いけど貴女のうちに寄せさせてくれない?」

「もちろんよ!もう貴女を迎える準備はできているのよ」


悠長に考えている時間はない。

ヘンリー様が牢から出されたら、またこの家に戻ってきてしまう。

素早く周りを見渡し、どの荷物を持って行くべきか、頭の中で算段をつけた。


「決断してくれてよかったわ。貴女の意思を確かめたら、連れてくるように言われていたの」

「え?」

「主人。馬車を待機させて、外で待ってるわ」


「・・・・・・・・・ありがとう」

「主人だけじゃないわ。貴女の力になってくれた人がいたのよ」


「私に?誰がそんなこと・・・」

「騎士団の上司って聞いたわよ。法律の専門家を手配してくれたそうよ」


(・・・・・・・・・誰かしら?)

騎士団の上司だなんて、過去を振り返っても、記憶にない。

一瞬だけアンナ様の顔が浮かんだが、そんなわけはないと頭を振った。


誰であろうと構わない。

助けてくれる手があるなら、迷わず掴むだけだ。


「ちょっと待ってて。ハリソンと私の荷物をまとめるわ」


荷物を手早くまとめる。

普段、物を気軽に買える暮らしではない。

どうせ大した荷物はないのだ。


最後に、テーブルの上に、ヘンリー様からもらったブローチと指輪を置く。

結婚指輪と婚約指輪は、モイン商会で二人で選んで買ったものだ。

あの時は、本気で幸せになれると信じていた。


「ねぇ、せめて婚約指輪だけでももらっておけば?」

「いいのよ。持っていても仕方がないし」


遠慮がちにシャーロットが声をかけてくるが、私は首を振った。

以前、生活費の足しにしようと、こっそり質屋に持って行ったことがある。

買った時はそれなりに高かったが、どうやら模造品だったらしく、二束三文の値しかつかなかった。


もちろん、ブローチも模造品だった。

本物だと勘違いし、舞い上がっていた私は、救いようもなく愚かだったのだ。


「そう?勿体ないわね」

「大丈夫、代わりにこれをもらうわ」


ダニエル様から結婚祝いにもらった置き時計を鞄に入れる。

結婚祝いの品だ。

私にももらう権利はある。

ほかの家財道具はすべて置いていくのだから、これくらい手元に残してもきっと許されるだろう。


「綺麗なエメラルドね」

「そうでしょう?これを売れば、当面の生活費にはなるわ」


「え?売るの?」

「ええ。もう私には、必要ないものだから」


どれほど美しく、心を潤してくれるものでも、今の私にはもう意味がない。

目に映る宝石も、華やかな装飾も、心を温めることはできない。

必要なのは、生活を立て直すための現金と生き抜く力だけだ。

手元にそれがなければ、私とハリソンの未来は崩れてしまう。


(・・・・・・シャーロットには、わからないわよね)

手を頬にあてて、気遣わし気に見てくるシャーロットの指には、美しいエメラルドの指輪があった。

シャーロットの夫のフレディ様が、昔、アスター商会で買って贈ったものだ。


『フレディ様がこんな高い指輪を買ったせいで、デートもままならないのよ!』


惚気半分、愚痴半分でシャーロットが見せに来たのを覚えている。

お人好しで、私が頼りないと判じたフレディ様は、今や後輩たちから頼れる副隊長として慕われている。

自分の、人を見る目のなさを痛感してしまう。


指に嵌った宝石同様、シャーロットの人生は輝いたままだ。

フレディ様に大事にされ、愛されている彼女は、ますます美しくなるばかりだ。

一方、紛い物で身を固めた私は、どんどんくすんでいく。

学院を卒業した時には、ここまで差がつくとは夢にも思わなかった。


「今からハリソンを起こしてくるから、ちょっと待ってて」

「ええ、わかったわ」


薄暗い部屋の扉を開ければ、ハリソンが安らかな寝顔で眠っていた。

この小さな命を守るためなら、どんな困難も乗り越えられる。

私の覚悟は、もう迷いなく決まっていた。


自分のことなど、どうでもいい。

落ち込んだり、後悔している暇などない。


肩の力を抜き、拳を固める。

蔑みの視線も、冷たい眼差しも、もう私を傷つけはしない。

ハリソンのためなら、どれだけ頭を下げようと、どんな屈辱を味わおうと構わない。


胸の奥で、久しぶりに闘志が燃え上がるのを感じた。



お読みいただき、ありがとうございました。

ブクマ、評価、誤字の指摘をしていただきありがとうございました。


赤毛は、劣性遺伝です。

両親が金髪でも、両方が赤毛の遺伝子を持っていれば、子どもに赤毛が現れる可能性はあります。


次回はヘンリー視点「誘い」を投稿予定です。

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