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婚約破棄されたら幸せを拾いました  作者: 夏つばき


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146/153

146 転落

作中のヘンリーの発言には、差別的に感じられる表現があります。

物語上の演出としてご理解ください。


(俺を見ないなら、向かせてやるだけだ!)

だが、俺が怒りに任せてアンナの肩に手をかけた瞬間、腕を捻り上げられた。


「痛っ!」

「いい加減にしろ、ヘンリー!」

「痛いって!おい、放せよ!!」

「放すわけないだろう!」


俺の腕を捻り上げているダニエルの瞳には、怒りが宿っていた。

こいつが、こんな感情を表に出したことなど今まであっただろうか。


「何すんだよ!ちょっとアンナと話をするだけだろ!?」

「アンナ様は、話すつもりはないと言っている」

「はぁぁ!?関係ないお前が割り込んでくるなよ!これは、俺とアンナの話だ!!」


誰にでもいい顔をするこの男が、俺にだけ負の感情をぶつけてくる。

アンナは、それを見ていながら止めようともしない。

俺を粗雑に扱うこいつらに、胸の奥から苛立ちが込み上げてきた。


「妃殿下は、その先にいらっしゃいます!」


(誰だよ!?)

押さえつけられた腕を振りほどこうとした瞬間、廊下の奥からバタバタと慌ただしい足音が飛び込んできた。

目を血走らせて現れたのは、王弟だった。

その後ろには、騎士たちがなだれ込むように続き、最後尾にはさっきの侍女の姿も見える。

どうやら、俺とアンナを気兼ねなく話させるためではなく、王弟を呼びに行ったらしい。


「アンナ、大丈夫か!?」

「アルバート!」


互いに名を呼び合い、駆け寄るその様子に、俺の苛立ちは頂点に達した。

だが、苛立ちを現す暇もなく、周囲は騎士たちの壁で埋め尽くされた。

見知った顔ばかりなのに、俺を見つめる目は冷たく、鋭く、まるで凶悪犯を追い詰めるようだった。


「あ、いや、俺は特に何も・・・」


さすがにまずいと思い、慌てて臣下の礼を取ろうとした。

だが、ダニエルが腕を放さず、俺は思うように動けない。


「ダニエル、放せよ!」

「いいから、そのまま跪け!」


(・・・・・・・・・痛ぇよ!)

言うことを聞かない俺に苛立ったのか、体重をかけられ、まるで罪人のように地面に跪かされた。

跪かされた膝は、遅れて痛みを主張し始めた。


ダニエルに捻り上げられ、身動きが取れない俺は、まるで悪漢扱いだ。

あの無表情な王弟が、意外にも表情を変え、アンナの様子を気遣うように声をかけている。


「大丈夫か、アンナ」

「ええ。来てくれて、ありがとうございます」


(そんな態度を取るなよ!)

アンナめ、王弟に安心したような笑みを見せ、身を寄せやがった。

まるで悪漢から逃げるかのように身を寄せるその仕草に、俺の苛立ちは限界を超えた。

おかげで、俺を悪人と決めつけた王弟は、すごい形相で俺を睨みつけてくる。

どう考えても分が悪い。


胸の苛立ちを押し殺し、必死で下手に出た。


「な、なにもしていませんよ」

「嘘を言うな。アンナ様に触れようとしたじゃないか」

「そんなことはしていない!」


「ち、違います!ダニエル様の言うことが正しいです!」

「クララ、お前は何を言うんだ!?」

「お、お嬢様に触れようとしたのを、わ、私も、見ました!」


身分違いの女が、分をわきまえず口を出した。

俺が鋭く睨みつけても、クララは怯えたまま、それでも訴えることをやめなかった。

この小賢しい中年女は、俺を完全な悪者に仕立てあげるつもりらしい。


その言葉を聞いた瞬間、ただでさえ恐ろしかった王弟の目に、はっきりとした殺気が宿った。

怖さのあまりちびりそうになり、尻と腹に思い切り力を込めて堪える。


「どういうことだ」

「あ、いえ、その、アンナ様に話を聞いていただこうと思いまして・・・」


「まず、お前がアンナに話しかけること自体不敬だ」

「は、は、はい・・・。でも、どうしても聞いていただきたいことがあったものですから」

「不敬罪が適用される危険を承知の上で、いったい何を聞いてほしかったのだ?」


腕組みし、鋭い視線で詰問する王弟は、圧倒的な威圧感を放っている。

あまりの恐怖に、手足の先まで震えが駆け巡った。

騎士たちも、俺と同じく恐怖に震えるかのように肩をすくめ、主人を見上げていた。


「いえ、その、個人的なお願いがあったものですから・・・」

「ほう。一介の騎士が、私の妃に個人的お願いとはな。言ってみろ」


(怖い怖い怖い怖い!!!)

金に困って、慰謝料を返してほしいとは恥ずかしくて口に出したくなかった。


だが、ここで黙れば、よからぬことを想像されて、罪に問われそうだ。

王弟が嫉妬深いという噂は、騎士たちの間でまことしやかに囁かれていた。

どうやら噂は、少しも誇張ではなさそうだ。


「えっと、あの、その、アンナ様に慰謝料としてお支払いしたお金をお返し願えたらと思いまして・・・」

『はぁっ?』


(今、声を上げた奴は、誰だよ!?)

他人に、しかも顔を知っている同僚たちの嘲るような声を耳にし、思わず頬が赤くなる。

恥ずかしさと悔しさが入り混じり、必死でアンナに助けを求めるように目を向けたが、アンナは微動だにせず、冷たく無表情に佇んでいた。


「自分のせいで婚約を破棄したのに、慰謝料を返してほしいと言いに来たのか」

「あ、は、はい。その、借金して渡した慰謝料のせいで、生活するにも金が足りなくて・・・」

「自業自得だろう」

「い、いや、父からの援助もなくて、本当に生活が苦しいんです」

「お前は、いつまで親の脛をかじるつもりなのだ?妻子もいるいい大人なのだから、自立すべきだろう」


「・・・ぷっ」


(・・・・・・今、誰か笑ったか!?)

失笑を隠すかのように、慌てて俯く奴を目の端で捉えた。

後で痛い目を見せねば、気が済まない。


笑いが引き金になったのか、周囲から「だっせぇな」「子どもかよ」と嘲る声が飛び込む。

思わず睨み返すが、白けた瞳で見返され、顔が熱くなるのを止められなかった。


だが、ここで引けば、すべてを失う。

何を失っても、目的だけは達しなければならない。


(金だ!金が要るんだ!!)

借金の取り立ては容赦なく迫ってくる。

美味しいものも食いたいし、酒場の女とも遊びたい。

着飾って、羨望の眼差しを向けられる側でいたい。


それなのに、騎士団も首になりそうだ。

金がなければ、これから先の人生は終わりだ。

世の中、すべて金さえあれば、うまくいくのだ。


(・・・・・・王弟に訴えても無理だな)

ここはお人好しのアンナに訴えるべきだと、アンナに顔を向ける。

妃としての立場上、俺に冷たく振る舞っているのだろう。


しかし、アンナの本質はよくわかっている。

こいつは、ちょっとの同情で、すぐに動くタイプだ。


「こ、こ、こ、子どもが!子どもに金がかかるんだよ。アンナならわかってくれるだろう?男の子だからさ、教育に金をかけてやらないといけないんだよ!」


わざと悲痛な表情を作る。

長年付き合ってきた俺を、そう簡単に切り捨てられるわけがない。

そして、子どもを盾にすればアンナは断れない。

こいつは、子どもや年寄りなど、守るべき弱者に弱い。

そんな読みのもとで、俺はその瞳をじっと見つめた。


「今5歳なんだよ!ハリソンって言うんだ!かわいい子なんだよ。子どもの可能性を伸ばしてやりたいんだ!」


同情でもなんでも、アンナから金を引き出せれば、それでいい。

自分の手持ちを削ってまで、セオドアたちの給与を確保していたアンナ。

こんな人間、なんだってしてくれるに決まっている。


「学ばさせてやりたいんだ!俺が学院で勉強できなかった分、ハリソンには学をつけてやりたいんだよ!でも、このままじゃ家庭教師もつけられない!!なっ、アンナだけが頼りなんだ、頼むよ!!!」


「・・・・・・・・・・・・」


アンナの目が、戸惑うように揺れた。

「よし、これはいけるはずだ」と、心の中で快哉を叫んだ。

案の定、王弟が眉を顰め、口を開こうとしたところを、アンナは優しく手で制した。


「ヘンリー様の事情は、わかりました」

「わかってくれたのか!?」


「ええ。ただ、いただいた慰謝料はもう使ってしまったので、お返しすることはできません」

「は?王族だろう?1千万ゴールディくらい・・・」

「私は王族に嫁いだ身ですから、個人で贈与はできないのです」


「なんだよ、それは・・・」

「王族が使える金額は、身分に応じて決められています。とはいえ、その大半の使い道は、法律で厳しく決められているのです」

「そんなの、アンナの裁量でどうだってなるだろ?」

「もちろん、個人で使える分もありますが、他人に贈るなんてことは、まず認められないでしょう」


「そんな、他人だなんて・・・」

「他人ですよね。婚約を破棄した瞬間、私とヘンリー様との関係は消え去りました」


アンナの感情のない声に、心が冷えた。

婚約を破棄しても、俺への特別な想いはあると思っていたのに。


だが、それでも、まだ打つ手は残っている。

子どもを思う親を装い、同情を引くのだ。


「そんな・・・」

「でも、お子様のことは気の毒に思います」

「だったら・・・!」

「この春から、経済的に厳しい家庭でも教育が受けられるよう、教育機関を新設しました。もちろん費用はかかりません。資格は、この国にいる6歳以上のお子様が対象です。ぜひお子様を入学させてあげてください」


「で、でも、学院に入るためには、家庭教師について勉強しなければ入れないじゃないか!」


「家庭教師のように、一対一で教わるわけではないため、ご心配かもしれませんが、それでも十分に学びを得られると信じています」

「でも、たとえ学力がついても、学院に行くには金がかかる!」


「学院に行くだけが、すべてではないですよね?」


(学院に入学さえしていないお前が、言うことじゃないよな!)

アンナの、俺を憐れむような瞳に、チリリと胸を刺す痛みが走った。

その台詞は、学院を卒業した者が謙遜して言うから様になるのだ。

行っていない奴が言ったって、負け犬の遠吠えにしか聞こえない。


「学院には、必ず行く必要があるだろ!社会に出たら扱いが全然違うってこと、アンナだってよくわかっているはずだろ!?」


「そうかもしれませんね。なので、特待制度を設立しました。優秀かつ熱意があると認められた者は、学院での学費を全て免除します」


「だ、だ、だ、だけど・・・・・・」

「条件はありますが、奨学金の制度も新設しました。これで、生活費の心配もありません。努力さえすれば、学べる環境は整えました」


(・・・・・・それだと、俺に金が入ってこないだろ!)

ハリソンの教育資金というのは、建前だ。

俺は、自分で自由に使える金が今すぐに欲しいのだ。


どうやってアンナから金を引き出させようかと考えていると、アンナは驚くべきことを口にした。


「貴族、平民の区別なく同じ内容を学べるので、ご安心ください」

「は?貴族、平民の区別なくってどういうことだ!?」


俺の剣幕に驚いたのか、アンナが身を引くと同時に、王弟が庇うように前に立った。

仕置きと言わんばかりにダニエルが俺の手をきりきり締め上げるせいで、涙が滲みそうになる。


「そのままの意味だ。新たに設立された教育機関では、貴族、平民の区別なく同じ教室で学ぶ」

「はぁ?俺の息子を、薄汚い平民の子と机を並べて学ばせろだと!?」


頭に血が上り、思わず叫んだが、王弟は俺を蔑むように目を細めた。

慌てて、取りなすように言い訳をする。


「あ、いや、さすがに平民と一緒というのは・・・」

「お前は、平民だろう?」


「え・・・・・・?」

「『平民』と馬鹿にするが、お前も『平民』だ」


「俺が・・・・・・、平民?」


頭が真っ白になり、自分が何を言われたか、理解が追いつかなかった。


「ヘンリー、実家は伯爵でも、お前個人は法的には『平民』だ。ホランド家はボビー様が継いだし、お子様もいる。ぺラム家は一代限りの男爵だったし、お前が継ぐ爵位はないんだ」


固まった俺が理解していないと思ったのか、ダニエルは子どもに解説するかのように囁いた。

ぎぎぎ・・・と回せるかぎり首を回して、ダニエルを睨む。


「偉っそうに言うなよ!俺は、伯爵の血を引いてるんだ!!これまで付き合ってきた人間だって、貴族ばかりだ!!!」


「おや。伯爵の血とは、恐れ入りましたね」


(誰だよ!)

どこに隠れていたのか、王弟の腰巾着がひょっこりと顔を出した。

微笑みを浮かべたライアンが俺の前に進み出ると、王弟はわずかに眉を顰めた。

しかし、口は開かず、冷たい視線だけを俺に注いでいる。

周囲の騎士たちは、一瞬だけ、事態のまずさを悟ったような顔をした。


「ですが、貴族も平民も、個人の資質に優劣などありません。身分ではなく、ご自身に自信を持たれてはいかがですか?」


「お前が持ってないからって、僻むなよ!」

「おや、ご存じなかったのですか?私は、遡れば王家の血を引く公爵家の人間ですがね」


「は?」

「まあ、公言はしていませんので、もしかするとお気づきではなかったのかもしれませんね。そんな『血』なんてものに頼らなくても、私の優秀さは、周囲が認めていることです。そうですよね、皆さん?」


ライアンが周囲に視線を走らせると、騎士たちは緊張を走らせながら、一斉に姿勢を正した。

まるで統率されるかのように、首を揃えて縦に振る。


ライアンは周囲の様子を満足そうに見渡すと、視線をゆっくり俺に移した。

その眼差しには、わずかに挑戦めいた色が混じっていた。


「私でしたら、自分には生まれ以外の価値がないと告白するような真似は、恥ずかしくてできません。誇れるものが他にないからこそ、『生まれ』に頼るのですね?」


「うっ、うっせーよ!この、キツネが!!」


「それは私の容姿を揶揄したつもりですか?それとも、『虎の威を借るキツネ』になぞらえて、私を嘲笑なさったのでしょうか?」


「は、は、はぁ?じ、自分で考えろよ、この馬鹿!」


「では、諺の方だと仮定して。確かに幼少期には、陛下に弟のように可愛がってもらい、あのイザベラ様とは親友ですからね。まあ、借る威は、『虎』どころではないですけどね」


「な、な、な・・・!」


「ライアン」

「ああ、アルバート殿下のことを忘れていたわけではありませんよ。もちろん、殿下とも、子どもの頃から仲良くさせていただきました」


「だ、だ、だから、どうした!」

「ええ、本当に『だから、どうした』ですよね。貴方と同じ基準で語っただけです。血筋と、周囲の環境について」


(・・・・・・・くっそ、ムカつく!!!)

眼鏡を押し上げる、あのわざとらしい仕草がどうにも鼻につく。

一切の逃げ場を許さないライアンに、怒りと屈辱で身体がブルブル震え、思わず息を荒くする。

そんな俺を、眼鏡の奥の瞳で冷たく嘲笑う。


「ああ、ちなみに、実家の公爵家は兄が継ぎましたが、私個人は伯爵としての権利を有していますよ」


「う、う、う、うっせーよ!!!」

「都合が悪くなると、怒鳴って自分の優位性を確保しようとする。『弱い犬ほどよく吠える』とは、まさに貴方のことですね」


(このわざとらしい口調!)

俺を馬鹿にするために、わざわざ丁寧に喋りやがる。

殴り倒してやろうと必死に手を振り解こうとするが、ダニエルの拘束はびくともしない。

それどころか、ダニエルは俺の耳元で、まるで子どもを諭すかのように囁いた。


「ヘンリー。これ以上、ライアン様に逆らわない方がいい」

「うるせぇ!俺を放せよ!」

「お前のためだ。大人しくしろ」

「うっせーよ!お前こそ、黙ってろよ!」

「ヘンリー!」

「黙れよ!平民!俺に指図すんな!!お前なんて、爵位が回ってくることなんて絶対にない、子爵家の七男だろ!!この、ど平民が!!!」


ダニエルに向かって怒鳴った瞬間、ライアンの顔ににやりとした笑みが広がった。

罠にかかった獲物を見るような笑みに、嫌な予感が走る。


「ダニエル様は、我が国の経済発展に貢献なさったとして、昨年伯爵位を叙爵されましたよ」


「・・・・・・・・・え?」

「それもご存じないとは恐れ入りましたね。ご自分の出自を誇る前に、もう少し周囲に気を配ったらいかかですか?」


この場にいる全員が、その事実を知っていたのだろう。

誰も驚く様子もはなく、静かに立っていた。

アンナに目を遣ると、眉を顰めて俺を見つめるだけで、何の感情も示していなかった。


「・・・・・・・・・・・・ああ、そうか。アンナ、お前だな!?」

「ヘンリー様?」

「お前は、俺を恨んでいるんだな!俺が婚約を破棄したからな!だからか!だから、お前に親切にしたダニエルは伯爵にしてやって、俺には首をということか!!!」


「ヘンリー様は、騎士団を首になったのですか?」


アンナは驚いたように手を口に当てたが、白々しい。

手の奥の口元には、きっと満足げな笑みが浮かんでいるに違いない。


「ああ!そうだよ!俺が出世しないのも、首になったのも、すべてお前のせいなんだろ!全部お前が、王弟に頼んで裏で糸を引いてんだろ!?」

「ヘンリー、いい加減にしろ!」

「うるせぇよ!」


ようやくカラクリがわかった。

俺の不幸は、すべてアンナのせいだ。

アンナが、王弟の妃になったからだ。

ダニエルに押さえつけられて身動きは取れないが、唾を飛ばしながら、必死でアンナを罵った。


「お前が、俺の人生を壊したんだ!金がないのも、ルナとの結婚生活がうまくいかないもの、全てお前のせいだ!!!」


「え・・・・・・?」

「返せよ!俺の人生を返せよ!!お前のせいで、俺の子どもまで不幸になるんだ!!お前が王弟なんかと結婚しなければ、すべて上手くいってたんだよ!!!」


王弟が、静かに手を上げた。


「聞くに堪えん。連れて行け」

「はっ!」


騎士たちが一斉に動き出す。

俺の腕をさらに強く押さえつけられ、抗うことすら許されない。

恐怖で胸が張り裂けそうになり、思わず喚き散らした。


「あ、おい、何すんだよ!くそ、放せよ!俺を誰だと思っているんだ!?ホランド家の息子だぞ!!親父に言いつけるぞ!!!」

「・・・・・痛い思いをしたくなければ、静かにしてください」


(・・・・・・誰だ!?)

知った声に顔を向けると、そこには昔、俺が散々いいようにこき使っていたフレディだった。

わざとなのか、腕をギュッと強く掴まれ、思わず息が詰まった。


「貴方に手酷い扱いを受けた者は多い。大人しく捕縛されなければ、どうなるかわかりませんよ」


「な・・・!」

「上官にわからないように痛めつける手段は、貴方から習いました」


誰にも聞こえないように囁かれ、背筋が凍りつき、思わず動きを止めた。

恐る恐る顔を覗き込むと、俺が軽く扱っていた男は、いつのまにか鋭い視線を持つようになっていた。


自分が新人たちをどう扱ってきたかは、よくわかっている。

冷や汗が滲む手を、フレディが鮮やかな手際で縛り上げていく。


「あ、ちょっ、ちょっと、待てよ。俺、何もしてないだろ!?」

「王族へのつきまといは、不敬罪にあたりますよ」


「つ、つきまといだなんて、俺はしてないぞ!ただ、アンナと話をしていただけだ!」

「敬称を省くのも、立派な不敬罪です」


「は?だ、だって、アンナだぜ!?アンナは、子爵家だろ!?」

「アンナ様は、王弟であるアルバート殿下の妃ですから、当然王族にあたります」

「ま、待てよ!そんなの、俺、知らなかったし!」

「『知らなかった』で済むのは、子どもだけです。貴方の主張は、取調室で聞きます」


喚く俺を無理やり立たせると、かつての仲間たちが引きずるように連れて行く。

誰一人、目を合わせようとしなかった。


最後の望みで、アンナが助けてくれないかと必死で首を回した。

しかし、その瞳には何の感情も浮かんでおらず、思わず背筋がぞっとした。


きっとアンナは、俺がこの先どうなろうと、手を差し伸べることはないだろう。

なぜか、そのことだけは、はっきりとわかった。


アンナとの縁は、完全に切れたのだ。

縁を切られた俺は、これからどうやって生きていけばいいのだろう。

これから自分の辿る道を思うと、ひどく恐ろしく、身体の震えが止まらなかった。



お読みいただき、ありがとうございます。

ブクマ、評価、誤字の指摘をしていただき、ありがとうございました。


次回は「ルナの覚悟」を投稿予定です。

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